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Q2T3の時代:BVP『State of AI 2025』

記事:

2025年のAIは、「ビッグバンから三年、ようやく“星雲”の輪郭が見え始めた」—Bessemer Venture Partners(BVP)の年次レポート「The State of AI 2025」は、こうした時代認識を提示します。BVPは、「クラウドはもはやAI抜きには語れない(There is no cloud without AI anymore.)」と断言し、成長指標(ベンチマーク)、インフラ/開発者ツールから水平・垂直アプリ、コンシューマまでの“銀河地図”、そして、向こう1–2年の予測を示しました。本稿は同レポートの要点を、具体例と引用を交えながら、創業者・投資家・事業責任者の実務に直結する形で読み解きます。


1. 「Q2T3」という新常識:SupernovasとShooting Starsが描く成長軌道


1-1. “最速級”Supernovasの現実

BVPが調査した「AI Supernovas」は、商用化初年度にARR約4,000万ドル、2年目には約1億2,500万ドルへと一気に伸ばす超高速スケール型です。一方で平均粗利率は、約25%(時にゼロ〜マイナス)と薄く、ARR/FTEは約113万ドルと極めて高効率ながら、スイッチングコストの低さや“薄いラッパー”批判が示すように持続性のリスクも孕みます。「眩しいデモが短期売上を押し上げても、真の価値を届けられなければ解約・低リテンションに直結する」—BVPの警告は、超速成長と単価・粗利・リテンションのトレードオフを突いています。

1-2. “安定成長”Shooting Starsという主役

対照的に、BVPが「この時代の主役」と位置づけるのがShooting Stars。1年目ARR約300万→4年目約1億300万ドル、平均粗利率60%、ARR/FTE約16.4万ドルと、高速かつ健全な単位経済性を兼ね備えます。BVPは、これを「Q2T3(Quadruple, Quadruple, Triple, Triple, Triple)」に象徴される新ベンチマークとして提示。SaaS時代の「T2D3」を上回る成長パターンで“二年連続4倍→三年連続3倍”を野心目標に掲げる潮流を描写します。

「スピードはかつてなく重要。生成AIにより製品開発・GTM・流通が一斉に高速化し、Q2T3は、“野心的だが達成可能”な目安になりつつある」

2. インフラの「第二幕」:MCP、オープンソース躍進、そして“評価”が差別化要因に


2-1. “問題を解く”から“問題を定義する”へ

BVPは、「AIインフラの第二幕」到来を宣言します。アルゴリズムの性能競争から、現実世界の文脈で“定義→測定→解決”を回すシステム設計へ。企業はPoCから本番運用へ卒業し、評価(evaluation)とフィードバックの継続ループを内蔵した複合AIシステム(RAG+メモリ+計画+最適化)が主戦場になる、と。

2-2. Model Context Protocol(MCP):エージェント時代の“USB-C”

この転換を支える基盤の一つがMCP(Model Context Protocol)。Anthropicが2024年末に提唱し、その後、OpenAIやGoogleも採用を表明した“AIと外部ツール/データを標準的に接続するオープン規格”です。BVPも、「MCPはAIのUSB-C」と位置づけ、永続メモリ/マルチツール/権限管理を備えたエージェントの実運用レイヤとして注目。設計思想と採用の広がりは、今後のワークフロー自動化と評価可能性を左右します。

2-3. オープンソース大躍進と“評価”のフロンティア

BVPは、Kimi、DeepSeek、Qwen、Mixtral、LlamaなどOSSモデル群の台頭も強調。特定タスクでは閉源に匹敵・凌駕する効率を見せる領域が増え、“原始精度の収斂”が進むほど差別化軸は「自社環境での評価可能性・説明可能性・再現性」へと移る、と指摘します。評価・フィードバックの新興ツール(例:Bigspin、Kiln、Judgment Labs)が注目を集めるのはそのためです。

3. 事例で学ぶ商用化:Intercomは“アウトカム課金”でAIネイティブへ


3-1. Finは$100M ARRへ:“結果に払う”価格設計

顧客対応SaaSのIntercomは、AIエージェントFinを軸にAIネイティブ企業へ変身。BVPの詳細ケーススタディによれば、Finは1件自動解決=0.99ドルというアウトカム課金を採用し、ARR1億ドル到達ペースに。「人間にエスカレーションされたら課金しない」という一文は、提供価値と収益の厳密な整合を体現します。

「もしFinが人へエスカレーションしたら、あなたは支払う必要はない」。—Intercom SVP of Engineering, Jordan Neill(要旨)

3-2. 組織とコードの再設計:“AIに書かせやすい”基盤へ

Intercomは、AI人材の集中配置やミッション駆動の小チーム(DRI制)に加え、フロントエンドをEmber→Reactへ全面移行し、自律コーディングエージェントまで導入。「AIが読み書き・リファクタしやすいコードベース」へ作り替えることで、開発速度を指数関数的に引き上げる戦略です。

4. ダークマターと競争圧:見えてきた“空白”と、巨人の逆襲


BVPは、AIブラウザやMCP周辺など、いまだ解像度の低い“ダークマター”領域を列挙します。同時に、有望テーマの競争相手は従来の2〜3倍に増え、SaaS大手が続々AIへ覚醒(自社でも$100M級AIプロダクトが登場)。今後はM&A圧力も強まると展望します。華々しい成長の裏側で、優位性の持続・スイッチングコスト・粗利回復といった“地味な勝ち筋”こそ問われます。

5. 2025–26の見通し:精度の収斂後、“評価”が覇権を決める


BVPの示唆は明快です。基盤モデルの生性能が収斂するほど、差別化の主戦場は「評価・運用適合性・再現性」へと移る。“企業環境でいかに動くか”をスケール可能に証明できるスタックが、次のインフラ覇者を生む。そして統合とM&Aが進み、AIネイティブの定石が確立していく。創業者・投資家に必要なのは、評価可能性と運用文脈を磨き上げる粘り強さです。

「生の精度が並ぶほど、真の差は“自社環境での評価をどうスケールさせるか”に移る」。—BVP「State of AI 2025」

結語


Q2T3のスピードに目を奪われつつも、勝敗を分けるのは評価・メモリ・文脈・価格設計といった“地味で折り目正しい”運用力です。MCPのような共通規格はエージェント実装の取引コストを下げ、Intercomのアウトカム課金は「価値と収益の一致」を鮮やかに示しました。“測れるAI”へ—これがBVPレポートの核心であり、次の12–24ヶ月を生き抜く実務者の羅針盤です。

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