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YCの過去・現在・未来——Garry Tanが語るスタートアップ支援の本質

Y Combinator(YC)の現CEOであるGarry Tan氏が、自身のキャリアの軌跡とYCの変遷、そしてサンフランシスコの政策リスクについて率直に語った。Winnipeg出身の移民二世がシリコンバレーの中枢に至るまでの道のりと、スタートアップエコシステムの現在地を整理する。


1. YCとは何か——基本的な仕組みと実績


YCは、オンライン申請から始まるアクセラレーターだ。コネクションなしで誰でも申請でき、採択率は約1%。採択されると約50万ドルの資金と引き換えに7%程度の株式を提供する。しかし、金額よりも重要なのは、15人のパートナーによる伴走支援だと Tan氏は強調する。「10分のミーティングで50万ドルの投資判断を下す。Shark Tankのように見えるが、あちらには10億ドル企業がゼロだ。我々はすでに100社以上を輩出している」。

YCは、20年前にPaul GrahamJessica Livingstonが実験的に始めたもので、初回バッチには、Reddit創業者やSam Altman氏が参加していた。現在は年間700〜800社を採択しており、2012年以降に設立された時価総額50億ドル以上の企業の約20%がYC出身だという。

2. YCの変遷——3つのフェーズ


2-1. 黎明期(2005〜2010年)

最初のバッチは、ボストン(ケンブリッジ)で開催され、創業者への支給額はわずか1万3,000ドルほどだった。Tan氏自身も2008年のバッチに参加しており、これがケンブリッジでの最後のバッチとなった。転換点となったのはDropboxとAirbnbの台頭だ。「1回成功したら運、2回成功したら実力。Airbnbがその証明だった」とTan氏は振り返る。これ以降、投資家のYCへの注目が一気に高まった。

2-2. 拡大期(2011〜2022年)

Tan氏は、2011年頃からパートナーとして参画した。初期ファンド「Initialized」でCoinbaseとInstacartへの投資を中心に55倍以上のDPIを達成し、べき乗則の威力を実感した。「100社に投資して、98社の合計が1倍。残り2社がすべてだった」と語り、VC投資の非線形な性質を率直に認める。

2-3. 現在のフェーズ(2022年〜)

Sam AltmanがOpenAIに専念するため離れた後、Brian Chesky(Airbnb CEO)らの強い要請を受けてTan氏がCEOとして復帰した。復帰後は「ファウンダーモード」を旗印に、リモートだったプログラムを対入したオフィスでの対面形式に戻し、サンフランシスコのDogpatch地区に拠点を移した。バッチ期間も13週に延長した。

3. YCへの申請——何が採択を分けるのか


Tan氏が繰り返し強調するのは「作ること(make)」の重要性だ。YCの核心にある言葉は「Make something people want(人が欲しいものを作れ)」であり、これが入所時にTシャツとして渡される。

採択のポイントについては、「10分の面接で判断する以上、それがパートナーに響くかどうか」に尽きるとしながらも、実際に動くプロダクトと実際の顧客を持つことが最大の強みになると語る。また、一度落選した創業者の約3分の1から半数がその後に採択されており、「落選からの回復力そのものが創業者としての資質を示す」とも述べた。

年間約8万件の申請に対し採択は700〜800社。落選することへの心苦しさを率直に語りつつ、「1度の拒絶で諦めるなら、創業者には向いていないかもしれない。創業の道には1,000回の拒絶がある」と続けた。

4. 創業者自身の内面的な課題


Tan氏はキャリアの中で繰り返し「rage quit(衝動的な辞職)」をしてきたと告白している。Palantirでの勤務、自身のスタートアップ「Posterous」でのCo-founder関係でも同様のパターンがあったという。

「私は自分の意見を飲み込むことで関係性を守ろうとしていた。でもそれは間違いだった。優れたCo-founderは常に議論する。ただ、その議論はどんな場合も関係性より重要にはならない」。

このパターンをコーチングと療法を通じて認識したことが、自己変革のきっかけになったと語る。「馬と騎手」のメタファーを用い、強い意志力(騎手)が感情(馬)を抑圧し続けた結果、最終的に爆発してしまうという構造を説明した。こうした内面の課題がそのままスタートアップの組織文化に反映されるという点を、Tan氏は創業者にとって最も根本的な問題の一つとして位置づけている。

5. サンフランシスコとカリフォルニアの政策リスク


Tan氏が強い懸念を示したのが、カリフォルニア州の政策動向だ。SEIU(サービス従業員国際組合)が推進する「富裕税」(Tan氏は「資産没収税」と呼ぶ)は、純資産10億ドル以上の個人に5%の一時課税を行うもので、住民投票(プロポジション)として秋に上程される可能性がある。

問題は、その設計だ。Larry PageやSergey Brinのように実質的な議決権を保有している創業者は、その議決権の割合で資産評価される可能性があり、「実際の資産の半分相当が課税対象になりかねない」とTan氏は指摘する。

「すでに約1兆ドル相当の個人資産がカリフォルニアを離れた。税収の76%は上位10%が負担しており、彼らが去れば中間層への負担が増す」と語り、サンフランシスコのグロスレシーツ税(売上高課税)についても、StripeやSquareが市外に移転した原因として言及した。「空室率30〜40%の現実がある。Product Market Fitを達成したスタートアップが、なぜサンフランシスコに留まるのか、という問いに答えられないといけない」。

それでも、Tan氏は「私はサンフランシスコにオールインしている。ただ、制度的な観点からは他の選択肢も検討しなければならない」と述べ、ケンブリッジ(MIT・Harvard近郊)への拠点拡張も視野に入れていることを明かした。

6. YCの次の一手


Tan氏が掲げる目標は、YC卒業企業のシェアを現在の20%から30〜50%へと引き上げることだ。そのために「リバッチング(rebatching)」と呼ぶ構想を試みる予定で、シリーズA調達後の企業に再度バッチ形式の支援を提供する実験も始めるとしている。

「YCを運営するにあたって、自分たちもスタートアップと同じ方法論で考える。マネージャーモードではなく、ファウンダーモードで動く」とTan氏は締めくくった。

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