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米住宅市場の未来を読む:Pretium創設者ドン・マレン氏の投資哲学

本記事では、米国の大手投資銀行ゴールドマン・サックスの投資家向け番組「Great Investors」に登場したドン・マレン(Don Mullen)氏へのインタビュー内容をもとに、住宅市場や投資の現状と将来像を探ります。マレン氏はゴールドマン・サックスを経て独立し、不動産分野を中心とした投資企業Pretiumを創設。現在、約570億ドルの運用資産を抱え、米国最大級のシングルファミリー住宅(戸建て賃貸)を運営・管理する投資家として注目を集めています。

インタビューでは、金融危機以降の住宅市場の変化や、シングルファミリー賃貸ビジネスの成長要因、新たな住宅ローンのあり方、さらにご本人のキャリアと人生観まで多岐にわたる話題が取り上げられました。本記事では会話の内容をセクションごとに整理し、専門的なトピックをより理解しやすい形で解説していきます。


1. 住宅市場の変遷とPretium創設の背景


1-1. 金融危機から見えた“世紀の投資機会”

2008年の世界的金融危機は、住宅ローン市場にも大きな打撃を与えました。マレン氏によれば、この危機が「投資環境そのものを一変させた」というのがPretium誕生のきっかけです。彼はこう語っています。

「私が目にしたのは、危機が生んだ“不健全な住宅ローンの整理”と“持ち家から賃貸への大規模な移行”でした。そこにこそ世紀の投資機会があると考えました」

特に、住宅市場全体で見ると「約1000万人のアメリカ人がホームオーナーから賃貸に移行する」構造変化が起こり、物件価格も大幅に下落。優良な資産を割安に取得できると考えたマレン氏は、ゴールドマン・サックスでグローバル・クレジット&モーゲージ部門を率いた経験を活かし、2012年に自らの投資会社Pretiumを立ち上げました。

1-2. ディストレスト資産と住宅ローン市場の新常態

金融危機後は「Qualified Mortgage(QM)」などの新たな規制が導入され、住宅ローンの貸し出し基準は厳格化されました。その一方で、自己営業(個人事業主、コンサルタント、芸術家など)やW-2を持たない人に向けた「Non-QM(非QM)ローン」が登場。マレン氏は、こうした新領域が「まだ十分には満たされていないニーズが大きい」と述べています。

「Non-QMはベン・バーナンキ(元FRB議長)のようにW-2がない人や小規模ビジネスオーナーのためのローンです。彼らが家を買う術を提供することは、金融サービス上も社会的にも非常に意味があります」

銀行が融資基準を強化し、個人投資家の住宅保有が難しくなるにつれ、新興のプライベートクレジット企業(特に住宅やクレジットに特化した会社)の存在感が増大。マレン氏のPretiumも、ストレス下にある住宅ローン債権の取得・再生や、「Fix and Flip(買い付けて修繕し、転売)」投資家への融資で大きく事業を伸ばしてきました。

2. シングルファミリー住宅投資の魅力と実務


2-1. 賃貸のインスティテューショナル化

米国のシングルファミリー住宅(戸建て)を、プロの投資家が大規模に取得・運営するビジネスは、かつては「市場があまりに分散しているため不向き」と見られていました。しかし、マレン氏の見立ては異なります。

「今では数百億ドル単位の資金を動かして、全米各地の物件を『持ち、運営し、修理し、貸し出す』まで、一貫して管理する企業が出てきました。複雑ですが、運営会社ごとコントロールすることで投資効率を高められます」

Pretiumは、業界最大規模のシングルファミリー賃貸のオペレーターとして、現在約3~4%程度とされる“機関投資家による戸建て賃貸マーケット”をさらなる成長余地とみています。ここには、いくつかの社会的意義もあると強調されています。すなわち、伝統的には高いクレジットスコアや頭金が必要な地区であっても、戸建てを借りて暮らせることで、良質な学区へのアクセスが広がり、貧困の再生産を防ぐ効果が期待できるというわけです。

2-2. 住宅供給不足の長期的見通し

米国の住宅市場では、リーマン・ショック後に住宅建設数が激減し、供給不足が続いています。一方、新たなファーストタイムバイヤー層として台頭したミレニアル世代の需要増加や、移民政策など複数要因が重なり、需要が拡大。この需給ギャップは2040年頃まで続くとの見方もあり、「住宅価格や家賃の継続的な上昇圧力」がかかる可能性が高いとマレン氏は指摘します。

とはいえ、金利上昇局面では需給構造がさらに歪む面もあります。通常、金利の上昇は需要を抑制すると考えられますが、一方で現在のように急激に金利が上がると、既存物件の売り出しが激減し、結果的に在庫不足が深刻化。金利の上昇が「住宅価格を押し上げる要因になる」という逆説的な状況も生じているわけです。

3. 組織運営とキャリア観


3-1. Goldman Sachs時代と“楽観主義”のカルチャー

マレン氏はゴールドマン・サックスで約10年を過ごし、グローバル・クレジット&モーゲージ部門を率いていました。そこで得たのは「質の高い人材の結束、強い楽観主義とハードワーク、そしてリスク管理意識のバランス」という考え方だったと振り返ります。

「ゴールドマンには、常に『会社を成長させるんだ』というポジティブな雰囲気があります。そこに共感し、全員でまとまって働けることは大きな強みだと思います」

同時に、マレン氏自身がパートナーに昇進した後、CEO(当時)のロイド・ブランクファイン氏と「ワーク・ライフ・バランス」について話し合ったエピソードも印象的です。彼は「離婚後に子どもをフルタイムで預かる週があり、その週だけは絶対に夜は子どもと夕食をとりたい」と伝え、当時はかなり珍しかったそうですが、同社からその働き方を認めてもらい、結果的には「同社内でのワーク・ライフ・バランス施策の象徴的な存在」として扱われたと語っています。

3-2. 多彩な企業文化から学んだこと

マレン氏は、キャリアの中で、ファースト・ボストン、ドレクセル、サロモン・ブラザーズ、ベア・スターンズ、そしてゴールドマン・サックスと複数の名門金融機関を渡り歩きました。それぞれで「企業文化の違い」から大きく学んだそうです。なかでも共通して言えるのは「優れた組織は高い目的意識と強い連帯感で動いている」という点です。

「どの企業もリーダーのスタイルやリスク管理の仕組みは違います。でも結局、優秀な人材が一丸となって、ある程度の成長を遂げている企業は“ハードワークかつ前向き”なんですよね。」

4. 個人的な関心と生活


4-1. アートとニューヨークのハイライン

マレン氏は、投資家としての顔だけでなく、現代アートの熱心なコレクターとしても知られています。ニューヨークの名所「ハイライン(High Line)」にアート作品を展示するプログラムを立ち上げたのも彼の貢献によるものでした。

「ハイラインに初めて協力を求められた際、“ゴミ収集プログラムのスポンサー”になってほしいと言われたんです(笑)。私としては、せっかく世界に誇る公園に成長しつつあるなら、アートも取り入れるべきだと思い、後から“じゃあアートプログラムをやろう”という話になりました」

この取り組みは世界各地の都市開発プロジェクトにも大きな影響を与え、老朽化した高架線路の再生モデルとして評価されています。

4-2. ファミリーとの時間

さらに意外なのは、マレン氏に5歳の子どもがいるという事実。既に30代の大きなお子さんもいる一方で、今は「再び幼い子どもと過ごす時間が何よりの喜びだ」と語ります。

「人間が得られる幸せの中で、子どもの成長を見られることほど素晴らしいことはありません。仕事も大好きですが、家族との時間は格別ですね」

5. 今後の展望と“パターン認識”の強み


5-1. 住宅市場のさらなる拡大と海外進出

マレン氏は、米国の住宅事情について「まだまだ供給不足は解消されない」と強調します。加えて、「リーマン・ショック後に銀行が撤退したホームビルダー向け融資や、新築・改装需要は尽きない」ため、プライベートクレジット企業の出番が続くと予測します。

「銀行が貸し渋っている今、民間の融資がホームビルダーを支えています。米国だけでなく、イギリス、カナダ、オーストラリアなども同じ問題を抱えていますから、今後は国際的な広がりも見えるでしょう」

彼は、これまで複数の金融危機を乗り越える中で培った「長期的なパターン認識」が、自身の一番の強みだとしています。リスクを敬遠しつつも、将来を見据え、組織ごと新しい投資モデルを築き上げる。それがPretiumの中核的な価値創造の源泉だというのです。

5-2. AIとイノベーションによる労働生産性の向上

最近はAIの進化にも注目しており、「単なるチャットボットとしての生成AIに限らず、機械学習がもたらす生産性向上のインパクト」を感じているといいます。

「今後10年、あるいは数十年のスパンで見ると、AIがもたらす労働生産性の上昇は非常に大きい。90年代のITブームがもたらした成長以上かもしれません。そうなれば、不安定な要素があってもGDPは伸びていくと、私は楽観しています」

6. ライトニングラウンド:投資家の横顔


最後に、インタビューの締めくくりとして行われた短いQ&A(ライトニングラウンド)から、マレン氏の人柄をうかがわせる主な問答をまとめます。

  • 初めての投資
    「ニューヨークのブリーカー通りのスタジオアパートを買ったことですね。その後に買った長期債券(30年国債)も忘れがたいです。当時14%くらいの利回りでしたから!」

  • 愛聴する音楽やコンサート
    「娘にからかわれますが、最近はCharli XCXやChappoなどを聴いています。一方で、ローリング・ストーンズやブロンディ、トーキング・ヘッズといった“古き良き”新潮系ロックも大好きです」

  • 最も尊敬する投資家
    「いろいろいますが、短期的な値動きも的確に読む人、組織構築が上手い人など、さまざまな強みがあると思います。デイヴィッド・テッパーは素晴らしい投資手腕の持ち主ですし、マーク・ローワンは事業構築力が特に卓越していますね」

  • 最高のアドバイス
    「父が言っていた“働くハードさは自分でコントロールできる”という言葉です。生まれた環境や才能は選べなくとも、どれだけ努力するかは自分次第ですから」

ドン・マレン氏は、世界的な金融危機により激変した住宅市場の「構造の空隙」をいち早く見抜き、Pretiumを創設して大きく成長させた人物です。機関投資家によるシングルファミリー賃貸ビジネスや、Non-QMローンなどの新しい分野に資本と運営ノウハウを集中投下することで、新たな住宅投資エコシステムを作り上げました。

同時に、彼はキャリアの過程で得た「企業文化の大切さ」「家族との時間を重視する姿勢」「アートを通じた社会貢献」など、多面的な価値観を持ち合わせる人物でもあります。今後も住宅ローン規制やAI技術の進化といった複数の要素が重なり合い、米国のみならず世界的に住宅市場のあり方は大きく変化していくでしょう。そんな時代においても、マレン氏のように“長期的なパターン認識”を軸に、社会的ニーズと投資の融合を図ることこそが、次のビジネスの可能性を開く鍵になるのではないでしょうか。


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