NVIDIAだけが逆行高した日——中国受注・中東リスク・Anthropic訴訟が交差した1日
S&P500が下落し、Nasdaq100も軟調な中、NVIDIAだけが緑色を維持した。原油価格は、ブレント原油で5%超上昇し、中東紛争が、19日目に入ってもなお収束の兆しが見えない。PPI(生産者物価指数)はFRB会合を前に既存のインフレ圧力を示していた。
それでも、NVIDIAが買われた背景には、ジェンスン・ファンCEOが中国からの受注を確認したこと、そして$1兆の需要予測に「上振れ余地がある」という補足情報があった。Bloomberg Techの放送から、この日の主要な論点を整理する。
1. NVIDIA——中国受注の確認と$1兆予測の「上振れ」
1-1. H200チップの中国向け販売拡大
ファンCEOが、GTCでH200チップの中国向け販売を拡大していると明言した。これは投資家が注目していた需要の地理的広がりを示す材料だった。
市場で議論されていたのは「$1兆」という数字の解釈だ。あるアナリストは、この数字は既存製品に基づくものであり、今後リリースされる新製品は含まれていないと補足した。「$1兆という数字が発表された段階では市場があまり反応しなかったが、それがベースラインに過ぎないという理解が広がると状況が変わった」という見方だ。
1-2. 需要の多様化——ハイパースケーラーは60%に
注目すべきは需要構造の変化だ。以前は、Microsoft・Google・Amazonといったハイパースケーラーがほぼ全需要を占めていたが、現在は約60%にとどまっている。残り40%は企業が自社内AIシステムを構築するための需要が占めつつある。
「これはNVIDIAにとって重要な変化だ。特定の大口顧客への依存が下がり、需要基盤が広がっていることを示している」とBokeh Capital PartnersのCIO Kim Forrestは述べる。
1-3. 慎重な見方——「Y2K問題」という歴史的教訓
一方で、Forrestはバランスの取れた見方も示した。「ドットコム時代のY2K対応が一巡した後、IT支出が期待されたように継続しなかった。それと同じことが起こりうる。企業がAIに支出し続けるのには目的があり、永遠に続くものではない」という点を警告した。
また、LLMが今後5年間も支配的な技術であり続けるかどうかについても懐疑的な見方を持っており、Open Claudeのような効率的なアーキテクチャが台頭すれば、処理能力の需要が変化する可能性があると指摘した。
2. 中国テック——OpenClawとTencentの二重の追い風
2-1. Tencent決算——AI投資を2026年に倍増
Tencentが、12月期決算を発表した。売上成長率は13%で、5四半期連続の二桁成長。広告・ゲーム部門が牽引した。ただし、AI投資倍増計画により自社株買いを縮小することも明らかにした。
決算の中で注目されたのは、OpenClawへの言及だ。TencentのCEOは、「OpenClawは、我々のWeChatエコシステムにとって大きなインスピレーション源であり、クラウドコンピューティングの活用を助けてくれる」と述べた。
2-2. Alibaba——最大34%の値上げという収益化戦略
Alibaba(木曜日に決算発表予定)は、先行して、クラウドとコンピューティング製品を最大34%値上げすることを発表した。香港株が4%上昇した。投資家はAI投資の収益化にどう繋げるかを注目しており、値上げはその具体的な回答のひとつとして評価された。
3. Kalshi——アリゾナ州の刑事告訴と「連邦先取権」の戦い
3-1. 刑事告訴の背景
予測市場プラットフォームKalshiに対し、アリゾナ州が刑事告訴に踏み切った。同社が「違法ギャンブル事業」を運営しているという容疑だ。ただし、CEOのTarek Mansourは、告訴の動機に疑問を呈した。
「これはギャンブルの是非についての訴訟ではない。もしそうであれば、連邦裁判所での法的プロセスに任せればいい。アリゾナ州の検察官は、我々が連邦裁判所に提訴してから5日後に刑事告訴に踏み切った。これは司法プロセスの逸脱だ」
3-2. 争点——州法対連邦規制
Kalshiが主張するのは「連邦先取権(Federal Preemption)」の原則だ。CFTCという連邦規制機関に認可された金融取引所は、州法の管轄外であるという解釈だ。
「同じ法的論理をCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)やNasdaqに適用すれば、同じ刑事告訴が成立してしまう。連邦規制の目的は、こうした政治的動機のある攻撃から金融市場を守ることにある」とMansourは述べた。
アリゾナ州の検察官が再選を控えていることも触れ、政治的動機の可能性を示唆した。
4. Anthropic——国防総省との訴訟と「信頼できるパートナー」問題
4-1. 訴訟の経緯
トランプ政権は、Anthropicを連邦機関から排除しようとしており、「信頼できるパートナーではない」との立場を示している。背景は、国防総省がAnthropicに対し、自社技術の軍事利用に関する契約変更を求めたが、Anthropicがこれを拒否したことにある。
連邦政府側は、「Anthropicが同意しなかったことで、その技術は軍事上の許容できないリスクとなった」と主張。Anthropicは、「技術の展開に一定の制限を設けることを求めただけ」と反論している。
4-2. ビジネスへの影響——コンシューマーへの思わぬ波及
Bloombergのレポーターは、この訴訟が、Anthropicのビジネスに二重の影響を与えると分析した。政府契約では、数億ドル規模の損害が生じる可能性がある一方、コンシューマー向けとしての認知度は高まる皮肉な状況にある。実際、AnthropicのClaudeアプリは最近急速に普及している。
5. Xbow——攻撃型サイバーセキュリティで$1.2億調達
GitHub Copilotを開発した元GitHubのCEO Oege de MoorがCEOを務めるXbowが、$1.2億を調達し評価額10億ドルを超えた。
Xbowが提供するのは「攻撃型AIサイバーセキュリティ」だ。自社のAIエージェントをハッカーワンのプラットフォームに投入し、数ヶ月で世界トップのハッカーになったという。
「機械速度の攻撃には機械速度の防御が必要だ。問題は古い道具で現代のシステムを守ろうとすることにある」とde Moorは述べた。
セキュリティ人材の絶対的な不足という構造問題を踏まえ、「各Xbowエージェントは新しいチームメンバーのようだ。今まで知っていながらできなかったことが突然スケールできるようになった」というユーザーの言葉が引用された。
6. Gradient Ventures——$2.2億でFund 5を完成
GoogleをシングルLPとして出発したGradient Venturesが、Fund 5として$2.2億を調達。運用総額は約$12億に達した。Mercado Libreや保険会社、財団などのLPを加え、LP基盤を多様化した。
Darianは、AIの「バブル領域」について明確に述べた。「基盤モデル企業——OpenAI・Google・xAI・Anthropicの競合として資金を集めている企業——には投資しない。モデル層は資本力の戦いであり、どれだけ調達できるかで決まる」
一方で、AIインフラ・アプリケーション企業のシードラウンドは適正価格が多く、$300万の平均投資で10〜15%の持分取得が可能だという。
まとめ——「同じ日」の複数の構造変化
この1日だけで、NVIDIAの中国需要確認・中東リスクの高まり・Kalshiの法的戦い・Anthropicの政府との対立・Xbowの資金調達・TencentとAlibabaの中国AI戦略が動いた。
共通するテーマはひとつだ——AIは単なる技術トレンドではなく、地政学・法制度・政府との関係・競合構造すべてに絡みついた複合的な構造変化だということ。その中でどの会社がどのポジションにいるかを追い続けることが、AI時代の投資判断の基本になる。

