日本スタートアップ躍進の背景:アルベルト・オネッティが語る成長戦略
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近年、日本のスタートアップエコシステムは急速に注目を集めています。東京で開催された初の「Scaleup Summit Japan」やSusHi Tech Tokyoといった大規模イベントに象徴されるように、政府や産業界、海外投資家の関心が高まっているのが現状です。本記事では、イタリア発のオープンイノベーション専門家であるアルベルト・オネッティ氏(Mind the Bridge会長)の視点を中心に、日本のスタートアップエコシステムの現状と成長の背景、国際的な動向、そして日本企業の役割について具体例やデータを交えながら解説します。
1. 日本のスタートアップエコシステムの現状

1-1. 起業数とスケールアップ企業の規模
日本には、約2万2,000社のスタートアップと2,300社のスケールアップ企業が存在します。これは2024年に発表された「Tech Scaleup Japan」レポート(Mind the BridgeとCrunchbaseによる共同調査)によるデータであり、欧州の主要国と肩を並べる規模感です。特筆すべきは、これらのうち86社が1億ドル以上の資金調達を達成し、2社は10億ドルを超える調達に成功、計6社のユニコーンを輩出している点です。オネッティ氏は、次のように述べています。
「日本のスタートアップエコシステムは決して小さくはない。欧州のフランスやドイツと同等の存在感を持ち、多くの可能性を秘めている」
実際に、日本企業が世界的な調査機関と連携しながらイノベーションを推進している様子は、スタートアップ界隈だけでなく、産業界全体にも影響を与えています。
1-2. セクター別の特徴と傾向
日本のスタートアップは、特に「ディープテック(深層技術)」に強みを持っています。バイオテクノロジー、ロボティクス、クリーンエネルギー、先端素材など、研究開発に長い時間と巨額の資金を要する領域で成果を上げる企業が増えています。これは、日本がもともと製造業や精密技術に強みを持っていた背景と共鳴し、大学発ベンチャーや産学連携プロジェクトを通じて生まれた成果がスタートアップとして独立しているケースが目立つためです。また、AIやIoTを活用したビジネスモデルも拡大傾向にあり、グローバル市場においても十分に戦える技術力を備えています。
2. 急速な成長と政府の取り組み

2-1. 「スタートアップ育成5か年計画」と10兆円投資
2022年、岸田首相は、「スタートアップ育成5か年計画」を発表し、2023年から2027年にかけて10兆円を投じてスタートアップ支援を強化する方針を示しました。この計画の主な目標は以下の2点です。
スタートアップ企業数を約4~5倍に増加し、10万社体制を目指す
ユニコーン企業を10倍増の100社にする
オネッティ氏は、「これらの目標は野心的だが、日本は構造的に物事を着実に実行する国柄である」と評価しています。実際、2024年には、世界的に資金調達が減速した中でも、日本では新たに238社のスケールアップ企業が誕生し、約50億ドル(約7,000億円)の投資を誘致しました。これは、政府の強力な支援策と金融機関のスタートアップ融資の拡大、さらには新興ベンチャーキャピタル(CVC)設立の後押しが功を奏した結果といえます。
2-2. NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の役割
日本のディープテック分野を支えているのが、独立行政法人NEDOです。NEDOは、産学連携や企業間コラボレーションを促進し、技術開発から事業化までを一貫支援します。たとえば、クリーンエネルギーや次世代半導体材料など、社会的・産業的インパクトが大きいプロジェクトに対しては、数十億円単位の助成金を提供し、技術検証や実証実験をサポートしています。このような公的支援があることで、リスクの高い技術開発に挑戦しやすい環境が整備されているのです。
3. 世界の動向と国際的関与

3-1. 海外イノベーション拠点の設立状況
現時点で、日本国内には41か所の海外イノベーション拠点(インノベーションハブ)が設置されています。そのうち15か所はアメリカ企業が運営しており、シリコンバレーや東海岸をはじめとする米国主要地域と密接な連携を築いています。これは、長年にわたる日米間の技術協力や人材交流の成果であり、米国企業が日本市場の先進的な技術や市場動向をいち早くキャッチアップしようとする動きが背景にあります。
一方、フランスやドイツといったヨーロッパ諸国も積極的に日本市場に参入しています。EU駐日代表のジャン=エリック・パケ氏は、以下のように述べました。
「世界的な政策の不確実性が増す中で、EUとしても日本市場での存在感を強化し、新たな戦略的機会を見出すべきだ」
日本における地政学的安定性や技術力の高さを背景に、欧州諸国も協業関係を深化させる動きを加速させています。とくにフランスは、スタートアップ支援機関「La French Tech」を通じて、日本企業との共同プログラムを展開するなど、相互にシナジーを生む取り組みを強化中です。
3-2. 海外企業の進出と成果事例
アメリカ大手テック企業やヘルスケア関連企業も、東京をはじめとする主要都市にイノベーション拠点を設置し、日本のスタートアップとの共創を模索しています。たとえば、米国の分析機器メーカーは、日本のバイオ分野スタートアップと連携して臨床試験向けプラットフォームを共同開発し、両国市場への展開を狙っています。こうした事例は、単に技術の流入を意味するだけでなく、日本企業が持つ「品質へのこだわり」や「長期的視点」を理解し、融合できるパートナーを求めている証左ともいえます。
4. 日本企業の役割とオープンイノベーション
4-1. 従来型R&Dからオープンイノベーションへ
日本の大企業は、長らく「社内R&D(研究開発)」に重きを置いてきました。製造業や自動車業界に代表されるように、技術シーズを自社内で囲い込み、競合他社との差別化を図る傾向が強かったのです。しかし、近年では海外勢の革新的サービスやスタートアップのスピード感ある開発に対応するため、「オープンイノベーション(Open Innovation)」 の導入が必須となっています。
Fortune 500企業の日本拠点を対象にしたベンチマーク調査によれば、従来は、外部連携に消極的だった企業でも、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を通じた出資や共同研究、アクセラレータープログラムなどを通じて、スタートアップとの協業モデルを積極的に模索していることがわかります。たとえば、三菱グループでは以下のような取り組みが進行中です。
三菱ケミカル × 大学発バイオベンチャー: 次世代医薬品プラットフォームの共同開発
三菱自動車 × EVスタートアップ: 次世代電気自動車向けバッテリー技術の共同実証
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG) × フィンテック企業: ブロックチェーンを活用した越境決済サービスの実験導入
これらのプロジェクトは、従来の事業領域を超えたイノベーションを生み出し、グローバル競争力を強化する起爆剤となっています。
4-2. AIソリューションタスクフォースの設立
2024年、複数の大手企業が合同で 「AIソリューションタスクフォース」 を発足しました。これは、企業横断的にAI技術を研究開発し、共通の基盤やプラットフォームを構築することで、開発効率を向上させる狙いがあります。日本企業が抱える課題のひとつに「縦割り構造による技術・情報の共有不足」がありますが、タスクフォース設立によって、それを克服しやすくなります。
具体的には、下記のような活動が行われています。
共同データセットの整備
各社が保有するデータを匿名化・統合し、汎用的に利用可能なAIトレーニング用データセットを構築。アルゴリズム共有プラットフォームの開発
各社が開発したAIアルゴリズムを共有し、相互に検証し合うことで、高精度モデルの共同開発を促進。産学連携プロジェクトの推進
大学や研究機関と連携して、先端AI技術の研究開発をスピーディに実用化し、産業応用を加速。
このような取り組みを通じて、日本企業は内外の知見を融合し、グローバルに通用するAIソリューションを創出しようとしています。
5. 今後の展望と課題
5-1. 目標達成に向けた期待と懸念
政府が掲げる「10万社体制」や「100ユニコーン企業」の目標は、国内外から大きな注目を浴びています。構造的な実行力が強みであるものの、以下のような懸念点も指摘されています。
人材の確保・育成: ディープテック領域では、研究者やエンジニアといった高度専門職の需給バランスが逼迫する可能性がある。
グロース資金の調達環境: 初期フェーズの資金調達は活発だが、シリーズB以降の大型資金調達ルートは米国や中国に比べて限られている。
グローバル市場参入支援: 国内市場は魅力的だが、世界市場での事業拡大を後押しするインフラ整備や法規制の見直しが求められる。
一方で、これらの課題を乗り越えた先にあるのは、世界に誇るディープテック企業群や、より多様で競争力のあるイノベーション・ハブの誕生です。日本は既存の製造業や研究機関の強みを背景に、質の高いスタートアップを生み出せる土壌を有しているため、今後の成長ポテンシャルは大きいといえます。
5-2. 日本経済への波及効果
スタートアップエコシステムが活性化すると、以下のような経済的・社会的波及効果が期待されます。
雇用創出と人材流動性の向上
成長企業の増加により、若手エンジニアや研究者の活躍の場が広がる。大企業からスピンアウトする人材も増え、産業全体の人材流動性が活性化する。産業構造の高度化
ディープテックを中心とした新産業が形成されることで、既存産業とのシナジーが生まれ、製造業やサービス業の付加価値向上に繋がる。地域活性化と地方創生
地方大学や自治体が主導するスタートアップ支援策と連動することで、東京一極集中から地方拠点の創業・成長が促される。国際競争力の強化
成長企業がグローバル市場でシェアを獲得すれば、日本の輸出競争力や国家ブランドの向上に寄与する。
これらの効果は、単なる起業数の増加にとどまらず、社会全体のイノベーション文化を醸成し、持続可能な経済成長に繋がることが期待されます。
日本のスタートアップエコシステムは、規模・成長性・国際的連携のすべての面で飛躍の途上にあります。政府による大胆な投資計画やNEDOの支援、企業のオープンイノベーションの活性化が相まって、ディープテックをはじめとする新興産業の芽が次々と開花しつつあります。アルベルト・オネッティ氏も「日本は目覚めつつあり、大規模に動き始めている」と述べるように、国内外のステークホルダーが早期に参画しないと、重要なビジネスチャンスを逃しかねません。
今後は、スタートアップと大企業、政府機関、研究機関が一体となって持続的に成長できるエコシステムを構築し、世界に通用するユニコーン企業を次々と輩出していくことが求められます。また、地方創生や社会課題解決といった観点も欠かせないテーマとなり、これらを総合的に支援する仕組みづくりが急務です。日本のイノベーションが真に花開くか否かは、まさにこれからの数年間の取り組み次第といえるでしょう。
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