a16zグロースファンドが語る投資哲学——Waymo・ElevenLabs・Kalshiはなぜ選ばれたか
「公開市場で今年30%超の成長を見せている企業は5社未満だ」——a16zグロースファンドのGP、Alex Immermanはポッドキャスト「Sorcery」でこう述べた。
成長投資家にとって、高成長企業を探すなら今やプライベート市場を見るしかない時代になっている。OpenAIとAnthropicの2社だけで、昨年1年間に増やした収益は、Mag 7を除く公開クラウド企業の半数分に相当するという。
a16zは、その米国VCドルの18%を集める巨大ファンドでありながら、個々の投資判断は極めて具体的な基準に基づいている。本稿では、Immermanが語ったWaymo・ElevenLabs・Kalshiへの投資論、そして、AI時代のグロース投資哲学を整理する。
1. 「アメリカで最も過小評価されている企業」——Flock Safety
1-1. 毎日2,800件の事件を解決するAIカメラ
話題の起点となったのは、意外な名前だった。Immermanは、「アメリカで今最も過小評価されている企業はFlock Safetyだ」と断言する。
Flock Safetyは、AIカメラを活用した犯罪捜査支援プラットフォームだ。2024年12月にブラウン大学とMITの事件の犯人特定に使われたことで注目を集めたが、Immermanによればそれは「Flockの日常」に過ぎない。同社は毎日2,800件以上の事件解決に貢献しており、これは米国の報告犯罪の約15%に相当するという。
AIが社会に与えるポジティブな影響を示す事例として、Immermanが最も誇りに思う投資先のひとつだ。
2. プライベート市場 vs 公開市場——成長の「大断絶」
2-1. 公開市場に成長企業は残っていない
a16zのパートナーたちが発表したレポートは、プライベート市場を「新たな高成長公開市場」と呼んだ。その背景には数字がある。インターネット・ソフトウェア・フィンテックの公開企業で、今年30%超の成長を遂げている企業は5社未満。一方で、a16zのポートフォリオは、平均成長率100%超を維持している。
企業が上場を急がず、プライベートのままより大きなロードマップを追うようになった結果、成長の果実はプライベート市場に集中している。Immermanは、「成長投資家として今いるべき場所はプライベート市場だ」と明言する。
2-2. グロスマージンへの新しい見方
AI企業の多くは、グロスマージンが0〜50%程度と、従来のSaaS企業の水準(70%前後)を大きく下回る。これを問題視する声もあるが、Immermanの見方は異なる。
「マージンは常に重要だ。ただ、低い理由がLLMコストなら許容できる」というのが基本スタンス。より本質的な問いは、「その企業の価値が他者のモデルに依存しているのか、それとも自社でワークフロー・統合・データという差別化を積み上げているのか」だという。
エンゲージメント指標が、「今日の重要指標」として浮上していることにも触れた。年間契約が多い高成長企業では、契約更新がまだ来ていないケースも多い。実際にプロダクトが使われているかを測るエンゲージメントコホートが、将来の継続率を示す先行指標として重視されている。法律AIのHarveyは、「エンゲージメントコホートが繰り返し改善されており、法律事務所の生命線になりつつある」好例として挙げられた。
3. Waymo——評価額1,260億ドルの自動運転投資論
3-1. シリーズAから全ラウンドに参加
Waymoは、シリーズDで160億ドルを調達し、評価額は1,260億ドルに達した。a16zはシリーズAから全4ラウンドに参加している。
サンフランシスコでは、わずかな車両数で市場シェア25%を獲得し、Lyftを上回り、Uberの強力な競合に成長した。これはハイウェイや空港へのアクセスが限られた状態での数字だ。Immermanは、「今のWaymoは単純に車両台数の制約で伸びが抑えられているだけ。台数が増えれば市場シェアはさらに高まる」と述べる。今年は20以上の新都市へのスケールを予定している。
3-2. ライドシェア市場の本当の規模
現在のライドシェア市場は、約1,250億ドル規模で低二桁成長。しかし、Immermanは、「これはUber初期にタクシー市場を見ているのと同じで、氷山の一角に過ぎない」と分析する。ライドヘイリング全体でも米国の車両走行距離の1%未満しかカバーしていない。
価格が下がれば、自家用車か有人タクシーかWaymoかという選択において、Waymoが最も安い選択肢になる可能性がある。そうなれば、ライドシェア市場は「少なくとも10倍規模に成長する」とImmermanは見る。
3-3. Tesla FSDとの比較
Teslaは、カメラのみのアプローチをとるFSD(完全自動運転)を開発している。Waymoはライダーを含むフルスタック構成で、悪天候下での性能が優位とされる。FSD 14.1は「ディスエンゲージメントが桁違いに改善された」という報告もあり、改善の傾向は評価しつつも、現時点では安全性・実績の両面でWaymoが明確にリードしているというのがImmermanの見解だ。
4. ElevenLabs——音声AIはフィーチャーではなくプラットフォーム
4-1. 5億ドルの調達と企業間顧客の拡大
ElevenLabsは、5億ドルの新規ラウンドを発表した。a16zはシリーズA・B・Cを主導または共同主導しており、今回も主要参加者として名を連ねる。
同社の強みはコンシューマー・エンタープライズの両輪にある。コンシューマー事業は有機的に成長し続け、エンタープライズ側ではMeta・Salesforce・Deutsche Telecomのような大企業が同社のプラットフォーム上でエージェントを構築している。
4-2. 「音声はフィーチャーではなく、プラットフォームだ」
音声AIは「フィーチャーに過ぎない」という批判に対し、Immermanは明確に反論する。「音声はプラットフォームであり、将来的に人間がコンピュータと対話する主要な手段になりうる」というのが同社への投資根拠だ。
同社の用途は営業、カスタマーサポート、採用面接、ヘルスケア、金融サービスなど広範に及ぶ。CEOのMaddyがモデルの競争優位が崩れるという批判を受けながらも「より速く動き、より多くの防御を積み上げる」ことで応えてきた姿勢を、Immermanは高く評価している。
5. Kalshi——規制ファーストが生んだ予測市場の覇者
5-1. 2位への投資から1位への逆転
a16zがKalshiに投資した時点では、同社は報告取引量で2位だった。「私たちはマーケットリーダーへの投資を誇りにしている。だから、2位への投資には強い仮説が必要だった」とImmermanは振り返る。
その仮説の核心は「規制ファーストアプローチ」だ。Kalshiは、CFTC規制を受ける初の予測市場として4年間、規制当局との戦いを続けた。その結果、Robin Hood・Coinbase・CNN・CNBCといった成熟したパートナーとの関係構築が可能になった。
5-2. 予測市場はギャンブルか
「スポーツベッティングに近い」という批判について、Immermanはこう整理する。穀物先物もかつてはギャンブルと呼ばれた。株式・オプション取引も同様だった。投機は流動性を生み、流動性はヘッジを可能にする。そしてKalshiはスポーツブックと異なり、ユーザーが負けた場合に利益を得る構造ではなく、勝敗に関わらず取引の仲介手数料を取るという設計の違いが重要だと述べた。
現在はユーザー数・収益・取引量のすべての指標で1位に浮上している。
6. a16zの投資評価基準——成長・リテンション・エンドステートマージン
6-1. 「成長スノッブ」であることを自認
Immermanは、「私たちは成長にスノッブだ」と率直に述べる。初期グロース段階では年率数百%の成長が期待される。60%成長では複数ラウンドにわたる継続投資の蓋然性が低くなる。
評価の三本柱は、成長率・リテンション・エンドステートマージンだ。グロスリテンションが高ければ翌年の売上確保が容易になり、ネットドルリテンションが高ければ拡張収益が自動的に積み上がる。マージンについては現在の水準より「年次での改善軌道」を重視し、長期的なフリーキャッシュフローへの道筋を見る。
6-2. 「第二幕」を持つ企業かどうか
共通して問われるのは、「第二幕があるか」という点だ。コアビジネスだけで3倍のリターンが見込めても、市場規模の天井が低ければ続けて投資できない。Elise AIはリーシングアシスタントという最初の製品から始まり、現在は追加製品の60%と40%のアタッチ率を記録しながらプラットフォーム化に成功した事例として挙げられた。
まとめ——「市場リーダーへの投資」という一貫した哲学
a16zが米国VCドルの18%を集める理由は、派手な銘柄の羅列だけにあるのではない。Immermanが一貫して語ったのは、「マーケットリーダーに投資する」という原則だ。
映画「グレンギャリー・グレン・ロス」の一節——「1位はキャデラック、2位はステーキナイフ、3位は解雇」——を引用しながら、リーダーポジションの企業が市場時価総額の大部分を積み上げる現実を説明した。ネットワーク効果型のビジネスに限らず、ソフトウェア全般においてもこの構造は成立するという。
AIが急成長する今、プライベート市場の中から「次のリーダー」を見分ける眼を磨くことが、成長投資家の核心的な仕事になっている。

