AIが引き起こすDRAM価格高騰——メモリ半導体スーパーサイクルの構造を読む
AI投資競争が激化する中、思わぬ場所で「クラウディングアウト」が起きている。任天堂の株価急落、Appleの端末値上げ示唆、中国スマートフォン市場の受注削減——これらの共通原因は、DRAMメモリチップの深刻な供給不足だ。Bloomberg「Odd Lots」ポッドキャストに登場したSemi Analysis アナリストのRay Wangが、AIが引き起こすメモリ半導体市場の構造変化を詳細に解説した。
1. なぜAIはこれほどメモリを必要とするのか
1-1. トレーニングと推論、どちらもメモリが律速する
AIがメモリを大量消費する理由は、処理の構造にある。モデルのトレーニングでは、膨大なデータを順次処理しながら前の計算結果を保持し続ける必要がある。推論(インファレンス)においても、ユーザーの入力に対して一連の計算を連鎖的に行うため、処理中のデータを保持するメモリが不可欠だ。
さらに決定的なのはコンテキストウィンドウの拡大だ。GPT-3が登場した頃、ユーザーの質問は単純な一文だった。現在では「20ページのレポートを作成してほしい」という要求が当たり前になり、出力トークン数は入力の何倍にも及ぶ。しかも、OpenAIのGPT利用者は、8億人に達し、Gemini・Claude・その他AIを加えれば全体像はさらに膨らむ。Wangは、「この規模感を掛け算すれば、メモリ不足の深刻さは明白だ」と断言する。
1-2. HBM——AIのために生まれた特殊メモリ
従来の汎用メモリ(DDR系)では、AIの計算に必要なメモリ帯域幅が根本的に不足する。そこで登場したのがHBM(High Bandwidth Memory)だ。複数のDRAMダイを垂直に積層することで帯域幅を飛躍的に拡大した設計であり、Nvidiaのアクセラレーターに欠かせない部品となっている。
汎用DRAMとHBMの製造難度の差は大きい。同一ウェーハ面積で生産できるビット数は、汎用DRAMの3分の1にとどまる。さらにHBM4以降ではこの比率はさらに悪化する見通しだ。供給を食い合う構造が、両市場の同時逼迫を生んでいる。
2. なぜ供給は急に逼迫したのか——需給の歴史的背景
2-1. コロナ後の過剰在庫と投資抑制
2020〜21年のコロナ特需でメモリ各社は大量購入に応じたが、需要は長続きしなかった。供給過剰に陥った各社は一転して設備投資を抑制。2022〜24年にかけてはダウンサイクルが続いた。
この保守的な投資行動の結果、2025〜26年に向けた増産能力(ウェーハ)は構造的に不足している。クリーンルーム(半導体製造に必要な特殊空間)のスペースも逼迫しており、主要3社(Samsung、SK Hynix、Micron)ともに短期的な増産余地は限られる。
2-2. 需要の加速と供給の非対称性
供給が停滞する一方、AI需要は2023年後半から急加速した。Wangによれば、DRAM価格の大幅な上昇が始まったのは2024年後半で、それまでは長らく低迷していた。需給が「スポット価格が示す通り、完全に逆転した」形だ。
さらに、悪化要因がある。HBM需要が急増することで、汎用DRAMの生産に使えるウェーハが削られる。「一方を増やすと他方が減る」というゼロサムのウェーハ争奪戦が今まさに起きている。
3. 誰が打撃を受け、誰が恩恵を受けるのか
3-1. 消費者製品への波及——任天堂・Apple・スマートフォン
クラウディングアウトはすでに始まっている。Appleは、2026年後半のメモリ価格上昇が「意味のある影響を与える」と示唆。MediaTekは、2026年の中国スマートフォン向け供給見通しを10〜15%(約1,000万台規模)削減した。任天堂の株価急落もメモリ調達難が背景にある。
消費者が感じる影響は「価格上昇」だけではない。メーカーが採用するメモリ仕様を下げることで商品価値が低下するケースや、新製品の発売遅延も起きうる。
3-2. 生産者の構造——韓国勢 vs 中国勢
主要プレーヤーは、Samsung・SK Hynix(韓国)とMicron(米国)の3社で、いずれも今年度のCapExを大幅に増加させた。Micronはシンガポールとアメリカに新ファブを建設中で、台湾メーカーからファブを買収するなど積極的に動いている。
中国のCMXP(長江存儲)などの存在感も増しているが、最先端プロセスでは、依然として韓国勢との3〜4年の技術格差がある。中国メモリメーカーの売上の90〜95%は中国市場向けであり、グローバルな競争は主に国内での代替として機能している段階だ。
3-3. 現在の逆説——汎用DRAMの利益率がHBMを上回る
興味深い逆転現象が起きている。通常はHBMの方が高付加価値で利益率が高いとされるが、現在の需給逼迫により汎用DRAMのスポット価格も急騰しており、一時的に汎用の利益率がHBMを上回っている。「では汎用にリソースを振り向けよう」という誘惑があるが、メモリ各社は、長期的な競争優位の観点からHBMへの投資を継続する方針だ。HBMは差別化が可能な領域であり、技術的な遅れを取り戻すのは困難だからだ。
4. スーパーサイクルか、構造変化か——2027年以降の展望
4-1. 今サイクルが歴史的に異質な理由
過去のDRAMサイクルの持続期間は、通常15〜18ヶ月程度だった。しかし、今回は「2023年後半に需要が本格化し、最低でも2027年後半まで続く」とWangは予測する。つまり、約4年間の上昇サイクルという、史上稀な長期構造だ。
過去との最大の違いは、需要側に「新しい消費者デバイス(2010〜12年のスマートフォン革命に相当するもの)」が一つあるだけでなく、HBMという製造資源を消費する新カテゴリが同時に汎用DRAMの供給を圧迫している点にある。需要増加と供給制約が同時進行するダブルパンチだ。
4-2. 2027年に何が起きるのか
供給緩和の鍵は2つある。一つは先端プロセスへの移行(ノード移行)——同一ウェーハ面積からより多くのビットを生産可能にする技術更新で、これは2026〜27年にかけて本格化する。もう一つは新ファブの稼働——今年度以降に着工したファブが量産に入るのは最短でも2028年頃になる。
ただし、Wangは、「2027年も不足は続く」と見る。AI向けサーバーの需要増が汎用DRAMのウェーハをさらに削り続けるからだ。「需要が予想以上に強い場合、2027年の不足は2026年より深刻になる可能性もある」と述べる。
おわりに——AIは「エーテルの中の存在」ではない
ポッドキャストのホストであるJoe Weisenthalは番組の最後に本質をついた言葉を残した。「AIはエーテルの中に存在するものだと思っていたのに、こんなにも物理的な世界に影響を与えている」
ゲームが買えない、スマートフォンが値上がりする、PCのスペックが落ちる——こうした「日常の変化」が、実はAIというシリコンの獣に供給資源が吸い取られていく過程の産物だ。DRAM市場は長らくチップ業界で最も地味な存在だったが、今やAI時代の最重要インフラを巡る戦場となっている。投資家にとっても、産業動向を追うビジネスパーソンにとっても、目が離せない市場だ。

