『スイス的中立』で勝つ――BoxGroup・Greg Rosenが語る協働型ベンチャー戦略
近年、ベンチャー投資の業界では、スケール志向のモデルが主流となる一方で、新たなアプローチとして“協働型ベンチャー(Collaborative Venture)モデル”が注目されています。本文では、BoxGroupのパートナーであるGreg Rosen氏が語る、スタートアップとの関係構築と投資戦略にまつわる考え方を、「From BoxGroup to Benchmark and Back」というテーマのもと、詳細に解説します。
Greg Rosen氏は、BoxGroupでトップティアのシード投資ファームとしての地位を築いた後、Benchmarkへ転身し、再びBoxGroupへ戻った経験を持ちます 。この背景を踏まえ、彼の投資哲学・実践モデルを紐解きます。
1. 協働型ベンチャーとは何か
1-1. 協働モデルの定義と意義
従来、ベンチャー投資の初期段階では、複数のファンドが共同で出資することが一般的でした。しかし、近年、資金量の増加とオーナーシップ競争により、この協働モデルは衰退してきました。
BoxGroupは、あえて「リード投資を避け、多くのファンドと協働する〝スイス的中立性〟を保つ戦略」を採用。これは、投資対象企業にとって「最初に“イエス”と言える存在」を目指す投資スタイルです。
1-2. スケール志向との対比
一般的にはファンドがスケールするには、大きな資金でリード投資を行い、シリーズA以降も主導権を握ることが常道。しかし、BoxGroupは違います。彼らは多数の投資を通じてリターンを狙い、リード投資とは異なる「ボリュームで勝負するスケール」を目指します。
2. 投資モデルの中核:スピード・見極め・“イエス”への導き
2-1. チェックサイズと意思決定の柔軟性
BoxGroupのチェックサイズは、数年前の5075Kドルから現在は75万~100万ドルへと相場に応じて上昇しており、創業者が最初にYesを出しやすいよう配慮されています。
2-2. 悪影響選択(Adverse Selection)を避ける戦略
優れたスタートアップに参加し続けるために、彼らは所有割合を犠牲にしてでも、より良い案件を多く見て参加する戦略を選びます。重要なのは数ではなく「優れたスタートアップにいかに関与するか」であり、Y Combinatorのバスケット手法にも通じる考え方です。
2-3. 投資対象の探し方:数をこなす“見極め力”
“人を見て、アイデアではなく人に投資する”という姿勢で、年間5,000件以上の案件を審査し、70〜80件に出資するスタイルです。
3. 投資戦略の実践面:インバウンドとアウトバウンド
3-1. アウトバウンドの重視
BoxGroupは、創業前の段階にいる一人の人間に対して接触を始めます。イベント開催やキャンパスでの交流など、創業前の“人間”にアプローチすることで、“デッキができてからでは遅い”という哲学を持っています。
3-2. インバウンドの役割は“ケーキのアイシング”
受信インバウンドは安心感があるものの、それだけでは十分ではありません。BoxGroupは、まずアウトバウンドに注力し、インバウンドはあくまで補完的と位置づけています。
4. チーム体制と意思決定:シングルトリガーとイエス志向の文化
4-1. シングルトリガーの採用
BoxGroupでは、1人または少数のチームが「これは」と感じたら、全体の承認を待たずに投資できる“シングルトリガー”方式が採用されています。これは、意思決定を迅速にし、機会を逃さないためです。
4-2. イエスへ導く文化
投資チームは、反対するのではなく、いかに“イエス”を導くかを重視。否定ではなく前向きな対話を通じて、可能性を見出す姿勢を共有しています。
5. 成功する“見極めの目”の獲得
5-1. “テイスト”は半分は生得、半分は経験
Greg Rosen自身も「投資家には生まれつきの“テイスト”があるが、多くは経験によって磨かれる」と語ります。
5-2. 直感を信じて動く勇気
3回目のミーティングに進む場合、それは直感が信号を送っているサインであり、“それなら投資しよう”という態度に切り替えることが、鋭い判断を支えています。
6. 時間の使い方:カレンダーの「空回り」を防げ
6-1. 無駄を見抜く監査
VCの仕事ほど、「何となく忙しい」が許されやすい領域はありません。BoxGroupは、ネットワーキングイベントやVC間のやりとりなどを「空回り時間」と見なし、創業者との接触に時間を集中します。
6-2. 自分のアーキタイプに集中
VCにも、思想家(哲学者タイプ)・専門家(スペシャリスト)・ネットワーカー(ハイパーネットワーカー)といったアーキタイプがあり、それを見極めて自分が特異な領域に注力することが重要だと指摘しています。
7. ネットワークの深堀と広がりのバランス
7-1. 深い関係と幅広い関係
以前のベンチャー界ではクラン主義的な関係がありましたが、現在は創業者のパワーが増し、VCは“信頼できる推薦者”になる必要があると述べられます。BoxGroupは創業者によって信頼された上で、適切な次の投資家候補を紹介する役割を果たします。
8. 投資先と技術の未来:コード生成とニューラルインターフェース
8-1. コード生成(AI Codegen)の未来
スマホ元年におけるアプリのように、最初は既存技術の移植でしかありませんでした。しかしその後、UberやInstagramがネイティブな表現として台頭したように、AIコード生成分野も現在は過渡期であり、今後“本質的なIDEの進化”や“代理開発環境”が生まれると見ています。
8-2. 脳–コンピュータ間インターフェースへの思索
ロボティクスなどの技術的アプローチよりも、人間の脳と直接データをやりとりする方が、より未来的かつ実現可能な道かもしれない、と壮大な視点で語ります。
結びにかえて
Greg Rosen氏の語る投資哲学—「見極めよりまず“見る”」「人を信じてイエスへ導く」「直感と経験を重ねる」「時間を空回りさせず、自分のアーキタイプに集中する」—は、現代のスタートアップ投資において極めて示唆に富んでいます。
協働型ベンチャーという生きたモデルを通して、VCと創業者の関係あり方、見極め力の鍛え方、未来技術へのアプローチなど、今後の起業・投資界隈にとっても価値ある視座を提供していると言えるでしょう。
