最強の創業者は"オープンマインド×ディスアグリーアブル":ベンチマークGPが追求する人材像
本記事では、Benchmarkのゼネラルパートナー(GP)であり、モバイルゲーム企業の創業・売却を経て投資家に転身したビクター・ラザルテ(Victor Lazarte)氏のインタビュー内容をもとに、AIがもたらす変革や優れた創業者像、そしてベンチマーク流の投資アプローチなどをわかりやすく解説する。ラザルテ氏は「ブートストラップ(自己資金)から世界規模の事業を立ち上げた」というユニークな背景と、投資家として数々の有望なAI企業に関与する両面をもつ人物だ。
本稿の狙いは、専門的な視点を交えながら、これからのAI時代におけるスタートアップ創業や投資家の在り方、さらには社会全体がどのように変化するかを俯瞰することである。
1. ラザルテ氏の背景と“ゼロからの”起業ストーリー
1-1. ブートストラップから得た学び
ラザルテ氏は2011年頃、モバイルゲーム会社をブラジルで創業した。当時はブラジルのVC市場が未成熟であり、出資の条件も「50,000ドルで株式の半分」や「20倍リクイデーション・プファレンス(清算優先権)」など、起業家にとって極めて厳しいものが多かったという。
そのため外部資金を諦め、自らの資金で事業を軌道に乗せるブートストラップ戦略を取った結果、モバイルゲームが急成長。最終的には40億回以上のダウンロードを獲得し、年間3億5,000万ドル規模の売上を上げる企業へと成長させた。
彼自身「当初からブートストラップでやりたかったわけではなく、そうせざるを得なかった」と率直に語るが、同時にこうした過程で得た実践的な経営ノウハウが、後の投資家としての視点を育んだようだ。
1-2. 市場を読む“現在”志向とタイミング
ラザルテ氏が強調するのは、「予測不能な未来より、伸びている“現在”を見極めることが重要」という点だ。
たとえば、モバイルゲームを選んだ背景には「2008年から2009年の一年で、モバイルアプリのダウンロード数が42倍に急増していた」という市場データがあった。その際「将来こうなる」という大風呂敷ではなく、「すでに顕在化している急成長分野に、自分の情熱(ゲーム)を掛け合わせた」ことが功を奏したという。
同じ理屈で「インターネット黎明期にはAmazonやGoogleが誕生し、モバイル全盛期にはUberやInstagramが生まれ、今はLarge Language Model(LLM)の爆発的普及が起きている」とし、「最良のタイミングとは、既に急伸している分野で起業すること」なのだと語る。
2. AIがもたらすインパクトと“人間の置き換え”問題
2-1. 「AIは人を拡張する」の真偽
大企業が打ち出す「AIは人を拡張する(Augmentする)だけで、置き換えるわけではない」というメッセージに対し、ラザルテ氏は「これは嘘だ」と断言する。
実際は、大量の知的労働が「丸ごとAIに置き換わる」可能性が高いというのだ。単なるツールの枠を超え、リサーチ、ドキュメンテーション、面接や採用支援のような領域においても、既に人間を凌ぐアウトプットを出し始めている。
彼曰く、AIが出す解答・提案の品質やスピードが向上し続ける以上、多くの「現在はPCの前で知的作業をしている人々」の仕事が変容、あるいは消失するインパクトは避けられないという。
2-2. 知的労働の未来と格差拡大への懸念
一方で、「企業価値はさらに高まる」と指摘する。なぜなら、同じ成果を出すために必要な人件費が大幅に下がり、より高収益な企業が続々と生まれるからだ。
これは株主や創業者にとっては恩恵となる一方、労働市場全体の変化は「富の偏在や格差拡大」という深刻な社会問題につながる可能性がある。
ラザルテ氏は、「すべての知的労働が10年後も今と同じ姿では残らない」とし、既存の職業構造が劇的に変わると予想する。同時に、新たな仕事や新興企業が次々と生まれることで、経済的には豊かさが増すとの見解も示している。
3. 優れた創業者に共通する「3つの要素」
3-1. 強力な「オープンマインド」と「ディスアグリーアブル」
インタビューのなかでラザルテ氏が特に繰り返すのは、優れた創業者に見られる特徴だ。なかでも注目されるのが以下の要素である。
1. オープンマインド(Open-minded)
他者の意見を積極的に学ぼうとし、好奇心をもって耳を傾ける態度を持つ。
2. ディスアグリーアブル(Disagreeable)
「同意を求める」より、「自分の信念を貫く」強さがある。学びはするが、必要な場面では躊躇なく反論し、周囲を納得させようと動く。
通常、オープンマインドな人は衝突を避けがちで「物分かりのいい人」という印象を与える。一方で、同時にディスアグリーアブルな人は周囲に迎合しづらく、一見すると衝突も生む。両立しづらい2つの資質を高いレベルで兼ね備えているのが、彼が「最高の創業者」と認める人材だという。
3-2. 専門分野への異常な没頭
もう1つの特徴として、「自由時間に何をしているかを尋ねるとよい」とラザルテ氏は語る。
たとえば、ある創業者はひたすら技術や業界研究を楽しみ、収益に直結しない“遊び”の領域でもどんどん試作や調査を続ける。興味や疑問を見つけたら深掘りして学び切る――いわば「仕事が趣味と完全に一体化している」のだ。
こうした「異常なほどの没頭」が大きな成功へ結びつきやすいとし、投資判断の際も「創業者がプライベートでどれほど夢中になれるか」を重視するという。
4. Benchmark GPでの投資アプローチ
4-1. 「ガバナンス」から「創業者のサポート」へ
Benchmarkは伝統的に「少数精鋭で企業に深く関わる」ことで知られており、「ガバナンス(リスク管理)」よりも「創業者の野心を最大化する」ことを重視する。
ラザルテ氏いわく、「資金が潤沢になった現在においては、投資家の役目は『価値毀損を防ぐ』より『価値を最大化する』こと」にあるという。創業者がアイデアを膨らませ、意思決定を加速させるための「思考のパートナー」となる姿勢を貫いている。
4-2. 初期段階へのこだわりと“巨大ラウンド”への柔軟性
ベンチマークは元々、小ぶりなラウンドや“シリーズA”にフォーカスするイメージが強い。しかし近年のAI分野では、創業初期にもかかわらず5,000万ドル規模の調達を要するケースがある。
ラザルテ氏自身、初めての投資で5,500万ドルのチェックを書いたと明かし、「ファンドサイズはあくまで目安であり、本質は創業者との緊密なパートナーシップをどこで築けるかだ」と強調する。調達金額が大きくとも、企業が早期かつ飛躍的に成長しうるなら、フレキシブルに対応する方針を示している。
5. 近未来の展望:AI時代に求められる視座
5-1. AIコンパニオンとの共存
ラザルテ氏は今後、「私たちが朝起きて最初に見る“AIアプリ”が、日常のあらゆる決断を助ける存在になる」と予想する。具体的には、「何をすべきか」をAIが提案し、それを人間が“ほぼ無条件”で受け入れるようになるかもしれないという。
「テクノロジーが人間を支配する」というとディストピア的だが、「実際には忙しさや孤独から解放され、幸福に近づく人が増える可能性が高い」とポジティブに捉えている。
5-2. 民主主義へのインパクト
一方で、AIによる急激な効率化が「格差問題」や「政治的混乱」を招く懸念もある。
しかしラザルテ氏は、「AIの大衆化によって、有権者が極めて正確な情報に瞬時にアクセスできるようになる」とし、その結果として新たなポピュリズムや富の再分配の動きが強まる可能性があると語る。
また、中国の存在がアメリカの内部対立を緩和する“統一の外圧”になるのではないか、と言及しており、国際的なAI競争が政治・経済を加速的に変化させると予測している。
5-3. トリリオンダラー企業の誕生と投資機会
「今後3年以内に、誰かが創業するAI企業が時価総額1兆ドル(約130兆円)を突破する」――ラザルテ氏は、こう明言する。
これほどの超巨大企業が生まれるチャンスが到来しているからこそ、AI関連のラウンドに高いバリュエーションが付いても「結果として勝ち組をまとめて買えばリターンが大きい」と見込む声があるという。
ただし、「モデルが進化すればするほど価値が下がるビジネス」も多数あるため、投資家としては「強い defensibility(防御力)」を持つ企業を見極める眼力が求められる。
ビクター・ラザルテ氏の起業体験と投資スタンスを総合すると、以下の点が浮かび上がる。
タイミングを読む力
ブームの先端に飛び込むより、既に急伸しているマーケットを“現在”基点で捉える。創業者の資質
オープンマインド×ディスアグリーアブル、そして異常なほどの没頭が真の差別化要因となる。AIの破壊的インパクト
善悪は別として、多くの知的労働が「置き換え」られる可能性が高い。そこにこそ最大の投資機会が存在する。小回りの利く投資アプローチ
ベンチマークGPのように「創業者に深く寄り添う少数精鋭モデル」は、巨大ラウンドが乱立するAI時代でも強みを発揮する。社会変革への洞察
格差拡大や政治変動の懸念がある一方で、個人の生活はAIコンパニオン等によって豊かになる可能性も高い。
ラザルテ氏は「技術の進歩によって富を手にする人が増え、企業はさらに強力になる」としながらも、「社会のルールをどう再定義するか」が大きな課題だと示唆する。しかし同氏自身、AI企業を共同創業し、さらに複数のAIスタートアップに深く関わることで、破壊的イノベーションのうねりをポジティブな方向に導こうとしている。
AIが日常の意思決定を支援し、人と人をつなぐ未来は「幸福に近づくチャンスでもある」と強調するのがラザルテ流のポジティブビジョンだ。われわれはこの新時代に備え、知的好奇心を絶やすことなく“現在”の動きを注視する必要があるだろう。
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