Ecolab CEOクリストフ・ベック氏「AIは2030年までにインド1国分の電力とアメリカ1国分の水を毎年追加消費」― データセンター建設の6割が遅延中
AIデータセンターが実際にどれだけの水と電力を消費しているのか、そして、その急増する需要にどう対応していくのか。この根本的な問いに、水処理大手Ecolabの子会社Nalcoの流れを汲む水管理企業、Ecolab(番組内ではEolabと発音)のCEO、クリストフ・ベック氏が答えた。
同氏は水処理業界で30年のキャリアを持ち、世界中のデータセンターや工場、病院、学校など40の産業・300万拠点に水関連サービスを提供してきたという。本稿では、そのインタビュー内容をもとに、AIインフラをめぐる資源消費の実態と今後の解決策について、ビジネスパーソン・投資家の視点から整理する。
1. AIが必要とする資源の規模 ― 「インド1国分の電力」「アメリカ1国分の水」
1-1. 2030年までの見通し
ベック氏は、まず、AIが今後必要とする資源の規模について具体的な数字を示した。今後4〜5年、つまり2030年までに、AIは「インド一国分に相当する増分の電力」と「アメリカ一国分に相当する増分の飲料水」を毎年必要とするようになるという。しかもこれは単年の数字であり、需要は指数関数的に増加を続けているとした。
同氏は、この状況を、150年前にトーマス・エジソンが電球を発明した際の「電気の発明」になぞらえ、AIによる変革は150年ではなく10年というはるかに短い期間で起きつつあると表現した。
1-2. すでに顕在化する水不足との衝突
問題は、こうした需要増加が、自然が供給できる水量とのギャップがすでに存在する状況の上に重なっている点だ。ニューヨーク市をはじめ米国内、さらには欧州でも、この水不足の問題はすでに顕在化しているという。
その結果として、現在進行しているデータセンタープロジェクトの60%が遅延しているとベック氏は明かした。理由の多くは、天然資源(水や電力)が確保できないことか、地域コミュニティの反対によるものだという。
2. なぜコミュニティは反発するのか
ベック氏は、この「コミュニティ」とは決して遠い存在ではなく、自分たちの隣人であり、家族であり、従業員であると強調する。人々が「自分の裏庭にデータセンターを建てられたくない」「水道料金や電気料金が上がるのは嫌だ」と感じるのは当然の反応だという見方だ。
同氏は、AIという技術自体が5年前にはほとんど存在しなかった新しいものであるため、これまでのデータセンターの建設・運用方法が必ずしも理想的ではなかったことを率直に認めるべきだと述べる。その認識に立った上で、新しい解決策を採用していく必要があるとの立場を示した。
3. 「直接チップ冷却」という解決策
3-1. 従来型の空調式冷却の限界
現在のデータセンター冷却の主流は、大規模な空調(エアコン)によって、発熱するコンピューター群を冷やす方式であり、その空調システムを冷やすために冷却塔で大量の水を使用している。ベック氏は、この方式は、もはや今後の解決策にはなり得ないと明言した。
同氏の会社が開発しているのが、「ダイレクト・トゥ・チップ」と呼ばれる冷却技術だ。水ベースの冷却材を各チップに直接届け、冷却後に再び循環させる仕組みで、計算能力を確保しながら、追加の水を一切必要としない状態を実現できるという。
3-2. 「洗車1回分」という目標水準
ベック氏は、この技術によって、新設データセンターが使用する水量を「洗車1回分」程度にまで抑えられると、地域の政治家たちにも説明していると述べた。この数字を提示することで、議論の前提が変わってくるという。
興味深いことに、この直接チップ冷却技術自体は、20年前にビデオゲーム向けGPUの冷却技術として開発されたものだという。当時から高性能・高発熱のGPUには特別な冷却方式が必要とされており、それが現在の高性能AIチップにも応用されている形だ。
3-3. 水の再利用が抱える技術的な難しさ
一方で、水を繰り返し循環させることには技術的な課題も伴う。特に、温かい状態の水は、生物汚染(緑色になる現象)やスケーリング(コーヒーポットに見られる白い付着物)、腐食、漏れといった問題を引き起こしやすい。
そのため、チップから戻ってくる水は、再び標準化(浄化)する必要があり、生物汚染やスケーリングのリスクを完全に取り除いた上でチップに戻す必要があるという。ベック氏は、チップ製造には超純水が使われており、その純度は最も厳格な医薬品用途の水よりもさらに高いレベルが求められると説明した。同氏が挙げた例えでは、五大湖の一つミシガン湖ほどの水量でも、シカゴで角砂糖を一つ落としただけで「超純水」ではなくなってしまうというほどの純度基準が必要になるという。
4. 現状のデータセンターはどれだけ「非効率」なのか
ベック氏によれば、世界には現在約1万カ所のデータセンターが存在し、現在もほぼ毎週1カ所のペースで新設が続いている。しかし、その95〜97%は依然として従来型の空調による冷却方式を採用しており、多くの水を消費しているという。
一方、最新のデータセンターは液冷方式を採用し、さらに最新鋭のものは閉ループ循環方式によって水を一切消費しない設計になっている。つまり、既存のデータセンターの大半は「非効率」な状態にある一方、最新技術を用いた新設分は「洗車1回分」という水準まで改善されているというギャップが存在する状況だ。
5. 発熱をどう扱うか ― 排熱の再利用という次の一手
5-1. 1ギガワットの計算能力は「原発1基分」の熱
チップを冷却する際に発生する熱の処理についても議論があった。ベック氏は、1ギガワットの計算能力を導入するということは、おおよそ原子力発電所1基分に相当する熱を発生させることを意味すると説明した。8ギガワット規模の計算能力を導入するという計画は、原発8基分の熱を処理する必要があるということになる。
5-2. 排熱活用の3つの選択肢
この熱の処理方法として、ベック氏は3つの選択肢を挙げた。1つ目は、単純に大気中に熱を放出する方法で、水は使わないものの気候への影響はゼロではない。2つ目は、都市部に設置されたデータセンターの熱を地域暖房・地域冷房に活用する方法だ。そして、3つ目、同社が現在取り組んでいるのが、その排熱を利用して発電し、データセンター自体の電力需要を削減するという方法だという。
5-3. 冷却比率を40%から10%へ ― 計算能力への転換
ベック氏は具体的な数字を示した。データセンターの電力消費のうち、約60%が計算に、約40%が冷却に使われているという。この冷却比率を40%から10%に抑えることができれば、電力の90%を計算そのものに振り向けられるようになり、これがEcolabの目指す方向性だと説明した。
6. 電力の持続可能性という次の課題
6-1. AIによる電力需要の急増
電力そのものの持続可能性についても議論が及んだ。ベック氏は、AI以前の20年間、世界の電力需要はLED照明などの効率化技術によって横ばい、むしろ緩やかな減少傾向にあったと振り返る。しかし、AIの登場によってこの流れは一変し、電力需要は年5%というペースで増加し始めているという。同氏によれば、AIは現在すでに原発約50基分に相当する電力を消費しており、2030年までにはその倍の100基分が必要になる見通しだが、原発の建設には通常5〜20年、場合によってはそれ以上かかるため、この需要増に間に合わないことは明らかだとした。
6-2. 「まず現地発電」という現実的な対応と再エネの課題
この課題への現実的な対応として、データセンターの近くにガスタービンやディーゼル発電機を設置し、送電網に頼らず自前で発電するという方法が広がっているという。ベック氏は、これが最も環境に優しい方法ではないことを認めつつも、「まず性能を優先し、環境問題は後で解決する」という人間の傾向を象徴する動きだと述べた。
もう一つの道として、同社の拠点があるミネソタ州が、2030年までに電力の80%を脱炭素化する目標を掲げている例を挙げ、水中立かつカーボンニュートラルなデータセンターの構築が今後の方向性になり得るとの見方を示した。
6-3. 再生可能エネルギーをめぐる地政学的な課題
ここでベック氏は、地政学的な論点にも触れた。再生可能エネルギーの分野で先行しているのは中国であり、太陽光パネルの90%、風力タービンについても同様の比率で中国が生産しているという。西側諸国がこの分野への投資を怠り、中国からの輸入に頼ってきた結果、中国の産業に規模とパフォーマンスの優位性を与えてしまったというのが同氏の見立てだ。同氏はこれを「地政学的な課題」と表現し、米国や欧州が自国内でこうした能力を構築していく必要があると指摘しつつも、当面は中国への依存が続くとの現実的な見通しを示した。
7. ニューヨーク州のモラトリアムをどう見るか
番組の収録地であるニューヨーク州では、データセンター建設に対するモラトリアム(一時停止)が進められているとの言及があった。ベック氏は、この動きの背景には、政治家や地域リーダーたちの電力・水消費への懸念があるとした上で、こうした懸念は「正当なものだ」との認識を示した。
同氏は、AI技術革新そのものには強く肯定的な立場を取りつつも、これまでの数年間のデータセンター建設のあり方が、将来にとって正しい方法ではなかったと率直に認めている。2026年単年だけでもデータセンターインフラに9000億ドルが投資される見通しがある中、その経済的恩恵を受けたくない都市・州・コミュニティはないはずだとしつつも、「正しいやり方」で進める必要があるとの立場を強調した。
8. 淡水資源の絶対的な限界
ベック氏は、地球上の淡水資源の絶対量についても印象的な例えを示した。地球上のすべての淡水を一つの球体に集めたとすると、その直径はわずか35マイル(マンハッタンよりやや大きい程度)にしかならないという。この量は数百万年変わっておらず、今後数百万年も変わらない、人類にとっての「全資産」だとした。
さらに、同氏は、AI以前の時点ですでに必要な水量と供給可能な水量の間に56%のギャップが存在していたと明かし、AIの登場によってこの問題がさらに拡大したと指摘した。
9. 2つの未来 ― 悪いシナリオと良いシナリオ
9-1. 悪いシナリオ:資源の枯渇と国際競争力の喪失
番組の最後、ベック氏は2つの未来のシナリオを提示した。悪いシナリオは、現在すでに一部で進行している道筋だ。数千億ドル規模の投資が遅延を続け、自然環境から水を吸い上げ続け、干ばつや山火事、気候への悪影響を引き起こすというものだ。
さらに同氏は、こうした問題を気にしない国々が、その分野での能力を先に獲得し、米国が環境面・コミュニティ面での配慮を怠ったがゆえに、AIの覇権争いで後れを取ることになりかねないと警告した。
9-2. 良いシナリオ:水を永久に再利用するインフラ
一方、良いシナリオは、水を永久に再利用し、追加の水を一切必要としないインフラを構築し、より少ない電力でより多くのデータを処理できる高性能チップを使い、コミュニティから適切に離れた、本来データセンターに適した場所に建設するというものだ。
同氏は、このやり方であれば、米国はAI技術における先進性という優位性を維持しながら、環境とコミュニティの双方にとって望ましい形でその技術を生産し、世界をリードできると結論づけた。

