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Anthropicの研究・開発チームが語る「ワークフローとエージェントの違い」

近年、大規模言語モデル(LLM)の性能向上に伴い、「エージェント」という言葉が頻繁に取り沙汰されるようになりました。一度のプロンプト呼び出しを超えて、複数のステップを自律的に行う仕組みがエージェントと呼ばれることが多いのですが、実は、「ワークフロー」との明確な差異を理解している人はまだ少ないのが現状です。

Anthropicの研究・開発チームによると、「何でもかんでもエージェントと呼ばれているが、実際にはワークフローとの境界線を引く必要がある」とのことです。具体的には、「LLMが何度プロンプトを実行するか自分で決めてタスクを完了する形がエージェントだ」という見方が示されています。

本記事では、このエージェントの概念やワークフローとの違い、実際の開発事例、そして今後の展望までを詳しく解説します。


1. エージェントとワークフローの違い


1-1. ワークフローとは何か

まず、ワークフロー(workflow)とは、「いくつかのLLM呼び出しを“あらかじめ決められた順序”でつなげる仕組み」を指します。たとえば、以下のような流れが典型例です。

  1. ユーザーからの質問を分類する(LLMコールA)

  2. 分類結果に応じて適切な返答を生成する(LLMコールB)

  3. 生成した返答をフォーマットして出力する(LLMコールC)

このように、事前に定義されたレール上を進んでいく形がワークフローの特徴です。各ステップが単一タスクとして完結し、シンプルかつ管理しやすいメリットがあります。

1-2. エージェントとは何か

一方で、エージェントは、「どこまでタスクが続くか、人間が最初に厳密に決めず、モデル自身が繰り返し判断しながら進める」点が大きく異なります。
たとえば、ユーザーからの問い合わせに答える際、エージェントは以下のように振る舞います。

  1. ユーザーの意図を理解

  2. 必要に応じて外部ツール(ウェブ検索やコード実行など)を呼び出して情報取得

  3. さらに別のツールが必要と判断すれば、そのまま次の行動を実行

  4. 最終的に回答がまとまったと判断すれば、出力して終了

このプロセスでは、「何度外部ツールを呼び出すか」、「いつ回答を確定とみなすか」をLLM(エージェント)が動的に決定します。これこそがエージェントならではの“自律性”と言えるでしょう。

2. エージェント導入のポイントと実例


2-1. 開発者が陥りやすい落とし穴

AnthropicのApplied AIチームに所属するBarry氏は、エージェント開発中に「モデルがよく分からない挙動を取る」という壁に何度も直面したと語っています。たとえば、「OSWorld」というベンチマーク環境でエージェントが不可解なコードを連続生成し、デバッグに苦労したというのです。

「しばらくはモデルの出力をただ眺め続けるだけで、『なぜこんな手順を踏むのか?』と首をかしげることも多かったですね。途中からは、“自分自身がClaudeになったつもりで考える”というアプローチを取るようになりました。」

ポイントは、「モデルは人間とは異なる文脈や情報量で動く」という認識です。ツールの説明や環境設定を“人間向け”ではなく“モデルが理解しやすい形式”にきちんと書いてあげることで、無駄なステップを減らし、成果物の精度を向上できるといいます。

2-2. コード生成エージェントの有用性

エージェントを活用する分野の一つとして注目を集めるのが、「コード生成」です。研究チームのErik氏によれば、コード生成のエージェントが優れている理由の一つに「テストで検証できる」点が挙げられます。

「コードは、単なる文章と違って、テストが通るかどうかという厳密な合否判定があります。モデルにコードを生成させてテストし、失敗したら再度修正させるというループが機能すれば、ある程度の品質を自動で担保できます。」

もっとも、実環境のプロジェクトではテストケースが不十分な場合も多く、そこがエージェントの性能を制約する要因になりやすいともいいます。「最終的には、人間がレビューしなければいけない」が「テストがある分、他のタスクよりは自動化が進めやすい」というのが現状です。

2-3. マルチエージェント環境の可能性

また、Barry氏は、エージェント同士が相互作用するマルチエージェント環境に大きな可能性を感じています。彼自身、社内での実験として「複数のClaude同士を対話させ、MafiaやWerewolfなどの推論ゲームを実行させる」テストを行ったことがあるそうです。

「複数のエージェントが同じ環境でそれぞれの目的を追求すると、人間が想定していない動作や推論パターンが見えてきて、本当に面白いですね。まだ生産的なタスクに直結しているわけではありませんが、“モデル同士が協調・競合しながらタスクを解決する”未来像が見えた気がします。」

3. 過剰な期待と現実的な展望


3-1. BtoC向けエージェントは、“やや過剰”

世の中では、「何でも自動化するエージェント」のイメージが先行しており、旅行予約やスケジュール管理などを完全に任せようとする動きもあります。しかし、Erik氏は、「旅行予約などの消費者向けエージェントはまだ過剰に期待されすぎている」と指摘します。

「旅行の予約をすべてエージェントに任せるぐらいなら、指定や希望条件を事細かに伝える手間を考えると、自分で予約したほうが早い場合も多い」

また、「確定前にいちいちチェックが必要になるタスク」が多いため、結局は、人間側の労力をゼロにはできないという問題もあります。もちろん、将来的には、エージェントがユーザーの嗜好や過去のデータを学習し、十分に信頼できる状態まで進化する可能性は大いにありますが、現時点ではまだ“理想像”に近い段階だというわけです。

3-2. 企業向け業務自動化には、大きな期待

一方で、エージェントが、「ある程度明確な評価軸を持ったタスク」を大量に自動化する用途では、すでに活用が広がりつつあります。たとえば、

  • 受付や顧客サポートの自動化

  • コードの単体テストやドキュメント更新の自動化

  • 大量のデータ収集やマイニング作業

など、人間が行うには膨大なリソースを要する業務が、エージェントによって10倍・100倍のスケールで実行できるようになりつつあるのです。
「コストが安ければ、以前は不可能だった量のタスクを処理できる」のがエージェントの強みといえます。

4. 開発者へのアドバイス


4-1. 計測とフィードバックループの徹底

Erik氏は、エージェント開発を始めるときの最重要ポイントとして「結果を測定し、改善を検証する仕組み」を挙げています。

「とにかく自分たちが作ったエージェントがどれだけの成果を出せているか、しっかり測る必要があります。測定の指標を設定しないまま開発を続けると、いつの間にか複雑化しすぎて、“実はシンプルなワークフローで十分だった”という事態にもなりかねません。」

コード生成やウェブ検索など、合格・不合格の基準がはっきりしているタスクから始めると、テストやログを活用しやすいため、エージェントの改善サイクルを回しやすいといいます。

4-2. ツール説明・環境設計を丁寧に

エージェントに外部ツールを使わせる際、「人間が分かるから大丈夫」ではなく、「モデルにも分かるように明示的に書く」ことが重要です。Barry氏もこう語っています。

「開発者が使う機能なら説明は不要だと考えがちですが、モデルはパラメータ名やドキュメントをそのまま読むしかない。
中身がブラックボックスのままだと『AとB、どっちを呼べばいいんだ?』と混乱しやすいんです。」

つまり、エージェントに使用させるツールやAPI関数には、「何を入力し、どのような出力が期待されるのか」をわかりやすく記載しておく必要があります。人間のプログラマーにとっても同様ですが、エージェントの場合は更にプロンプト文自体の一部になるため、手厚いドキュメントを付けるメリットが大きいのです。

エージェントという概念が注目を集める一方で、その有効活用はまだ黎明期にあります。ワークフローとの明確な違いを理解し、「エージェントでなければならない理由」があるタスクから着手するのが得策でしょう。とくに(1)テストが容易、(2)エラーが発生しても損失が比較的小さい、(3)スケールが大きいほど生産性が上がるといった条件を満たすタスクでは、エージェントが非常に有用になります。

一方、消費者向けの複雑タスク(旅行予約など)は、まだ過剰に期待されすぎている傾向があります。とはいえ、ユーザーの嗜好やこれまでの利用履歴を学習することで、将来的にはより高度な自動化が実現される可能性も十分に存在します。

今後は、単一エージェントでの自動化から一歩進み、複数エージェントが協働・競合する“マルチエージェント”の時代へと進むかもしれません。すでにWerewolfやMafiaといったテキストベースのゲームで、複数のClaude同士が新たな推論や戦略を見せる事例も出てきています。

最後に、エージェント開発に取り組むすべての開発者に対して、「まずはシンプルな仕組みから始め、継続的な測定と改善を行う」という姿勢を強く推奨します。モデルの性能が向上すればするほど、自社プロダクトの価値が高まっていくような形のシステム設計を意識することで、エージェントの進歩を最大限に活用できるでしょう。


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