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相場の天井は“数字”ではなく「雑な物語」から始まる──Goldmanが警戒する3つのサイン

「強気相場の天井は、いつも“物語”から始まる」──Goldman Sachsのチーフ・エコノミスト、ヤン・ハチウス氏と、米国株ストラテジストのベン・スナイダー氏が、Bloombergのポッドキャスト「Odd Lots」(収録:2025年12月19日)で語ったのは、2026年を占うための“数字”と“行動心理”の両方でした。株価が上がる理由が、利益(earnings)ではなく、「こじつけのナラティブ」で説明され始めた瞬間こそ、警戒サインになる。今回の対話は、その見取り図をかなり具体的に示しています。


1. 2025年は「バブル」と呼ばれつつ、実は“熱狂が薄い”相場だった


スナイダー氏は、近年の市場をこう評します。「バブルと呼ばれがちだが、最近史の中でも熱狂が小さい市場の一つ」。ポイントは、株価が利益から乖離して“夢”で買われているというより、少なくともここまでは「利益が伸びたから株価も上がった」側面が大きい、という整理です。

1-1. 「価格が利益を先回りして走る」兆候は、会話の中に出る

象徴的なのが、GLP-1(肥満治療薬)をめぐる“飛躍”の例。
スナイダー氏は、「薬で体重が減る→燃料消費が減る→航空株を買う、という話が一瞬出た」と振り返り、「こういうナラティブが会話に出始めたら、価格が利益を先回りして走り始める合図」と述べます。

つまり、定量データより先に、投資家の“説明欲”が先行したら危ない、という行動ファイナンス的な観察です。

2. 2025年の株高を支えたのは「利益成長」だった


「AI相場=一部メガテックだけ」と見られがちですが、スナイダー氏は“広がり”を強調します。S&P500の利益成長は直近決算で約12%、メガキャップを除いても中央値で約10%と説明し、S&P“上位以外”(S&P490/493)も3年連続でおおむね15%程度のリターンを出してきた、と述べます。
ここで重要なのは、市場が“期待だけ”で持ち上がったというより、実際に企業収益がついてきたという評価です。

2-1. メガテックが鈍った理由は「AI投資の減速」と「負債の匂い」

一方、AI銘柄の一部が足元で弱含む背景として、スナイダー氏は次を挙げます。

  • AI投資(CapEx)の成長が「来年は減速しそう」

  • さらに伸ばすには「より多くの負債が必要になりそう」

この2点が投資家心理を冷やした、という見立てです。熱狂のピークではなく、“投資の資金繰り”が問い直される局面に入った、ということです。

3. 「AIがGDPの半分を押し上げた」は誤解かもしれない


この対話で最も刺さる反論は、ハチウス氏の“AI=GDP牽引役”への強い否定です。
彼は、AI投資が米GDPを大きく押し上げたという見方に対し、理由を2つ挙げます。

  1. AI関連の投資財は輸入が多いため、投資だけを見てGDP寄与を語ると誤る

  2. 半導体は中間財として扱われやすく、投資統計にそのまま乗らない

結果として、過去3〜4年の寄与は「合計でせいぜい20bp程度」、直近1年は「ほぼゼロに近い」と述べます。
ここから導かれる教訓は明快です。“AIの盛り上がり”と“マクロ統計で観測される成長”は、同じ速度で動かない。

4. 2026年の景気:成長は堅いが、失業率は下がらない?


Goldmanの見通しでは、2026年実質GDP成長率は約2.6%でも、失業率は4.5%近辺でフラットという想定。

一見矛盾するこの組み合わせを、ハチウス氏は、「生産性の加速」で説明します。パンデミック後5年の基調的生産性は約2%で、以前のサイクル(約1.5%)より高い。さらに、「その加速にはAI要因がまだ十分入っていない可能性がある」とし、今後5年でAIが上乗せし得る、と語ります。

4-1. 生産性は“良いニュース”だが、短期的には摩擦失業を増やし得る

AIが雇用を壊すか、という問いに対し、ハチウス氏は歴史的には「長期で見れば、生産性上昇と恒常的な失業悪化の関係は見えない」としつつ、短期では、「摩擦的失業(職探しに時間がかかる)」が増え得ると認めます。
要するに、“総失業”より“職の移動コスト”が問題になる、という整理です。

5. 2026年の市場:S&P500目標と、警戒すべき“引き金”


GoldmanのS&P500目標は、「7676」。ただし、彼らがより重視するのは“当たる数字”というより、何が崩れの引き金になるかです。

5-1. ベンの警戒リスト:失業保険申請、FRBの方向転換、そして“雑な物語”

スナイダー氏は、具体的に次を挙げます。

  • 毎週の新規失業保険申請(「数週連続で上がれば不安」)

  • FRBが利下げではなく利上げに傾くシグナル

  • 投資家が「筋の悪い物語」で正当化し始める兆候(GLP-1→航空株のような飛躍)

この3つは、ファンダメンタル(雇用・金融政策)+心理(ナラティブ)のセットで“天井形成”を捉える枠組みです。

6. インフレと関税:数字の読み方は“統計の癖”まで含めて


CPIが予想より弱く出た背景について、ハチウス氏は、「家賃(シェルター)の扱いが過小評価になった可能性」を示唆し、単月比較のように素直には読めないと説明します。

また、関税については、2025年のインフレに約50bp寄与したとみつつ、それはVAT(付加価値税)的な「価格水準の一段上げ」であり、2026年には“巡回要因”として剥落し得る、という見立てです。

6-1. 企業が関税を吸収した“3つのレバー”

スナイダー氏は、関税でマージンが崩れなかった理由として、企業が

  1. 価格転嫁

  2. サプライヤーへの押し返し・サプライチェーン再編

  3. コスト削減・効率化

を使ったと述べます。ここでも、生産性の話と接続しているのがポイントです。

まとめ:2026年を読む鍵は「利益」+「雇用」+「物語の質」


この対話が示す2026年の核心はシンプルです。

  • 株は結局、割引された将来キャッシュフロー=利益が土台

  • その利益の前提を揺らすのは、雇用(失業率・失業保険申請)と金融政策

  • そして、天井の匂いは、データより先に、投資家の口から出る“雑な物語”に現れる

だからこそ、2026年に本当に見るべきは、派手なAIニュースよりも、木曜朝の失業保険申請と、決算で“AIの効果を定量化できる企業が増えるか”、そして市場参加者の会話が「利益の話」から「こじつけの話」に変わっていないか──その変化です。

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