Vertical AIスタートアップ:CPA(公認会計士)業務の効率化 Fieldguide
近年、AI(人工知能)が多様な業界で注目を集めるなか、会計事務所や監査の世界にも変革が訪れつつあります。本記事では、AIを活用して監査・アドバイザリーを中心としたCPA(公認会計士)業務を効率化するスタートアップ「Fieldguide」を率いるCEO、Jin Chang(ジン・チャン)氏の歩みと、同社が果たす役割を紹介します。幼少期に家族で韓国から米国へ移住した背景や、かつて自らがCPAとして体験した業務上の課題。そして、その経験を活かして創業したFieldguideが、いかにしてAIによるワークフローの自動化を提供し、監査の「つまらない反復作業」を大幅に減らす手段を確立したのか。そのストーリーを具体的にひも解きます。
1. 会計業界が抱える課題とAIの可能性
1-1. 監査・会計の「人材不足問題」とその背景
企業や経済活動において、会計や財務データの正確性を検証する監査は不可欠です。上場企業が公表する四半期・年次決算、あるいは企業間のM&A取引など、信頼できる財務情報が求められる場面は膨大に存在します。しかし、近年は、「CPA人材の供給が需要に追いつかない」 という問題が深刻化しています。Chang氏も、以下のように指摘しています。
「監査・会計業界は、伸びているにもかかわらず、大学で会計を専攻する学生数や、CPA試験を受験する人の数は減少傾向にあります。また、経験のあるCPAが業界を離れるケースも急増しているのです」
この結果、どの監査法人や会計事務所も人材確保に苦慮し、既存スタッフへの業務負荷がさらに増大。その長時間労働や過度のプレッシャーが、さらなる離職へとつながる「負のスパイラル」が起こり得るのです。
1-2. AIがもたらす効率化のインパクト
一方、AIの活用がこうした状況を一変させる可能性を秘めています。特に、契約書や会計資料などの膨大なドキュメントをAIが自動的に読み取り、数字を照合し、不備を検知する一連の流れが実現すれば、監査業務の大部分が大幅に省力化されます。Chang氏自身も、大手監査法人で手作業によるPDFチェックやサンプル抽出を繰り返していた過去を振り返り、
『こんな単純作業こそ機械がやるべきだ』と、現場にいながらずっと思っていました
と語っています。まさに、こうした原体験がFieldguide創業の出発点でした。
2. 移民としての幼少期が育んだ起業家精神
2-1. 「諦めない」姿勢を学んだ家族の物語
Chang氏は、3か月の頃に韓国から渡米し、両親のもとで育ちました。アメリカンドリームを追い、異国の地で様々な職を掛け持ちしながらも、「家族のためなら何でもやる」という両親の姿勢が、大きな原動力になったといいます。
父が車のトランクで時計を売ったり、ガソリンスタンドで時給2ドルの仕事をしたり――まさに『何でもやる』状態でした。でもそこには『家族のため』という強い思いが常にあった。私自身もその姿を見て育ったことで、『困難があってもやり抜く』という価値観を自然と身に付けました
2-2. CPAとしての実務経験から生まれた問題意識
大学卒業後、Chang氏は、EY(Ernst & Young)で5年間にわたり監査・アドバイザリー業務に従事し、現場のリアルを体験します。しかし、反復的で膨大な確認作業が多い日々に、違和感を持つようになりました。
「人間がやらなくても良い部分に莫大な時間がかかっている。もっと生産性を上げられるはずなのに、業界にはなかなか抜本的な変革が訪れない」
何度か退職を申し出るほどに、業務の効率化へ向けたフラストレーションが募っていた時期もあったそうです。しかし結果的に、そうした不満こそが起業の動機となり、後のFieldguide創業へとつながりました。
3. Fieldguide誕生とAIプラットフォームの概要
3-1. Fieldguideの設立経緯
2020年、Chang氏は共同創業者であるChris氏とともに「Fieldguide」を立ち上げます。当初は「法務業界向けのAI」を開発していたスタートアップ(Atrium)で得た知見を活かし、AIによるプロフェッショナルサービス業界の業務効率化に注目。そのなかでも監査・会計領域を最適化することに狙いを定めました。
自分自身が一度は『逃げ出した』とも言える会計業界に戻ってきましたが、『今度こそ本当に役立つ技術を生み出すんだ』と強い決意で挑んだんです
3-2. AIが実現する具体的ワークフローの自動化
Fieldguideが提供するのは、主に以下のような自動化機能です。
監査対象データの抽出とサンプリング
AIが大量の取引データや契約ファイルからテスト対象を自動抽出。
クライアントとの資料授受の効率化
必要書類をAIがリストアップし、クライアントに自動リクエスト。
PDFや画像ファイルの自動読み取り・比較
契約書や請求書の金額、日付、契約相手などを自動認識し、監査手続に必要な根拠をハイライト表示。
レビュー工程のサポート
AIが「仮のチェック結果」を提示し、最終的な判断は人間のCPAやマネージャーが行う。
人間の得意な判断やリレーション構築に集中し、不毛な単純作業はAIが代替する。これにより監査時間を大幅に削減できるのが魅力です
4. Atriumの教訓と成長戦略
4-1. 過去の失敗から学んだ「焦らず、まずはプロダクトを極める」姿勢
Chang氏と共同創業者のChris氏は、以前在籍したスタートアップ(Atrium)が急拡大の末にサービス終了した経験を踏まえ、Fieldguideでは、「コア・プロダクトを徹底的に強化する」方針を貫いてきたといいます。多種多様な機能を一気に展開するのではなく、まずは核となる監査プロセスのワークフローを磨き込み、汎用性を担保した上で他のユースケースへ段階的に広げていく戦略です。
焦って手を広げ過ぎると、いずれ肝心のコア機能が陳腐化してしまう。まずは土台をしっかり固めることで、拡張先も自然と広がりやすくなります
4-2. シリーズB調達後のロードマップ
現在、Fieldguideは、シリーズBを締結し、多額の資金調達に成功しました。調達資金は、「優秀な人材の採用」、「AI機能開発の強化」、「販売・マーケティングの拡大」に振り向けられる見通しです。具体的には、以下の取り組みを予定しています。
AIエージェントの進化
Juniorスタッフの仕事を自動化する「AIスタッフ」、そのレビューを行う「AIマネージャー」など、複数のエージェントが連動し合う世界観を見据えて開発を進行。業務領域の拡大
監査のみならず、IT監査やセキュリティ監査、タックス業務など、幅広いCPAサービスに対応可能なテンプレート群や機能を強化。マーケティングとイベントへの注力
会計業界は、イベントや人的ネットワークがとても重要なため、各種カンファレンス出展やウェビナー、地域単位の勉強会などを活用してブランド認知度を高める。
CPA業界が直面している人材不足や長時間労働の問題は、単に業務の効率化だけでなく、業界全体の持続可能性を左右する重要テーマです。Fieldguideは、「人間が本来取り組むべき価値創造のタスク」と「AIが得意とする定型作業」 をうまく切り分けるアプローチで、会計士たちの負荷を軽減しつつ、サービス品質の向上を目指しています。
Chang氏が歩んできた移民としての挑戦や、大手監査法人での過酷な実務経験、さらには法務系スタートアップでの学び――それらが結実し、現在のFieldguideがあるという点は非常に示唆的です。会計・監査というレガシー産業において、AIが本格的に導入される時代は目の前に迫っています。今後、Fieldguideの成長がどのようにCPA業界を変革し得るのか、その動向からますます目が離せません。
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