「AIに本当にお金が落ちている場所」— a16z×Mercuryの実支出データで読み解く最新地図
記事:
a16zが10月2日に公表した「AI Application Spending Report」は、Mercuryの20万社超のスタートアップの実支出データ(2025年6–8月のACH/カード/送金)をもとに、“どのAIアプリに実際の予算が落ちているか”を初めて体系的に示したものだ。クラウド(Azure等)やGPU(CoreWeave等)は対象外で、Googleは、CloudとGeminiの支出が合算という方法論上の注意も明記されている。ランキングは、“使われている感”ではなく“請求書ベースの現金支出”で並ぶ点が肝だ。
1. 横断型アプリが主役——“全社で使う”AIが増殖中

レポートは、横断(Horizontal)60%:縦(Vertical)40%という構成比を示す。横断型の中核は、汎用LLMアシスタントで、上位には、OpenAI(#1)、Anthropic(#2)、Perplexity(#12)、Merlin AI(#30)が並ぶ。さらにLLMワークスペースとして、既存ファイル上にAIを呼び出すNotion(#10)やManus(#33)が台頭。「勝者総取り」というより、用途に応じてUIやモデルを使い分ける“併用”の実像が見える。
1-1. 会議支援の群雄割拠
ミーティング支援では、ノート取り・要約・その場のフィードバックまで多様化。Fyxer(#7)、Happyscribe(#36)、Plaude(#38/ハードウェアPin)、Otter AI(#41)、Read AI(#49)に加え、Cluely(#26)の“リアルタイム助言”型も登場している。同カテゴリー内の勝者未定という混戦ぶりが特徴だ。
1-2. クリエイティブは“最大単独カテゴリ”
クリエイティブ系は、Freepik(#4)とElevenLabs(#5)が牽引。Canva、Photoroom、Midjourney、Descript、Opus Clip、CapCut、アバター系のArcads(#47)、Tavus(#50)まで幅広く、“デザインチーム専用”から“全員がクリエイター”へと裾野が広がった。
2. 縦型アプリは、「人を増強」か「AI従業員」か
縦型は、人の増強(copilot)が主流で、AI従業員(end-to-end代替)はまだ少数派という実態が明確だ。前者の代表例は下記の通り。
カスタマーサービス:Lorikeet(#8)、Customer.io(#14)、Ada(#40)、Crisp(#46)
営業/GTM:Instantly(#13)、Clay(#25)、11x(#37)
採用/HR:Micro1(#9)、Metaview(#19)、Applaud(#43)
オペレーション:Delve(#11/コンプライアンス)、Combinely(#29/会計)
一方、AI従業員型としては、Crosby Legal(#27/法務)、Cognition(#34/AIエンジニア)、11x(#37/自動GTM)、Serval(#39/ITサービスデスク)、Alma(#42/移民法務)が登場。まずは、“人の生産性を底上げ”する領域から支出が浸透し、完全自動化は段階的に進む見通しだ。
3. “Vibe Coding”は職場に着地——Replitが象徴的躍進
Replit(#3)、Cursor(#6)、Lovable(#18)、Emergent(#48)のアプリ構築系がランクイン。とりわけ、Replitは、Lovableの約15倍の売上(Mercury観測)を上げ、プロトタイプ量産より本番運用(DB・認証・安全な公開・エンタープライズ管理)に直結する価値が購買の決め手になっていることを示した。「職場でAIがアプリを“組み立てる”」という現実が、支出データで裏付けられた格好だ。
4. コンシューマー→プロシューマー→エンタープライズの“圧縮”
約7割の製品が個人導入→チーム拡張の経路を取り、Consumer Top 100と今回のエンタープライズ支出ランキングに12社が重複。OpenAIのように消費者:法人の売上ミックスが急速に拮抗してきた例も示され、“まず個人に刺さる”→“即エンタ機能を装備”というPLGの時間圧縮が進む。支出データは、UI層(Notion、Manus、Perplexity、Merlin AI等)がまだ収斂していないこと、会議支援やクリエイティブでも標準化前夜の多様性が続くことを教える。
5. 読み解きのポイント——“クリック”より“予算”を追え
実需の所在:OpenAI/Anthropicに次ぎReplit、Freepik、ElevenLabsが上位という“意外な組み合わせ”は、体験の話題性と支出の継続性が一致しない現実を示す。請求書ベースの指標はPMFの質をより鋭く映す。
統合と分散のせめぎ合い:アシスタント/会議支援は並走状態。UIや“社内の置き場”を握る者が、中長期の標準を決める可能性。
自動化の臨界:Crosby Legal/Cognition/11x/Serval/Almaの“AI従業員”は、信頼性・責任境界の設計が鍵。まずは、人間 in the loopを前提に確実にROIが出る領域から広がる。
方法論の限界を踏まえる:観測期間は3カ月、Mercury経由の支出のみ、Googleは、Cloud+Gemini合算。“方向性の強いナウキャスト”として活用すべきだ。
6. 主要プレイヤー一覧(本文に登場した企業を網羅)
モデル/アシスタント等:OpenAI、Anthropic、Perplexity、Merlin AI、Notion、Manus
会議支援:Fyxer、Happyscribe、Plaude、Otter AI、Read AI、Cluely
クリエイティブ:Freepik、ElevenLabs、Canva、Photoroom、Midjourney、Descript、Opus Clip、CapCut、Arcads、Tavus
縦型(増強/オペレーション):Lorikeet、Customer.io、Ada、Crisp、Instantly、Clay、Micro1、Metaview、Applaud、Delve、Combinely
AI従業員系:Crosby Legal、Cognition、11x、Serval、Alma
アプリ構築(Vibe Coding):Replit、Cursor、Lovable、Emergent
(※AzureやCoreWeave等のクラウド/GPU事業者はレポートの範囲外。GoogleはCloudとGemini合算。)
結論
このレポートは、“どの体験が継続課金に耐えるか”を示す生データだ。横断カテゴリの分散と、縦型の段階的自動化、クリエイティブの全社化、Vibe Codingの実務定着という4つの潮流が、今後の統合・標準化の着地点を左右する。投資家・事業者はクリックや話題性ではなく、予算の流れを追うべきだろう。
