CES 2026で確信した:「AIは過去の技術革命を“凌駕する”」—CFO vs CIO、雇用の二極化、そして“VCが病院を買う”理由
CES 2026の会場で語られたのは、単なる「生成AIの次の流行」ではありません。All-In Podcastの公開ディスカッションで、司会のJason Calacanisは「過去30年のPC→インターネット→モバイル→クラウドのインパクトは、AIに比べれば小さく見える(dwarfed)」と挑発的に宣言しました。議論に加わったのは、McKinseyのグローバル・マネージング・パートナーであるBob Sternfelsと、General CatalystのCEO Hemant Taneja。Apple Podcasts上でも、この回は「AIが過去の技術革命を凌駕する理由:ロボット、製造、ARグラス」というテーマで整理されています。
以下は、この長尺トークの要点を「投資家・ビジネス視点」で噛み砕いた解説です。
1. 「AIは最大の社会変革」—“速さ”がすべてを書き換える
彼らが繰り返したキーワードは、変化のスピード(organizational speed / warp speed)でした。Tanejaは、ここ数年を「peak ambiguity(不確実性の極大)」と呼び、技術だけでなく地政学・産業政策・同盟関係まで同時に揺れている、と説明します。重要なのは、“作れるもの”が数年単位でなく、数週間〜数か月単位で更新されること。
投資の世界では、これが「価値創造の圧縮(compression)」になります。昔は「売上1億ドル到達まで何年?」が指標だったのに、いまは「到達が早すぎて比較軸そのものが崩れる」。この感覚が、次の話題(バリュエーションや産業再編)に直結します。
2. 10x成長と“バブルではない”論点—企業側の採用が燃料
TanejaはAI企業の急成長を、単なる期待値ではなく「実需の立ち上がり」として語りました。実際、著名VCが、「AIはインターネット級以上の基盤変化で、バブル論だけでは本質を外す」と主張する流れも出ています。
一方で、Sternfelsは、より“現場寄り”の見方を提示します。大企業はAIを使い始めたが、非テック企業で“価値をスケールさせる”のは想像以上に難しい。つまり、
導入は早い(PoCが乱立)
しかし、定着が難しい(ROIが出ない、組織が変わらない)
という「実装ギャップ」が最大のボトルネックになる。
3. CFO vs CIO—「止めたい財務」と「急げの技術」が衝突する
Sternfelsが示したのが、現代の経営会議で起きている“分裂”です。
CFO:「投資したのにROIが見えない。いったん止めよう」
CIO:「今やらないと破壊される。止めたら終わる」
この対立の解決策として語られたのは、AIを“ツール導入”ではなく、業務設計・組織設計のやり直し(reorg / change management)として扱うこと。言い換えると、AI投資はIT予算ではなく「経営モデル刷新」の予算になりつつある、という話です。
4. 「VCが病院を買う」—城を買って橋を下ろす戦略
最も刺激が強い論点がここでした。Tanejaは、General Catalystがオハイオ州Akronの医療システム(Summa Health)を取得した理由を、“スタートアップの市場アクセス(導入先)を自分たちで確保する”と説明します。これは「PE化」ではなく、AIで変革しにくい産業(医療など)を変えるために、導入の現場そのものを買う発想です。
このSumma Health買収は、複数メディアで追跡され、2025年10月に取引がクローズしたと報じられています。(VCが病院を買うという構図自体も大きな論点になりました。)
投資家目線で重要なのは、ここで起きている変化が「SaaSの販売競争」ではなく、産業構造そのものの書き換えだという点です。AIは“良いプロダクト”だけでは勝てず、導入・規制・現場運用まで握った者が強い。医療はその象徴です。
5. 雇用は“減る”より“割れる”—McKinseyの例が示す二極化
雇用の話は悲観にも楽観にも転びます。ただ、この議論が面白いのは「単純なリストラ」ではなく、同じ会社の中で“増える部門”と“減る部門”が同時に起きるという点。Sternfelsは、McKinsey内部でもAI活用により業務が再配分されていると語り、外部報道でも「人員(人間)とAIエージェントが混在する」実態が取り上げられています。
ここから導ける実務的な示唆は明確です。
初級業務(検索・要約・資料作成)は自動化が進む
その一方で、上流(問いの設計、意思決定、創造、顧客との共創)はむしろ重要になる
つまり、仕事は「消える」というより、“梯子の下の段”が薄くなり、上の段の価値が上がる。
6. 次の主戦場は“Physical AI”—自動運転、製造、ロボット、AR
後半の議論は、ソフトウェアから現実世界へ降りていきます。自動運転は「体験が先に普及する」一方、ロボット(特にヒューマノイド)はハードウェア供給と製造能力がボトルネックになり、普及は想像より遅いかもしれない——という見立てが出ました。ここで本質的なのは、AI競争が、「モデルの性能」だけでなく、製造・サプライチェーン・コスト曲線の戦いになることです。
そして、ARグラスは、Google Glassの“早すぎた未来”を引き合いに、「フォームファクターは改善しても、ユーティリティ(本質的な用途)が未成熟だと普及しない」という教訓として語られました。
7. まとめ—投資家・ビジネスパーソンが今見るべき3点
AI導入は“IT施策”ではなく“組織変革”:CFO vs CIOの対立は、経営モデル刷新でしか解けない。
勝ち筋はプロダクトより“導入経路”に移る:病院買収のように、現場・規制産業・流通を押さえる動きが増える。
雇用は二極化し、スキルは“問い・判断・共創”へ:AI時代の差は、知識量より「良い問いを作れるか」でつく。
この回が突きつけたメッセージはシンプルです。AIは“新機能”ではなく、産業の設計図を書き換えるプラットフォーム。だからこそ、過去の技術革命より大きく見える——彼らはそう主張しました。
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