予測不可能性を制する:Aspect Capitalが切り拓くトレンドフォロー戦略の核心
世界の機関投資家から注目を集めるシステマティック投資。その代表格であるトレンドフォロー戦略を核に据え、1997年に設立されたAspect Capitalは、モデリングとリスク管理を駆使して多様な資産クラスのトレンド機会を捕捉し続けている。本記事では共同創業者 Martin Lueck 氏のキャリアや投資哲学を詳しく紐解き、「なぜ予測困難なトレンドを活用できるのか」「トレンド戦略の強みと弱み」「補完戦略や新技術へのアプローチ」など、システマティック投資の本質をわかりやすく解説する。
1. Aspect Capital の誕生と共同創業者の歩み
1-1. 「AHL」の L、Martin Lueck氏の原点
Martin Lueck氏は、オックスフォード大学で物理学を学んだ後、野村に入社。しかし、友人 Mike Adam 氏が父親のコモディティ仲介業務で統計的チャート戦略を試していた姿に触発され、昼休みに HP ワークステーション上でバックテストを開始。
「チャート戦略を統計的にテストしてみたら、すっかり夢中になりました」
こうしてNomura(当時の野村)を離れ、Mike Adam氏とともに父親の会社へ参画。そこに第3の物理学者 David Harding 氏が加わり、システマティック手法の金融市場への応用を追究。後にこれが AHL(当時は Man AHL)の核となり、1997年に Aspect Capital が設立された。
1-2. リテールから機関投資家へ
初期のAHLはリテール向けの運用モデルを展開していたが、
「機関投資家のポートフォリオに意味ある分散効果をもたらすには、透明性と教育が不可欠でした」という理念の下、透明性の高い運用と投資家との協働を重視。システマティック投資を「ブラックボックス」ではなく「理解可能な戦略」として提供することで、機関投資家の信頼を獲得していった。
2. 投資哲学:トレンドフォロー戦略を核に
2-1. トレンドがもたらす分散効果
Aspectの運用モデルは、「上昇相場・下降相場のいずれにも中立的に参加できる」トレンドフォロー戦略を基盤とする。
「先行きも発生タイミングも予測できないトレンドに、適切なリスク管理で乗る」
株式や債券からコモディティ、通貨まで数百に及ぶ先物市場を横断し、トレンド発生時の「危機アルファ」だけでなく、世界各地の構造変化や地政学リスクといった「予測困難性アルファ」を狙う。
2-2. モデルと仮説の重要性
Lueck氏は、「データかモデルか?」という問いに対し、
「モデルなしにデータを見るとノイズに騙される。物理学と同様に、まず仮説モデルを立て、データで検証すべき」と断言。金融市場を観測可能な「実験場」と捉え、まず理論モデルを構築し、その有効性を過去データでテスト。新たな市場環境に対しても、モデルの前提が揺らいだ際には説明可能な範囲で改良を加えていく。
3. トレンド戦略の強みと限界
3-1. 優位性の源泉:モメンタムと人間心理
マーケットにモメンタム(自己相関)が生じる背景には、人間の「FOMO(取り残されたくない恐怖)」「損失回避」など行動バイアスがある。Daniel Kahneman らの研究が示すように、
「人は損失を避けようとするあまり、損切りを先延ばし、利食いを急ぐ」
という非合理がトレンドを生み出す土壌となる。
3-2. エピソディックな発生とシャープリバーサル
トレンドは、断続的かつ予測不可能に発生するため、高い分散効果を発揮する一方で、以下の「弱点」が存在する:
トレンド不在時:マーケットがレンジ相場にとどまり、ポジション構築が進まない
急激な反転:既存ポジションが想定外に逆行し、モデルが方向転換を完了するまで損失が膨らむ
2024 年末の「米国例外主義トレード」も、政策変化に伴う反転で苦戦。これを補うため、補完的な平均回帰型戦略の採用が進められている。
4. 非トレンド戦略との組み合わせ
4-1. 平均回帰型(収束型)ストラテジー
2000 年代初頭から、トレンド戦略のみではリスク許容度の高い機関投資家にも「飲み込みづらい」リターン・プロファイルと判断し、相対価値取引やシーズナリティ分析などの収束型戦略を導入。
「トレンドは、薬、その効果を実感するために、砂糖(収束戦略)で飲みやすくする必要があります」
4-2. カスタマイズ型ソリューション
投資家の既存ポートフォリオに応じ、トレンド比率・収束戦略比率を調整したカスタムポートフォリオを提供。単独戦略での「嵐の時のヘッジ」から、複合運用による安定的なオルタナティブ運用まで幅広く対応。
5. AI・機械学習へのアプローチ
5-1. 解釈可能性を重視する適用範囲
機械学習(ML)やニューラルネットワークへの投資には慎重姿勢を貫く。
「MLはツールに過ぎず、得られたシグナルの裏付けが説明不能なら運用に組み込めない」
信号生成・ボラティリティ予測・ポートフォリオ構築や実行手法の改良など、解釈可能性を損なわない範囲で ML を活用。LLM(大規模言語モデル)も、リサーチ支援ツールとして導入が進む。
5-2. 新規データの発掘とフィルタリング
衛星データ、SNS情報、気候・サプライチェーン指標など、新たなデータセットの探索が活発化。ノイズと有用信号を識別し、既存モデルとの親和性を検証する研究開発に注力している。
6. 人的判断と組織文化
6-1. システマティックでも「人がすべて」
システマティック運用は「人間の感情排除」が誤解されがちだが、
「定量投資も人とのビジネス。モデル構築・リサーチには学術的コラボレーションと多様な視点が不可欠」とLueck氏は強調。文化ドキュメントを策定し、コラボレーティブな研究環境と多様性を重視する社内風土を育んでいる。
6-2. 透明性と教育の重視
機関投資家に対しては運用手法を隠さず公開し、リスク特性やリターン動態を丁寧に説明。透明性向上と共同研究により、長期的な信頼関係を構築している。
7. 今後の展望
7-1. ポータブル・アルファの再評価
従来の「株式一辺倒」のポートフォリオが見直される中、
「流動性・透明性に優れたシステマティック戦略の価値は再び脚光を浴びる」として、ヘッジポートフォリオや危機リスク緩和ポートフォリオへの組み込みが加速。
7-2. グローバル&マルチアセットの機会
地政学リスク、エネルギー転換、気候変動、人口動態シフトなど、資産クラスを超えたメガトレンドの波を捉えるため、従来市場に加え新興市場やテーマ指標の先物取引へのアロケーションを拡大予定。
システマティック投資は「予測不可能性」に挑むアプローチであり、トレンドフォローを中心に多角的戦略と慎重なリスク管理を組み合わせることで、機関投資家のポートフォリオにユニークな分散効果をもたらす。Martin Lueck 氏らが築いた哲学とプロセスは、今後の不確実性時代においても高い有用性を維持し続けるだろう。
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