“次の1929”はあなたの目の前に?AI・信用バブルから読み解く成長と落とし穴
ニューヨーク・タイムズのコラムニストであり、著書『Too Big to Fail』で知られるアンドリュー・ロス・ソーキンは、2025年の「Masters of Scale Summit」で現在の経済状況を「1929年との不気味な共鳴」として語った。
彼の新著『1929』は、大恐慌の真相を綿密に再構成しつつ、現代のAIブームやレバレッジ投資、国家資本主義の台頭との共通点を浮き彫りにする。
1. 投機とイノベーションの「双子関係」
ソーキンは開口一番、「投機はイノベーションの“悪い双子”ではなく、結合した双子のようなものだ」と語った。
テスラもスペースXも、最初は“狂気の賭け”から始まった。すなわち、イノベーションは必ず投機を伴う。
だが問題は「どこまでが健全な投機か」という点にある。
AIやデータセンター開発では、巨額の前借り構造が急速に進む。ソーキンは例として「AMDがOpenAIにチップを売り、OpenAIはその取引で得た株式評価益を担保に資金を調達する」といった“循環的金融”を指摘した。
これは1929年の「証拠金取引(1ドルで10ドル借りる)」や、2008年のサブプライムローンの構造と酷似している。
「借金は成長を加速させる“魔法の成分”だが、同時に破滅を呼ぶ着火剤でもある。」
2. 1920年代の鏡像:クレジット革命と「金融の民主化」
1920年代のアメリカは、初めて個人信用が普及した時代だった。
GMが自動車ローンを導入し、Searsが家電を分割販売、そして銀行家チャーリー・ミッチェルが「株を買うための融資」を広めた。
その結果、誰もが“投資家”になれる幻想が拡散した。
今日の「Web3」「生成AI」「ベンチャー投資の一般開放」なども、同じ理屈で語られている。
「金融の民主化」という名のもとに、一般投資家が高リスク領域へ導かれているのだ。
ソーキンは、「過剰な保護は“庶民の機会”を奪う」とする一方で、開かれた市場ほど詐欺や誇大宣伝の温床にもなると警告した。
3. 国家資本主義の台頭 ― 政府が「勝者」を選ぶ時代
ソーキンが特に危惧するのは、政府と企業の関係が急速に変質している点だ。
米国政府は、税制外で企業の利益の一部を“シェア”する形で関与を強めている。半導体補助金やエネルギー支援などは、その典型だ。
「いまの構造は、まるで“マフィアの取り分”だ。『一部を寄こせ。でなければ取引は認めない』という構図に近い。」
過去にこうした国家関与がうまく機能したのは、危機対応(銀行救済、GM再建)など限定的な場面だった。
だが現在のように常態化すれば、自由市場の中立性が失われる。
中国が国家資本主義を成功させている一方で、米国では「政治的報酬」と「産業政策」が混ざり合い、企業倫理の判断軸が曖昧になりつつある。
4. 企業経営者のジレンマ ― 政府に従うか、信念を貫くか
ソーキンはアップルのティム・クックやNvidiaのジェンセン・ファンを名指しで批判はしなかったが、
「長期的には好ましくない取引だと知りながら、経営者が沈黙を選んでいる」と語った。
規制産業では“同調圧力”が強く、異を唱えれば市場から排除されるリスクがある。
彼は、「今声を上げなければ、将来それすら許されなくなる」とも警鐘を鳴らす。
しかし同時に、**現実的な経営判断として“沈黙を選ぶ合理性”**も理解していると述べた。
5. ジャーナリズムの進化と「真実」の多層化
最後にソーキンは、報道の役割についても語った。
「ジャーナリズムは死んでいない。むしろ、これほど多くの情報が瞬時に届く時代はない。」
しかし問題は、人々が“自分に都合のよい真実”を探す時代になったことだという。
SNSの台頭により、誰もが自分の“ニュース編集者”となり、意図的に異なる情報源を選び取る。
結果として、真実そのものよりも“解釈の争奪戦”が進行している。
彼は、「1929年の報道もまた、楽観と沈黙のバランスを誤った」と振り返り、現代のメディアにも同じ危険があると指摘した。
結語:バブルの終焉は「教訓の始まり」
ソーキンは悲観ではなく希望をもって講演を締めくくった。
「危機のあとには、必ず革新が生まれる。私たちは痛みを通じてしか学べないが、学んだ後には必ず次の時代を創る力が生まれる。」
AI革命がもたらすバブルがいつ終わるかは誰にもわからない。
だが1929年も2008年も、そして今も、人類は「欲望」と「規律」の境界を探り続けている。
その意味で、“1929”は過去ではなく、常に現在進行形の物語なのだ。
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