「AIによる雇用消失は100%間違い」——Marc Andreessenが語った投資哲学・AIの民主化・シリコンバレー集中の現在地
90億ドル超を運用し、Facebook・GitHub・Coinbaseなど数多くの時代を代表する企業に初期投資してきたa16z創業者のMarc Andreessen氏が、20VCのHarry Stebbings氏のポッドキャストで初登場した。10年越しで実現したというこのインタビューは、AI時代の雇用論・ベンチャー投資の本質・シリコンバレーの集中・大企業の過剰採用という多岐にわたるテーマを、Andreessen氏ならではの鋭い分析で語り尽くした内容だ。
1. 「失敗から学ぶ」ことの罠——VCにとって最大のリスクは「見逃し」
1-1. 熱いストーブに触れた経験が次の投資機会を潰す
Andreessen氏は、まず「失敗から学ぶ」ことが特にベンチャー投資において危険な側面を持つと指摘した。「あるカテゴリで投資して失敗すると、次にそのカテゴリで本当に有望なものが出てきたとき、感情的な反応が邪魔をして見逃してしまう」という。これを「熱いストーブ現象」と呼び、「あなたは責任を果たしている。二度と触れないと学んでいる。でもそれが正しいパターンマッチングではないことがある」と述べた。
最もわかりやすい例として挙げたのがAIだ。「AIは1945年から2017年まで、VCで大量に損失を出す素晴らしい方法だった。私がコンピュータサイエンスを学んでいた1980年代後半、AIは絶対に成功しない分野として知られていた。AIへの投資ブームは、80年代にあったが失敗し、コンピュータサイエンティストを含む全員が『この分野は死んだ』と言っていた。それが80年間で5回繰り返された」と語った。
1-2. Commission(行動)よりOmission(見逃し)を恐れよ
Andreessen氏がa16zで徹底しているのは「失敗の恐れ(commission)より見逃しの恐れ(omission)を優先する」という思想だ。「1,000万ドルを投じたスタートアップが失敗すれば損失は1,000万ドル。しかし、Googleへの投資を見送れば1,000億ドルの機会コストになる」という。
「Ben(Horowitz氏)と私が今やっていることの核心は、パートナー全員に常にこのリスクフォワードの思考——omissionの失敗をcommissionの失敗より心配する——マインドセットを持ち続けさせることだ。『熱いストーブ現象』にならないよう、3年前・6年前・10年前の悪い経験への感情を手放し、目の前の機会に集中することを定期的に促している」と述べた。
2. 偉大な創業者を見抜く三要素——IQ・勇気・原初的な駆動力
2-1. スマートさは「最低条件」に過ぎない
創業者評価についてAndreessen氏は、「最初の基準はIQだが、それはあくまでテーブルステークス(参加資格)に過ぎない」と述べた。「彼らが話しているとき、私はノートにたくさんのメモを取っているか。もしそうなら、知性と関連する他の属性を持っていることを示している」という個人的なチェック方法を紹介した。
2-2. 「勇気」と「原初的な駆動力」が本質
IQを超えた第二の要素として「勇気」を挙げた。「成功への絶対的な決意。問題に正面から向き合い、どんな壁でも突き破れる力。Navy SEALsの言葉で言えばembalm the suck(苦しみを受け入れること)」と説明した。そして、有名なアニメの比喩を使い、「崖から走り出ても空中に浮いたまま走り続ける創業者が欲しい。壁に当たってもそのまま突き抜けていく創業者が欲しい」と語った。
第三は「原初的な駆動力(Will to Power)」だ。「世界を変えたいという使命感は素晴らしいが、それだけでは足りない。もっと根本的な何か——自分のものを作りたい、自分が何ができるかを証明したい——という動物的な衝動が必要だ」とAndreessen氏は述べた。「それは世間では『強欲』と批判されることもあるが、私は金銭的なことを言っているのではない。何かを作ることへの衝動だ」と説明した。
2-3. Zuckerbergが示した「聞く力」
最も印象に残った初対面の創業者として、Facebook初期のZuckerberg氏とのエピソードを語った。「Markは、19歳ほどで、会議中ほとんど話さなかった。Sean Parkerが全部しゃべっていた。私は後でこう思った——これは二つの可能性がある。CEOには全く向いていないか、あるいはエゴのために発言する必要がなく、周りの全てを吸収し、信じられない速度で学んでいるか。もちろん後者だった」と述べた。
3. AIによる雇用消失論は「100%間違い」——古典的な経済誤謬の繰り返し
3-1. 「ゼロサムの労働観」という誤り
AIが雇用を奪うという議論について、Andreessen氏は極めて明確に反論した。「この労働置き換え論は100%間違いだ。完全に誤りだ。これは古典的なゼロサム経済学——ラムプ・オブ・レイバー・ファラシー(労働の塊の誤謬)だ。過去に何度も繰り返されてきて、何度も間違いだと証明されてきた。今回も同じだ」と断言した。
具体例として、AIを活用しているプログラマーたちを挙げた。「あなたの友人の中でAI活用前と後を知っている優秀なコーダーは何を言っているか。彼らははるかに生産性が高くなり、AIなしでは生きていけないと言っている。そして今まで以上に長時間働いている」と述べた。
3-2. テクノロジーは常に「個人の限界生産性」を引き上げてきた
「テクノロジーの実際の経済的機能は生産性を高めること、特に個人労働者の限界生産性を引き上げることだ。これは過去に何度も起きている。鉛筆と紙で書いていた人がタイプライターを、タイプライターが、ワードプロセッサに、手計算が表計算ソフトに置き換わった。ソーシャルメディアマネージャーは、インターネット以前には存在しなかった仕事だ。テクノロジーは、新しい仕事を創る」とAndreessen氏は述べた。
3-3. 今起きている「レイオフ」の本当の原因
「ではなぜ今レイオフが起きているのか」という問いに対し、Andreessen氏は明確に答えた。「第一の原因は金利だ。金利がゼロから5%に急上昇し、全ての企業が財務を完全に見直す必要が生じた。第二はCOVID期の採用狂乱だ。企業はCOVID期に際限なく人を採用した」と述べた。
そして、さらに踏み込んだ見解を示した。「現在、基本的に全ての大企業が過剰採用の状態にある。少なくとも25%の過剰採用。ほとんどの大企業は、50%。多くは75%の過剰採用だと私は考えている。そして、みんな今、『AI』という素晴らしい言い訳を手に入れた。でも、私が知っている事実は、2025年12月まで、AIは彼らが実際にカットしている仕事の多くを実行できるほど優秀ではなかった。だから『AI』が原因ではありえない」と語った。
4. AIの価値の99%はユーザーへの「消費者余剰」として届く
4-1. シュンペーターの創造的破壊とAI
AI産業に投資する上で重要な洞察として、Andreessen氏は、シュンペーター経済学の視点を紹介した。「新しい根本的なテクノロジー——電気・蒸気機関・コンピュータ・インターネット・スマートフォン——が登場するとき、経済価値のほぼ99%はそれを作る企業ではなく、使うユーザーに届く。経済学者はこれを『消費者余剰』と呼ぶ」と説明した。
「インターネットの全経済価値の約99%はインターネットを作った企業ではなく、インターネットのユーザーに届いた。スマートフォンも同じ。スマートフォンの経済価値の99%は、AppleとGoogleではなく、スマートフォンを使って生産性を上げた全世界の人々に届いた。AIも全く同じだと考えている。むしろ99.9999%かもしれない」と述べた。
4-2. AIは「最も民主的なテクノロジー」
この観点からAndreessen氏は、AIを「史上最も民主的な(small-d democratic)テクノロジー」と呼んだ。「世界最高のAIは、App Storeからあなたのスマートフォンにダウンロードするアプリだ。無料版もかなり優秀で、GoogleやMicrosoftがAIを無料で提供し始めている。世界中の50億人のスマートフォンユーザーが間もなくAIを手にする。これは価値の超民主化だ」と述べた。
5. シリコンバレーへの集中——COVID後の分散化は「完全に逆転した」
5-1. AIがシリコンバレーへの集中を加速させた
Andreessen氏は、シリコンバレー集中について率直な観察を共有した。「2020〜2023年の間、私はCOVIDがシリコンバレーの地理的制約を破る機会になると非常に楽観的だった。しかし、過去2年間で、その流れは完全に逆転した。テック産業は今、その歴史の中で最もシリコンバレーに集中している。そしてそれはAIによるものだ」と述べた。
「質の高いAI企業のほぼ100%がカリフォルニアにある。私が今座っている場所から20マイル圏内にある。例外はある——ElevenLabsやBlack Forest Labsなど誇りを持って投資している欧州企業もある。しかし価値創造の数字とタレントの流れを見ると、それは北カリフォルニアにある」と述べた。
5-2. 欧州へのメッセージ——「ドラギレポートを読んで実行するだけ」
欧州の革新に向けた提言についてAndreessen氏は正直に語った。「私は親欧州派だ。しかし欧州のファウンダーが米国に移住したら全員バックする、と言い続けている。データもそれを支持している。欧州のタレント(人材の質)に米国への移住意欲(リスク許容度)が加わった組み合わせは非常に強力だ」と述べた。
マクロ的な政策処方箋については「Mario Draghiのレポートを読んで、そこに書いてあることをやるだけだ。問題はそれが実行されていないことだ」と述べた。また「多くの欧州の政治家と話すと、彼らは全部知っている。答えも知っている。でも選挙で選ばれ続けることと正しい政策の間に矛盾がある」という構造的な問題も指摘した。
6. ベンチャー投資の本質——「ダイヤモンドの原石は避けよ、ダイヤモンドだけに投資せよ」
6-1. 価格より人物が重要——初期投資での価格過剰は「ほぼ常に間違い」
「ベンチャー初期投資で価格を理由に見送った有望企業は、ほぼ常に間違いだった」とAndreessen氏は断言した。「5百万ドルのシード投資でも5億ドルの成長投資でも、成功すれば同じ規模のアップサイドが期待できる。これがベンチャーの特殊性だ」と述べた。
6-2. 「ダイヤモンドの原石」という罠
「ダイヤモンドの原石」——他が見過ごしている隠れた宝を自分だけが見つけるという発想については懐疑的だった。「これは投資家のエゴの問題だ。他のVCは全員ゴミだ、私だけが見えている特別なものがある、という発想だ。Peter Thielはそれをうまくやるが、あなたはPeter Thielではない可能性が高い」と述べた。
「優秀でハングリーなVCが何百人もいて、それが彼らのフルタイムの仕事で、全力で良い案件を探している。もしダイヤモンドの原石があるとしたら、多くの場合、何らかの根本的な問題がある会社だ。最も主流から外れた形で資金調達しようとしているのは、複数の主流VCを遠ざけた何かがある創業者であることが多い」と述べた。
6-3. Adam Neumann投資の論理
a16zがWework崩壊後のAdam Neumann氏に3億ドルを投じたFlo投資について、Andreessen氏は背景を語った。「不動産業界の伝説的な人物が私にこう言った——商業不動産のブランドを本当に作った人間は、人類の歴史上2人しかいない。一人は米国大統領になった。もう一人はAdam Neumannだ。どれだけ今の状況が悪くても、これは一世代に一度の才能だ、と」と述べた。そして「彼と深く知り合うにつれ、それが確信に変わった。今この投資は非常に満足している」と語った。
7. a16zは上場するか
7-1. 「今は上場する理由がない」という明確な答え
「a16zの上場について」という問いに対してAndreessen氏は明確に答えた。「今日上場することで解決できる問題が何もない。それが率直な答えだ。上場企業のCEOは非常に難しい仕事だ。Ben(Horowitz氏)は、以前上場企業のCEOだったので、何が必要かを正確に知っている」と述べた。
「LPたちは素晴らしいパートナーだった。ヘッジファンドマネージャーと打ち合わせていたときとの最大の違いは、彼らが我々のロングなのか知っていること。上場すれば、自分たちの株をショートしているかもしれない人々と毎日交渉することになる。それが上場のリアルだ」と述べた。
おわりに
Marc Andreessen氏のインタビューが示す最も重要な視点は、「AIの価値は作る側ではなく使う側に99%届く」というシュンペーター的な観察だ。これはAIインフラへの投資(Nvidia・CoreWeave等)の本質的な価値を問い直す視点であり、「AI企業は儲かるがユーザーが最大の受益者」という構造を理解することが、AI時代の投資判断を複眼的に行う上で不可欠だ。また「大企業は25〜75%過剰採用」という見解は、企業側のAI導入圧力を単なるコスト削減論ではなく構造的な余剰解消として読む視点を提供している。
