「Trust Your Gut」で世界を変えた男──Roblox創業者デイビッド・バズッキに学ぶ、直感と長期戦略の経営術
3億人超の月間ユーザー、アメリカの9〜12歳の約4分の3が遊ぶと言われるRoblox。その創業者兼CEOであるデイビッド・バズッキは、華やかな成功ストーリーだけでなく、「迷走」「空振り」「やり直し」を何度も経験してきた起業家でもあります。
スタンフォードで電気工学を学んだ若者が、教育ソフト企業を売却し、キャンピングカーで家族と北米を横断し、「誰も遊ばないパズルゲーム」を一度は閉じて、いまのRobloxに辿り着く。今回のインタビューからは、生成AIやメタバースの表層を超えた、「直感を信じる」「顧客に共感する」「インフラと安全性に賭ける」リーダーシップの中身が見えてきます。
この記事では、その発言を辿りながら、ビジネスパーソンや起業家にとっての学びを整理していきます。
1. 迷走の20代と「直感モード」への切り替え
1985年、スタンフォードで電気工学を専攻していたバズッキは、将来のキャリアについて「まったく分からなかった」と振り返ります。
夏休みに友人から「窓ふきビジネス」を勧められ、兄と一緒に家々を回って営業し、ひたすら窓を洗って稼いだエピソードは、一見ただの小ネタです。しかし本人はその後をこう語ります。
「卒業後の2〜3年は“最悪の仕事”ばかりだった。スプレッドシートに“9つのキャリア候補と評価項目”を並べて悩んでいたけれど、それはとても変なやり方だった」
ロジックでキャリアを最適化しようとしても、うまくいかなかった。そこで彼は一度立ち止まり、「直感モード(intuition mode)」へと切り替えます。
当時登場しつつあったApple IIやMacintosh、教育ソフトに惹かれ、「とにかく教育ソフトをやろう」と決めたのです。
ここでのポイントは、「完璧なキャリアプラン」ではなく、「自分が異常に惹かれる領域」に寄せていったこと。彼は後年、「直感を信じろ(trust your gut)」というアドバイスが、自分にとって一番大切な言葉だと語っています。
2. 「知識革命」からRobloxへ──顧客への共感が生んだ世界観
バズッキは兄とともに、物理シミュレーションソフト「Interactive Physics」をつくる会社「Knowledge Revolution」を創業します。
物理の授業で使える教育ソフトとしてヒットし、多くの教科書に採用され、最終的にはVC資金を入れずに約2,000万ドルで売却されました(1998年)。
彼がこのフェーズから学んだ一番の教訓は、「特定の顧客への深い共感」です。
「教育ソフトの顧客については、直感的に理解できていた。彼らが誰で、どんなソフトを欲しがるかも分かっていた」
しかし、同時に、彼は「もったいない失敗」もしていたと振り返ります。
ユーザーは遊ぶようにソフトで物理を試していたのに、会社はより“技術寄り”の機械工学ソフトへと軸足を移していったのです。そこには「自分たちが本当にワクワクする領域(3Dシミュレーション×コンシューマ)」からの微妙なズレがありました。
この「顧客への共感」と「自分のワクワク」からのズレへの反省が、のちのRobloxの原点になります。
3. 誰も遊ばないプロトタイプを捨てる勇気
3-1. Dino Blocksという「行き止まり」
2004年前後、バズッキたちは「3D・クラウド・マルチプレイヤー・ユーザー生成コンテンツ」という、いま聞けば“メタバースそのもの”な構想を持っていました。しかし、最初に世に出したのは、その一部だけを切り出した3Dパズルゲーム「Dino Blocks」でした。
100人ほどを招待してローンチしたものの、2週間後にはほとんど誰も使っていない。
「これはなかなか堪える」と言いつつ、彼はこう振り返ります。
「直感的に分かっていた。“これは完全なプロダクトじゃない”と。マルチプレイヤーで、みんながつくって遊べる場にしなきゃいけない、と」
そこで彼らは、「ビジョンは正しい」と信じながらも、プロダクトは一度シャットダウンし、約9〜12か月かけて作り直しました。ここで重要なのは、「ビジョンを諦めるか/諦めないか」と、「いまのプロダクトを捨てるか/改善でごまかすか」を切り分けたことです。
3-2. 「4時間で分かる」プロダクトマーケットフィット
再ローンチ時、ユーザーが自らゲームをつくって公開できる「Roblox Studio」とセルフパブリッシング機能を組み込んだ瞬間、オフィスにいた4人は「これはいける」と確信したと言います。
「その日、4時間で分かった。クリエーション、クリエーション、クリエーション…と、ひたすら作品が投稿され続けた」
プロダクトマーケットフィットは、A/Bテストの微差ではなく、「行動量が一気に跳ね上がるかどうか」で分かることがある。その典型例と言えるでしょう。
4. マネタイズ危機と「バーチャル経済」という決断
ユーザー数は右肩上がり、しかし「売上/ユーザー」は横ばい──。
2007年前後、インフラコストだけが膨らむ“危機のグラフ”を前にして、彼らは「50個の小さなマネタイズ施策リスト」を作り、優先順位付けをして試していきます。
しかし、3〜4か月、15〜20個試しても、状況はほとんど変わりませんでした。
「本当は分かっていた。やるべき“大きなこと”は、クリエイターが稼げる完全なバーチャル経済だ、と。難しすぎるから一旦脇に置いていたけれど、結局そこに戻るしかなかった」
そこで彼らは、
・デジタル通貨
・クリエイターが自由に価格設定できる仕組み
・ユーザーが通貨を購入する手段
・クリエイターが現金としてキャッシュアウトできる仕組み
・稼ぐクリエイターを発見しやすくする検索・ディスカバリー
という「閉じたループ」の経済システムを一気に実装しました。
ローンチから数時間で、「これでいける」と確信したと言います。開発者たちが「懐中電灯を売ろう」「スクーターを売ろう」と次々にアイデアを出し、経済が回り始めたからです。
ここから生まれたのが、Robloxの文化的価値観にある「長期視点を持て」「難しいことを先にやれ」「小手先のハックに頼るな」という方針です。
5. Minecraft・Fortniteとの競争──インフラで勝ちにいく
Robloxの歴史は、「Robloxキラー」と目された競合との戦いの歴史でもあります。
Minecraftのブーム、Fortniteの台頭。そのたびに、「これはさすがに不公平じゃないか」と感じたと正直に話しています。
しかし水面下では、Robloxはまさに「インフラ企業」としての道を歩んでいました。
オートシャーディングされたクラウドインフラ
PCとモバイルで同じ体験を提供するアーキテクチャ
開発者向けの安定したAPIとスクリプト言語(Lua)
数千万人同時接続(直近では2,500万人同時プレイ)のためのスケーラビリティ
「彼ら(MinecraftやFortnite)は素晴らしいプロダクトだが、ゲーム本体、エンジン、ストアを同時に回す必要がある。一方で、僕たちは“単一のプラットフォーム”に100%集中できた」
短期の人気ではなく、「10年以上かけて積み上げる技術ロードマップ」と「集中」が、Robloxを“単なるゲーム”から「インターネットのインフラ候補」に押し上げていることがわかります。
6. 子どもとスクリーンタイム:成長と責任をどう両立するか
現在のRobloxは、ほぼ4億の月間アクティブユーザーを抱え、「グローバルゲーム市場約1,900億ドルのうち3%を処理している」と彼は語ります。
アメリカの9〜12歳の約4分の3が定期的にRobloxで遊んでいるとも言われ、競合はもはやTikTok、YouTube、Metaといった「時間の奪い合い」です。
一方で、テキサス州司法長官による訴訟を含め、「子どもの安全」に関する批判や訴訟も増えています。
ここで「エンゲージメント vs 安全性」のトレードオフを問われた彼の答えはシンプルでした。
「僕たちは常に“安全”を選ぶ」
その言葉を裏付けるように、Robloxでは以下のような取り組みを進めています。
社内を「安全スタック」として縦割りに構造化し、プロダクト・エンジニア・オペレーションを含めた専任組織を持つ
法律で義務付けられていない段階から、ユーザーの年齢推定技術に投資
「11歳にスマホが渡された前提」でプロダクトを設計
彼は、経営の責任についてこう語ります。
「責任は“法的・財務的”なレベルを超えている。価値観と一致しているかどうか、夜ぐっすり眠れる会社かどうか、そこまで含めての責任だ」
“楽しい会社を運営したい”という、意外なほど人間臭いモチベーションが、安全性への長期投資を支えている点も興味深いところです。
7. AIが加速する「次のRoblox」
もちろん、2025年のCEOにAIの話題は欠かせません。
バズッキは、RobloxのAI活用を「3〜4つの波」として説明します。
裏側のAI
テキスト/ボイスの安全性フィルタリング
検索・レコメンドの最適化
ユーザーには見えない形で、プラットフォーム品質を上げるフェーズ
生成AIによるクリエーション支援
「こんな服が欲しい」「こんなゲームを作りたい」と話すだけで、3Dアイテムやゲームが半自動生成される世界
非エンジニアでもクリエイターになれる可能性
アバター/分身/アシスタントの時代
「自分の価値観に合わせた“分身”がRobloxの中にいて、子どもと遊んでくれる」といった未来像
指示を出すと、代わりに行動してくれるバーチャルヒューマン
このとき、Robloxが持つ最大の強みは、毎月110億時間分の人間のインタラクションデータです。顔の動き、腕の動き、3D空間での行動パターンなど、単なる動画ではないデータが蓄積されています。
「それを売ったり漏らしたりはしない。プラットフォームを良くするために使う」
さらに「AIで開発者の仕事がなくなるのでは?」という問いには、彼は産業革命を引き合いに出しながら、こう答えます。
「馬車を作っていた人が全員失業したわけではない。新しい産業が生まれた。クリエイターの失業危機ではなく、“仕事の中身が変わる”と見ている」
8. リーダーとしての変化と「Trust Your Gut」
3人のスタートアップから数千人規模のグローバル企業へ。
その過程で、自分自身を「常に作り替えなければならなかった」とバズッキは言います。
初期は怒鳴ったり感情をぶつけるようなタイプだった
今は15人がいる会議で「4秒で“それはダメだ”と言いたくなる」直感を飲み込み、どう伝えれば全員を動かせるか、5語で最適化することを考える
分析ではなく、「人と事業に関する直感」をより信じるようになった
「人生をやり直したいと思う後悔はない。ミスは山ほどあるけれど」と言いつつ、彼が一番の教訓として挙げたのは、「直感を抑え込みすぎた瞬間」の数々でした。
「ベストなアドバイスは何か?」
「多くの人が、つらい時期に“自分の直感を信じろ”と言ってくれたことだと思う」
まとめ:直感と長期視点がつくる「子どもたちのインターネット」
Robloxのストーリーは、「メタバース」「AI」「バーチャル経済」といったバズワードの集合体のように見えます。しかし、その裏側には一貫した3つの軸があります。
自分の直感と、特定の顧客への深い共感を信じること
短期のKPIではなく、“完全なプロダクト”とインフラに賭けること
成長と同時に、倫理・安全・責任を事業の中心に置くこと
迷走した20代から、「誰も使わないプロトタイプ」を捨てる決断、競合との長期戦、安全性やAIへの投資まで。
そのすべてを貫いているのが、タイトルにもなっている「Trust Your Gut」という姿勢です。
起業家や投資家にとって、このインタビューは「Robloxという銘柄をどう見るか」以上に、
“自分の事業やキャリアをどこまで直感と長期視点に委ねられるか?”
を問い直す素材として読む価値がありそうです。
