見出し画像

週8〜10時間を削減する“AIネイティブ企業”の秘密:Block, Inc.が語る組織/文化/ツール改革

近年、企業における「AI活用」の文脈は“実験的”“パイロット段階”から「業務に組み込まれた当たり前の仕組み」へと移りつつあります。そんななか、Block, Inc.(旧名:Square)がその先端を走る存在として注目を集めています。今回は、同社のテクノロジーリーダーである Dhanji R. Prasanna 氏のインタビューから、Blockがいかに「AI-ネイティブ企業」へと変貌を遂げたか、そのプロセスと本質を掘り下げていきます。専門的な内容を、具体例や引用を交えて、分かりやすく解説します。


1. 変革の契機:AIへの“マニフェスト”からの動き


1-1. そもそもの起点

Dhanji氏は、Block社で「AIを中心に据えた企業になるべきだ」という内容の手紙(“AI マニフェスト”)を当時のCEOである Jack Dorsey 氏に送ったことが、変革のひとつのスタートになったと語っています。
彼自身は当時CTOではなく、シニアエンジニア的な立場でしたが、CEOと2日間シドニーで議論し、その後CTO就任の打診を受けた経緯があります。
このエピソードから浮かび上がるのは、“AIを後追いではなく先導的に捉える”という意識の切り替えが、組織変革の原点だったという点です。

1-2. 組織構造の再定義

彼らはまず、自社を「金融サービス企業」ではなく「テクノロジー企業」と再定義しました。Dhanji氏は、「技術とデザインを最優先にする」と述べた上で、GM制(事業部制)から機能別組織(設計・エンジニアリング・プラットフォーム)への移行を「生産性を押し上げる最大の要因」と位置づけています。
具体的には、エンジニアがそれぞれの事業ユニットに分散していた状態から「すべてのエンジニアが一つの設計・開発チームに報告」する体制へと統合されたことが、AI活用への加速を支えました。
このように、組織構造(オーガニゼーション)が技術活用を左右するという点は、★「Conway’s Law(コンウェイの法則)」★が示す通り、まさに実体験として語られています。

「通称『組織構造がシステムをつくる』という考え方を、我々は体現しました。」

2. “Goose”による実践:AI活用の“つかみどころ”


2-1. Gooseとは何か?

Block社が内部で開発・運用しているオープンソースのAIエージェント、Gooseは、「モデル・コンテキスト・プロトコル(MCP)」を介して、チャット形式の会話だけに留まらず、各種ツール・APIと連携して“手”・“脚”を持つような形で動作します。
例えば、あるレポート作成を命じると、GooseはSnowflakeやTableauへの接続、SQL生成、グラフ出力、PDF化、メール送信までを一気通貫で実行できます。
このように、「単なるチャットボット」ではなく「企業の現場ツール群と統合された作業オートメーションエージェント」という位置づけです。

2-2. 生産性の実績:8~10時間/週の削減

インタビューによれば、AIを積極的に活用しているエンジニアチームで 週あたり8〜10時間 の手作業時間削減が自己申告で報告されており、会社全体では「人間の手作業時間の20〜25%削減トレンド」が確認されていると述べられています。
ただし、Dhanji氏は「これは今が最悪の基準(worst it will ever be)。これが今のベースラインで、価値は日々変化していく」と説明しています。
この実績は、AI導入が“実現可能な成果”を上げていることの一端を示しています。

2-3. 技術部門以外の部門こそが飛躍的効果を得る

興味深いことに、最も効果を享受しているのはエンジニアではなく、非技術部門(リスク管理、法務、サポート等)であるとDhanji氏は語っています。例えば、リスク管理チームがGooseを利用して「セルフサービス型企業リスク管理システム」を数週間かかる作業を数時間に圧縮したという事例があります。
この点が「AIは技術部門だけのもの」という誤解を解く重要な観点です。

「非技術の人が、自分の業務に最適化されたAIエージェントを使いこなしている。それが最も効果を出しているんです。」

3. 組織文化と導入ロードマップの工夫


3-1. リーダー自ら使う姿勢

Dhanji氏は「経営陣・役員が毎日Gooseを使い、AIツールを自分自身の手で使って学ぶ」ことが、利用促進の鍵であると述べています。
典型的な“上からの命令でAI導入”ではなく、「トップも使い倒している/使い方を理解している」ことが、現場浸透を加速させるというものです。

3-2. “疑問を持つ”プロセス:買うべきか、作るべきか、あるいはそもそも…

導入に当たっては、ただ「新しいツールを買う」ではなく、「このプロセス自体は必要か?」という根本問いを立てる文化があると語られています。例えば、既存SaaSツールを導入しようという提案に対し、Gooseで代替構築できるかを検討したり、「このプロセス自体不要では?」という問いを立てたりしています。
このように、“技術で何を変えるか”ではなく、“そもそも何を変えるべきか・捨てるべきか”を定期的に問い直す習慣が生産性向上とAI活用の両輪を回しています。

4. エンジニアリング/開発手法の進化


4-1. 「コード品質=プロダクト成功」ではない

Dhanji氏は、“多くのエンジニアがコード品質がプロダクト成功の鍵だと信じているが、実際にはそれほど関連がない”と述べています。彼は、YouTube が「MySQL に大きな動画をBLOBで保存」といった“品質低め”の構成でも、グーグル内で突出した成功を収めた事例を挙げています。
つまり、ユーザーに価値を届ける「仕組み」こそが鍵であり、内部構造は多少雑でも成果を上げれば良い、という実践的な視点です。

4-2. “ヴァイブコーディング(Vibe Coding)”と未来像

今後のエンジニアの働き方として、コードを手で書くことが主役ではなく、チャット/エージェントに指示して構築させる“ヴァイブコーディング”の時代が来ると語っています。例えば、Gooseが“人が寝ている間に”先回りしてプルリク(PR)を出す事例も紹介されています。
この変化は、開発の速度やアプローチを根底から変える可能性があります。

5. 企業・投資リサーチ視点からの示唆


5-1. AI活用は「ツール導入」ではなく「組織変革」から

Blockのケースは、AIを活用するにあたってツールを入れるだけでは不十分で、その前提にある組織構造・文化・業務設計を変える必要があることを示しています。
特に、機能別組織化やリーダー自らの使用・“そもそも必要か”の問い直しといったアプローチは、他社が見落としがちな視点です。

5-2. 非エンジニア部門での生産性向上が“鍵”

一般には技術部門でAI活用が進むと期待されがちですが、Blockでは法務・リスク・営業など非技術部門での活用が驚くほど進んでいます。これは、AIの用途拡大を評価する観点として“機能横断”を確認すべきという示唆を与えます。

5-3. オープンソース/プロトコルへのこだわりが“差別化”に

Gooseはオープンソースとして公開されており、社外でも採用事例が出てきています。
“囲い込み”ではなく“拡散”を選ぶ戦略は、AI領域ではまだ分かれ目になり得ます。投資・技術リサーチの観点からも、オープン戦略を取る企業の動きは注視すべきです。

結論


Dhanji R. Prasanna氏の語る Block, Inc. の変革事例は、AI活用を単なる“技術導入”としてではなく、組織・文化・設計・運用体制を含めたトータルな“変革”と捉える必要があることを教えてくれます。
・AIエージェントを業務に定着させ、週数時間/人の削減を実現している。
・生産性向上の鍵は、非技術部門・経営層も含めた横断的な構造と習慣にある。
・コード品質や“正しく作ること”よりも、“顧客価値をどう早く届けるか”が成果を左右する。
・オープンソース/機能別組織化/トップ自身の実践という“土台づくり”が不可欠。

このような観点から、自社・クライアント企業・投資先企業においても「AIをどう取り入れるか」を再設計する好機と言えます。今こそ、AI導入は「次の便利ツール」ではなく、「企業の働き方・成果の仕組みを刷新する戦略的選択」へと転換しなければならないのです。

オススメ記事


Next Big Wave(成長株・アイデアの種・トレンド深掘り)



いいなと思ったら応援しよう!