【3/8 - 3/14】注目の海外スタートアップ大型資金調達
米国のスタートアップやテック企業を中心とした大型資金調達の動向は、イノベーションの方向性や市場のトレンドを把握するうえで非常に重要です。先週は公共安全や半導体、ライフサイエンス、サイバーセキュリティなど多様な領域で大きな資金が動きました。本稿では、2023年3月8日から3月14日の間に発表された資金調達トップ10を紹介し、各企業の事業内容や注目すべきポイントを解説します。
1. Flock Safety(調達額:2億7500万ドル / 公共安全)
1-1. Flock Safetyとは
Flock Safetyは、公共安全のための統合プラットフォームを提供するスタートアップです。ライセンスプレートリーダーや銃声探知、AI搭載のビデオカメラなど幅広いソリューションを展開しており、治安維持や事件の迅速な対応を支援します。さらにドローンを「ファーストレスポンダー」として活用する技術も取り入れており、事件・事故の際にはいち早く現場の状況を把握できるよう設計されています。
1-2. 目覚ましい成長と評価額
Andreessen Horowitzが主導した今回のラウンドにより、Flock Safetyはなんと時価総額75億ドル(約1兆円)規模に到達しました。同社はすでに年次経常収益(ARR)で3億ドルを突破しており、公共安全分野で急成長を遂げるスタートアップとして大きな注目を集めています。創業は2017年と比較的若い企業ながら、これまでに累計6億5600万ドル近くを調達しており、同分野の新たな“ユニコーン”を超えた存在としてさらなる拡大が見込まれています。
2. Celestial AI(調達額:2億5000万ドル / 半導体)
2-1. フォトニクスによる高速コンピューティング
Celestial AIは、光通信による超高速のデータ伝送技術を活用し、従来の半導体の限界を克服しようとするスタートアップです。フォトニック・ファブリック(photonic fabric)と呼ばれる独自のプラットフォームによって、演算とメモリを分離し、大量のAI処理を高速かつ省エネルギーで実行することを目指しています。
2-2. さらなる進化に期待
Fidelity Management & Research Co.が主導した今回の調達では、評価額25億ドルと報じられました。2022年にもThomas Tull氏のUS Innovative Technology Fundのリードで1億7500万ドルの資金調達を行っており、今後のAI需要拡大にあわせて一層の進化が期待されます。創業からわずか数年で総額5億1500万ドル以上を調達しており、光技術と半導体の融合により新たなコンピューティングの可能性を切り開いています。
3. Lila Sciences(調達額:2億ドル / ライフサイエンス)
3-1. AIと科学の融合
ライフサイエンスの世界では近年、AI技術が新薬開発や実験の自動化に大きく活用されています。Lila Sciencesは、まさにその最前線を走るスタートアップで、「世界初の科学的スーパーインテリジェンス(scientific superintelligence)プラットフォーム」を構築すると表明しています。実験の設計や仮説構築においてAIを活用し、生命科学や化学、材料科学の研究効率を飛躍的に高めようとしています。
3-2. 大規模シードラウンドの背景
Flagship Pioneeringなど複数の投資家から、シードラウンドとしては極めて大きい2億ドルを調達した点は業界でも大きな話題です。従来の研究では膨大なデータを人間が分析し、仮説を立てて検証していましたが、同社はAIを「研究者のパートナー」として活用することで、画期的な発見や新たな科学的アプローチを生み出す可能性があります。こうした先端企業の台頭は、学術界やビジネス界の連携をさらに加速させるでしょう。
4. Cybereason(調達額:1億2000万ドル / サイバーセキュリティ)
4-1. 投資と経営の大きな転換点
ボストン発のサイバーセキュリティ企業Cybereasonは、ソフトバンクやSoftBank Vision Fund 2、Liberty Strategic Capitalから1億2000万ドルの投資を受けました。同社は2021年にはリバティ・ストラテジック・キャピタル(スティーブン・ムニューシン元米国財務長官のファンド)のリードで2億7500万ドルを調達し、当時の評価額は31億ドルに及んだと報じられています。しかし近年は経営体制や資金繰りに関する問題も取り沙汰され、前CEOのエリック・ガン氏が起こした訴訟で会社の去就が注目されるなど、波乱含みの状態にあります。
4-2. 新CEOと再始動
今回の投資では、マニッシュ・ナルラ氏が新たにCEOに就任することも発表されました。サイバー攻撃の高度化が進む中、米国やグローバル市場では引き続きサイバーセキュリティの需要が拡大しています。Cybereasonは一時IPO(新規株式公開)の準備を進めていたものの、市況の冷え込みや経営トラブルなどの要因で軌道修正を余儀なくされました。今後の再建と成長戦略に注目が集まっています。
5. Dexterity(調達額:9500万ドル / ロボティクス)
5-1. 単調作業の自動化を狙うロボット
レッドウッドシティを拠点とするDexterityは、物流や倉庫内の単純・反復作業に特化したロボット開発を行う企業です。具体的には、トラックなどからの荷下ろしや仕分け作業などを自動化し、人手不足や労働コスト増加といった問題を解決するソリューションを提供しています。
5-2. 投資ラウンドの評価
今回の9500万ドルの調達によって、評価額は16億5000万ドルに達したと報じられました。同社は2017年の創業以来、累計で2億9100万ドルを調達。ロボット技術は多岐の業界で実用が進んでおり、今後も大手物流会社やEC事業者との連携が強化される見込みです。
6. Ditto(調達額:8200万ドル / 情報技術)
6-1. エッジ環境下でのデータ同期
サンフランシスコ発のDittoは、エッジ環境下のデバイスやクラウドとの間でリアルタイムのデータ同期を実現する技術を提供しています。オフライン時でもデータの整合性を保ち、再接続時にはスムーズに同期が行われる点が最大の特徴です。
6-2. 今回の資金調達と評価額
Top Tier Capital PartnersとAcrew CapitalがリードしたシリーズBで8200万ドルを調達し、ポストマネーバリュエーションは4億6200万ドルに到達しました。2018年創業のまだ若い企業ですが、すでに累計で1億3600万ドルを調達しており、モバイルアプリやIoT、産業用システムなど幅広い分野での採用が期待されています。
7. Mesh(調達額:8200万ドル / 暗号資産・ブロックチェーン)
7-1. 暗号資産決済ネットワーク
Meshはサンフランシスコに拠点を置く暗号資産の決済ネットワークを提供するスタートアップです。暗号資産による支払いをよりシームレスかつ高速に行えるようにすることで、既存の金融インフラでは対応しきれないグローバルでの即時決済を目指しています。
7-2. Paradigm主導のシリーズB
Paradigmがリードした今回のシリーズBで8200万ドルを調達し、これまでの累計調達額は1億2000万ドルを超えました。2020年創業とまだ歴史の浅い企業ではありますが、暗号資産市場の回復や規制の明確化に伴い、今後大きく成長する可能性があります。
8. Nirvana Insurance(調達額:8000万ドル / 保険)
8-1. AI駆動の商用トラック保険
Nirvana Insuranceは、AIを活用して商用トラック向けの保険商品を提供するスタートアップです。運行データのリアルタイム解析やリスクプロファイルの最適化など、従来の保険会社では対応が難しかった技術ソリューションを打ち出しています。
8-2. 成長を支えるシリーズC
General CatalystがリードしたシリーズCで8000万ドルを調達し、評価額は約8億5000万ドルに迫りました。2021年創業からわずか数年で1億6200万ドルを調達しており、物流・運送業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するベンチャーとして注目が集まっています。
9. Lumafield(調達額:7500万ドル / 製造技術)
9-1. 工業用X線CTテクノロジー
Lumafieldは、産業用のX線CTスキャン技術を開発するスタートアップです。高精度の3Dイメージングを手頃な価格かつクラウドベースで提供することで、製造業の品質管理や研究開発プロセスを劇的に効率化します。
9-2. シリーズCと今後の展開
IVPが主導した7500万ドルのシリーズCラウンドを通じて、同社の累計調達額は1億4300万ドル近くに達しました。2019年創業と新しい企業ながら、素材分析や故障解析など、多様な業種での利用が期待されています。
10. MicroTransponder(調達額:6500万ドル / 医療機器)
10-1. 神経疾患治療デバイス
オースティンを拠点とするMicroTransponderは、神経学的疾患の治療に用いる医療デバイスを開発しています。具体的には、脳や神経を電気刺激することで機能回復を促す技術を持ち、リハビリテーションの領域で効果が期待されています。
10-2. さらなる研究開発への投資
U.S. Venture Partnersが主導した6500万ドルのシリーズF資金調達により、累計調達額は1億8000万ドルに到達しました。長年の研究成果を臨床応用へと結びつけるための試験や規制当局への承認申請など、多方面での活動が本格化するでしょう。
以上が3月8日から3月14日にかけて発表された米国の大型調達トップ10企業です。今回の動向からは、以下のポイントが読み取れます。
公共安全・公共サービス:Flock Safetyが象徴するように、ライセンスプレートリーダーや銃声探知などのテクノロジーが注目されており、多くの投資家が治安維持ソリューションの将来性を高く評価しています。
AI×産業・科学:Celestial AIやLila Sciencesのように、AIを産業技術や科学研究に融合するスタートアップが続々と現れ、大規模な資金を集めています。
サイバーセキュリティの重要性:Cybereasonの資金調達が示すように、セキュリティ分野は依然として高いニーズがあり、経営体制に混乱があっても大手投資家が注目しています。
ロボティクス、ブロックチェーン、保険などの多様化:Dexterityの倉庫自動化、Meshの暗号資産決済、Nirvana InsuranceのAI保険など、各セクターでDXが加速していることがうかがえます。
投資金額のインパクトや評価額の上昇からは、米国のスタートアップ市場が引き続き高い成長性とイノベーションを誇っていることがわかります。一方、Cybereasonのように資金調達をめぐる経営リスクも見過ごせない状況であるため、今後は株式市場やマクロ経済状況の変化に伴い、スタートアップ業界がどのように舵を切っていくかが注目されます。いずれにせよ、新技術や先端研究を取り巻くエコシステムは、資本の流入を追い風にますます活気づくと考えられます。
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