AIバブルの下で何が壊れ始めているのか──K字型経済と「ひび割れる米国市場」の正体_先週のマーケット総括
序盤のAI関連株は決算を「ビート」しているのに株価は下落、消費は富裕層に偏り、足元では人員削減が急増——。
スティーブ・アイスマンの「The Weekly Wrap」(2025年11月7日週)は、「AIブームの下に走るひび」を丁寧に描き出しています。
以下では、その内容を整理しつつ、米経済がどのようなダウンサイドリスクにさらされているのかを解説します。
1. AIブームの影で進む「K字型経済」
アイスマンは、まず、「市場は史上最高値圏にありながら、この週はかなりボラティリティの高い動きだった」と指摘します。
ナスダックは火曜日にAI関連バリュエーションへの懸念から2%超下落し、その後水曜に反発、木曜に再び下落と、方向感のない展開でした。
一方、実体経済では、労働市場の冷え込みの兆しが強まっています。
政府閉鎖で公式統計が出ないなか、投資家は民間データに頼らざるをえませんが、その一つであるチャレンジャー・レポートは「2025年10月の人員削減予定数が、過去20年以上で最多」と報告。
このニュースを受け、株式は急落、債券は買われました。
さらに、最近の報道によれば、個人消費を支えているのは上位10%の富裕層であり、全消費のほぼ半分を占める一方、低所得・中所得層は支出を絞っているといいます。
アイスマンはここから、現在の米国を「AIと富裕層に恩恵が集中し、それ以外が取り残されるK字型経済」と位置づけ、「株式市場が大きく調整すれば、景気後退に陥りやすい構造だ」と警鐘を鳴らします。
2. 指数が教える「上がっているのは一部だけ」
このK字型の構図は、株価指数の中身を見ると一層はっきりします。
2025年11月4日時点で、
S&P500:年初来 約16.5%高
NASDAQ:年初来 23%超高
と表面上は力強いリターンです。
しかし、アイスマンが重視するのは等加重S&P500指数(SPW)。これは500銘柄をすべて「同じ重み」で扱う指数です。
等加重S&P500:年初来 +6.9%
つまり、時価総額加重のS&P500との間には約1,000bp(10%ポイント)のギャップが存在します。
この構図は2023〜2024年も続いており、「ごく少数の巨大銘柄が指数全体を押し上げている」ことを意味します。
実際、S&P500の時価総額上位10銘柄だけで指数の42%を占め、そのうちバークシャーとJPモルガン以外はテック関連。残りの490社で指数の58%を分け合っている状態です。
見かけ上の「株高」と実体の「広がりなき株高」のギャップが、K字型経済のマーケット版と言えるでしょう。
3. AI関連決算:良い数字でも売られる相場
3-1. パランティア:素晴らしい決算でも「鼻血ブリバリュエーション」
AI関連銘柄の筆頭格として取り上げられたのがPalantirです。
EPS:0.21ドル(予想0.17ドル)
売上:11.8億ドル(予想10.9億ドル)
ガイダンスも予想上回り
政府・商用ともに好調で、「営業部隊なしで口コミだけで売っている」というエピソードも紹介されます。各社が抱える巨大データベースを「パランティアが自社以上にうまく料理し、戦略まで一緒につくる」ことが強みだと、彼は引用します。
しかし、決算翌日、株価は7%超下落。理由はバリュエーションです。
2026年予想PER:200倍超
2026年予想売上倍率:75倍
アイスマンは、これを「鼻血が出るレベルのバリュエーション(nosebleed land)」と表現し、「この高さにいる銘柄は、単に『ビート』するだけでは足りず、『ぶっちぎり』のサプライズが必要になる」と解説します。
同時に、彼自身は「バリュエーションだけを理由にショートするのはほぼ負けパターン」という経験則も共有し、「良いストーリー株を割高というだけで売り向かうことはしない」と述べています。
3-2. AMD・アリスタ・スーパー・マイクロ・Eaton・ガートナー
他のAI関連・インフラ銘柄も、「数字は悪くないのに株価は下落」という共通パターンを見せました。
AMD:売上+36%と強い決算ながら、粗利率ガイダンスがコンセンサス並みで失望売り
Arista Networks:EPS・売上は堅調ながら、ガイダンスが「横ばい」レベルで株価下落
Super Micro:会計問題の過去もあり、サーバーというコモディティ寄り製品ゆえ価格競争にさらされ、減速決算で株価-9%
Eaton:データセンター関連の電気機器供給で再評価され、PER25倍まで買われていたが、売上ミスと弱めのガイダンスで-7%
Gartner:政府コンサル削減と「AIでコンサル需要が消えるのでは」という恐怖で、堅調なガイダンスにもかかわらず年初来-53%
ここから見えてくるのは、「AIの恩恵を受けている企業でさえ、期待値が高すぎるとわずかな失望で売られる」という局面です。
4. 非AIセクターが映す、景気の弱さとバリュエーションの差
4-1. 金融・オルタナ資産:好決算でも不安は消えず
一方、AIとは直接関係の薄い金融分野では、まったく別の物語が進行しています。
PJT Partners:M&Aアドバイザリー・ブームの恩恵で、売上+37%、EPSも大幅増。数字は文句なし。
Apollo:オルタナ資産運用+プライベートクレジットで、手数料収入(fee-related earnings)は+23%、運用資産残高は9,000億ドルに到達。
にもかかわらず、Apolloの株価は年初来約20%安。背景には、急拡大したプライベートクレジットが景気後退時に大きな損失源となるのではという市場の警戒があります。
4-2. 消費・ヘルスケア・住宅:下位層から崩れていく構図
K字型経済の「下向きの線」は、外食・中古車・住宅関連にくっきり現れています。
Cava/Chipotle/Papa John’s:いずれも来店頻度の低下や業績ミスで苦戦。Cavaは2期連続の通期見通し下方修正、Papa John’sはApolloによる非公開化提案の取り下げもあって株価急落。
Novo Nordisk:肥満治療薬でEli Lillyとの競争に苦戦し、今年4回目の業績下方修正(売上成長率11%、営業利益7%に減速)。Lilly株は上昇、Novo株は下落。
Trex:住宅向けデッキ材メーカー。決算ミスと大幅な売上ガイダンス引き下げで1日で株価-31%、年初来-53%に。
CarMax:中古車市場の悪化の象徴的存在。CEO辞任前から株価は年初来-50%で、さらにニュースで20%超下落。
これらは、「富裕層はまだ使うが、下位層の財布は明らかに締まっている」という現実の具体例です。
5. FICO vs. VantageScore:金融インフラにも走る価格競争
アイスマンは視点をクレジットスコアの世界にも広げます。
ローンの可否を決めるFICOスコアを提供するFair Isaacは、長年ほぼ独占状態にありました。
ところが同社はここ数年、1件あたり5ドルだった料金を10ドル近くまで値上げ。
「まだ安い」と踏んで強気に出ましたが、これに反発したのが貸し手と規制当局(住宅金融庁FHFA)です。FHFAは、信用情報機関3社(Experian/TransUnion/Equifax)が開発したVantageScoreをFICOの代替として推進し始めました。
結果として、今起きているのは「データ供給者でもある競合相手との価格戦争」です。
FICOは新商品で、10ドルの半額以下の価格を自ら提示せざるを得なくなっている
2026年度のEPSガイダンスも市場予想を下回り、先行きへの不安が増大
アイスマンは、「ライフラインとなるデータの供給元と正面から価格競争をするのは、会社の存続を賭けるような危険な賭けだ」と評しています。
6. フラクショナル・バンキング入門:銀行預金が「お金を増やす」メカニズム
最後に、視聴者からの質問に答える形で、アイスマンは、信用創造(fractional reserve banking)を平易に説明します。
例として、銀行に10万ドルを預けるケースを考えます。
銀行は規制上、例えば、10%を自己資本・流動性として維持し、残りの90%を貸し出せるとする
10万ドル預金 → 銀行は9万ドルを貸し出し
借り手はその9万ドルを別の銀行に預金 → その銀行もまた9万ドルの90%である8.1万ドルを貸し出し
これが繰り返されることで、元の10万ドル預金から、経済全体には何倍もの「預金と貸出」が生まれる
一見「お金が勝手に増えている」ように見えますが、これは現代金融の基盤そのものであり、「預金を安全に預かりつつ、企業や個人に資金を供給するための仕組み」だとアイスマンは強調します。
7. まとめ:AIブームの下でチェックすべき「ひび」
今回のラップから見えるのは、次のような構図です。
表面:AI関連・メガテックが指数を押し上げ、S&P500やNASDAQは高値圏
その下:
労働市場では解雇が急増
消費は上位10%の富裕層に偏在
外食・住宅・中古車といった生活に近いセクターで悪材料が続出
クレジットスコア市場など、金融インフラにも価格競争の火種
さらに、ニューヨークでは、「家賃凍結」を掲げる社会主義者ゾーハン・マムダニが市長に当選し、「ウォール街がダラス移転を検討」という噂も出始めています。今のところREITは「すでに十分売られている」ため新たな反応は限定的ですが、政策リスクという別の軸の不確実性もじわりと高まっています。
投資家にとって重要なのは、「AIバブルか否か」だけでなく、
上昇の広がり(ブレッド)
所得階層別の需要の強さ
企業のバリュエーションとビジネスの質
金融システムや規制の構造変化
といった「ひび」を丹念に追いかけることです。
AIとメガキャップが作る華やかな表面の裏側で、どこに負荷が溜まっているのか。
アイスマンの視点は、これからの相場と景気のダウンサイドを考えるうえで、非常に示唆に富む内容となっています。
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