2025のAI予測は当たった?企業AIの現実と「2026はEvalsの年」
「2025年のAI予測、当たった?外れた?」──この問いを、企業向けAIの現場目線で“採点”していくのが本稿のテーマです。登場人物たちは、半年前に立てた予測を自分たちで振り返り、最後に「2026年前半に何が起きるか」を改めて予測します。結論から言うと、技術は前に進んだが、企業で“安心して使い切る”には壁が厚い。そして、壁を越える鍵として「評価(evals)」と「現場データの扱い」が、より中心に寄ってきています。
1. 2025年予測の総括:進歩はしたが「勝ち切っていない」
半年前の予測を振り返ると、参加者の空気感は一貫していました。
“できるようになった”と“広く使い切れた”の間に深い谷がある、という認識です。最終スコアも象徴的で、自己採点は「C〜D」あたりに落ち着きます。ここには、企業導入が“技術の話”だけでは終わらない現実がにじみます。
2. エージェントは本番投入された でも「限定的」
予測:「企業でエージェントがプロダクションに乗る」
評価:部分的に的中(ただし規模も範囲も限定)
現場の感触はこうでした。
「エージェントは本番にいる。でも、使い方はまだ“控えめ”」
特に刺さった論点は、“エージェント”の言葉が広すぎることです。情報収集だけの軽いものから、複数ツールで複雑な手順を回すものまで、同じ単語で呼ばれてしまう。
そして、決定的なブレーキは信頼性。
「99%〜99.9%レベルの信頼性がないと、本当の価値は出ない」
現状は、深掘り調査(deep research)的な「集めて整える」用途は伸びても、DBを書き換える/業務を確定させるような行為は怖い。企業にとっての“事故”は、面白い失敗ではなく損失だからです。
3. ワークライフバランスは良くならない それどころか増えることも
予測:「エージェントで9-to-5に戻る」
評価:ほぼ不的中(少なくとも短期では)
皮肉な一言が象徴します。
「これは企業向けの話で、私の話じゃない」
つまり、現場の手触りとして「楽になった」と言い切れる人が少ない。理由は2つ。
1つ目は、AIはしばしば“作業量の削減”ではなく“期待値の上昇”を生む。
「できるようになった分、もっと出せるよね?になる」という現象です。
2つ目は、使いこなしコスト。
「結局、AIの挙動を理解して、デバッグして、チェックする時間が増えることもある」
企業側も、導入初期は高品質な評価が必要で、関係者がむしろ忙しくなる。結論として、短期の“時短”より、生産性の再配分が先に起きる、という見立てでした。
4. 自律型・長時間稼働エージェントは「まだ想像の中」
予測:「人が横に張り付かない自律エージェントへ」
評価:現時点では不的中(ただし、“兆し”はある)
ここは全員が慎重でした。自動運転を引き合いに出し、
「楽観はできる。でも“路上に普通にいる”までの時間は想像より長い」
というたとえが出ます。
一方で、例外が“コーディング”です。
「コーディングエージェントは、あなたがいない間に仕事を進めてくれる」
ただし、その後に人間がチェックする現実も残る。
つまり、低リスク領域ほど自律化が先に進む。企業でお金や顧客に直結する領域は、同じスピードでは進まない──これがこの章の肝です。
5. 2026年前半の予測①:マルチモーダルが“ゼロから非ゼロ”へ
予測:「企業でマルチモーダルが増える」
言い方が巧妙で、“急増”ではなく“非ゼロになる” という控えめな表現でした。企業はテキストだけで完結する仕事より、画像・音声・図面・動画・PDFなど、現実世界の“汚いデータ”を抱えています。
「企業データは散らかっている。だからこそマルチモーダルが鍵」
モデル性能の底上げが進むほど、企業は「使える形に整備する」方向へ投資しやすくなる、という読みです。
6. 2026年前半の予測②:「評価(Evals)の年」になる
もう一つの大きな予測は、企業がようやく腹落ちする領域。
「価値を出すには、ユースケースに合わせた評価データと専門家が必要」
かつては「モデルが賢いから、社内で何とかできる」と思われがちだった。しかし現実は逆で、代表性・多様性・継続改善を満たす評価設計が難しい。ここに“謙虚さ”が生まれた、という指摘が重要です。
さらに、評価は、“回答の良し悪し”だけでなく、エージェントの行動(tool use、トレース、意思決定)へ比重が移りつつある。ただし、完全にひっくり返ったわけではなく、移行の途中にある、という温度感でした。
7. 2026年前半の予測③:企業は「ギャップ」を集め始める
最後に面白いのが、“チューニング/カスタマイズが主役になる”という見立てです。今は汎用モデルで満足度80%を取りにいき、人が最後の20%を仕上げる。例として「デューデリジェンス(調査レポート)」が挙げられました。
ここから先は、「最終成果物ではなく、“どこが足りないか”のデータを集める」
つまり、プロが手直しするポイント=ドメイン固有の要件を可視化し、その差分を埋める設計へ進む。これは企業AIが“デモ止まり”から“業務の武器”になるための、最後の一歩です。
8. おまけの予測:次に伸びるのは教育領域
「次の6か月で伸びるドメインは?」という問いに、教育が挙がります。理由は、利用者(学生)もデータも多く、フィードバックが回るから。さらに教育は「答え」ではなく、「学びの道筋を作る(カリキュラム、ゲーム化、理解の定着)」が価値になる。リスクも比較的コントロールしやすい、という整理でした。
結論
この対談が示したのは、2025年の企業AIが「可能性の証明」を進めた一方で、2026年は「運用の科学」に入る、という流れです。エージェントは増える。しかし信頼性と責任の壁がある。だからこそ、評価(Evals)とデータ整備、そして“ギャップを埋めるカスタマイズ”が前面に出てくる。
派手なブレイクスルーより、地味な改善が勝敗を決める──そんな“企業AIの現実”が、ここにはありました。
