SaaSからAgenticへ──Vistaが描く第5次産業革命と知識労働の変容
2025年6月、ベルリンで開催されたPrivate Equity業界最大級のカンファレンス SuperReturn International にて、Vista Equity Partners CEOのロバート・F・スミス氏が登壇。彼は同社が進める「Agentic AI Factory」構想の全容と、エンタープライズ・ソフトウェア業界や労働市場に与える影響について、端的かつ力強い見解を披露した。
1. Agentic AIとは何か?
1-1. ジェネラル・パーパス技術としての位置付け
スミス氏は、Agentic AIを、新たな汎用目的技術(GPT: general purpose technology)と位置付けています。これにより、エンタープライズ・ソフトウェアは従来のSaaSモデルから進化し、エージェント(AIが判断・実行する仕組み)を搭載したシステムへ変革されつつあると語りました。
1-2. Vistaの“Agentic AI Factory”戦略
Vistaは、現在、180か国・70以上の業界に展開する自社ポートフォリオ企業を対象に、Agentic AI Factoryという構造化された変革工場を構築中です。クラウド化を進めた際と同様の“Factoryモデル”でSaaS企業をAgentic化し、その中でエージェント搭載の企業と、それを中長期的に活用する企業の双方を育てています。
2. 価値創出と収益インパクト
2-1. 生産性およびROIの飛躍的向上
スミス氏は、従来の企業ソフトウェアのROI(投資対効果)が平均625%であったのに対し、Agentic化では、これが「指数関数的(exponential)な伸び」を実現すると断言しています。
また、GPTモデルを内包するエージェントは、コード生成・製品開発・カスタマーサポートなど多岐にわたる業務効率を70%以上向上させ、「ルール・オブ・40」から「ルール・オブ・70」へと評価指標を塗り替える可能性があると提唱。
2-2. モデル変革を進めるプレーヤー
News記事では、Microsoft、Salesforce、Workdayらがコパイロットを超えた本格的エージェントAIを投入中であり、価格設定・収益モデルの再定義も急務となっているとの報告があります。VistaのAgentic AI Factoryも同様に、SaaS企業がエージェントを搭載・販売できる土壌を整える役割を担っています。
3. 労働市場への影響
3-1. 知識労働者の大規模再編
世界に約10億人存在する知識労働者は、いまや40兆ドル規模の経済活動を支えていますが、スミス氏は「全員がAgentic AIの影響を受ける」と指摘。
たとえば、カスタマーサポートでは、1人のエージェントが最大15人分の対応を担えるようになるケースすらあり、エージェント非活用のままでは“生き残り”が厳しくなる局面に突入していると強調しました。
3-2. 職務の変容とスキルシフト
「40%がエージェント付き、60%は仕事を失うか再配置される」という予測も披露。スミス氏はこの変化を避けるよりも、“エージェントを使いこなすオーケストレーターへ”進化することが生き残りに不可欠であると説きます。
4. セキュリティとテクノロジー観点
4-1. サイバー攻撃のリスク増と量子暗号
エージェント導入により攻撃面(surface area)が拡大し得るため、Vistaは量子暗号を使った対策を進めています。
4-2. クラウドからの次ステップ:「Agenticクラウド」
Agentic AIは、クラウドを超える“AIオペレーティング・システム”への転換でもあります。これは単なる機能ではなく、全体のワークフローと判断体系を再構築する根源的プラットフォームになるとの見方も。
5. ヘルスケア領域への応用機会
5-1. レギュレーション下でのAgentic導入
ヘルスケア企業は、規制環境の中でAgenticエージェントを安全に管理・導入する必要があります。Vistaは既にある投資先で3倍のTAM(市場機会)を目指すAgentic商品を設計中と報告。
5-2. コンプライアンスを担保する「指揮系エージェント」
同社は「管理的エージェント(administrative agent)」を導入し、高度なワークフロー統制と規制遵守を組み合わせた仕組みを構築中。これにより、規制産業でのAI展開をスムーズかつリスク低減しつつ実現可能としています。
6. 市場・投資の視点と展望
6-1. ソフトウェアを「食う」のではなく「育てる」
エージェントAIは、既存ソフトウェアの代替ではなく、既存資産を強化し再評価させる方向の技術です。データ・ワークフローの独占権を持つ企業がエージェント化で優位性を維持すると述べています。
6-2. 貿易・サプライチェーン問題とのリンク
Vistaは、自社プラットフォームを通じて関税・貿易協定変化をリアルタイムでモデル化する分析機能を既に構築中で、これにより今後の交渉環境に即応する企業優位を狙っています。
結論
Vista Equity Partnersが進める“Agentic AI Factory”は、単なる技術的トレンドではなく、エンタープライズ・ソフトウェアの構造再設計と、職務構造・市場構造の大刷新を狙った野心的取り組みです。ロバート・F・スミス氏は、「AI時代には、“人とエージェントの協調”を設計できる企業だけが生き残る」と明言しました。
今後、規制産業へのAI統合、セキュリティ強化、貿易やサプライチェーンへ適応するリアルタイム機能がAgentic AIの核心領域となるでしょう。その先にあるのは、知識労働の再発明と、新たなビジネス評価軸の確立です。
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