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ナイキ再建の核心──「スポーツ回帰」で失った棚と顧客をどう取り戻すか

スポーツ界の象徴であり、世界最大のスポーツウェア企業ナイキ。しかし、ここ数年の業績は低迷し、2024年には1日で280億ドルの時価総額が吹き飛ぶ史上最悪の取引日を記録した。株価はいまだパンデミック期の半値以下。再起を託されたのが、社歴32年のベテランであり2024年にCEOへ復帰したエリオット・ヒル氏だ。彼が掲げる再建のキーワードは明確である——「Return to Sport(スポーツへの原点回帰)」。


1. 「Return to Sport」──再建の核心はスポーツに戻ること


ヒル氏は、CEO就任初日に掲げたスライドにこう書いた。「私たちはスポーツの会社であり、成長の会社だ。アスリートを再び中心に置く。
ナイキはこの数年、デジタル直販(D2C)への偏重や店舗販売網の縮小により、従来の顧客接点を失っていた。コロナ禍でオンライン売上が急増した際、同社はその成功体験を引きずり、リアル店舗や専門店との関係を軽視した。だが市場が正常化すると、消費者は「選択肢」を求めて競合ブランドへ流出していった。

ヒル氏はこれを「消費者がブランドへの愛を失い、他ブランドへ恋をした」と表現。再建の第一歩として、ナイキは再びアスリートとの接点を強化し、競技スポーツの現場に立ち戻る戦略を採っている。

2. 組織の再編──スポーツ別ブランド経営への転換


ヒル氏の改革の中核は、「組織の再構築」である。これまでプロダクトラインや市場別で動いていた社内チームを、「スポーツ別」へと再編した。

「Nike Running、Nike Basketball、Nike Trainingといった小さなクロスファンクショナルチームを設け、それぞれの競技ごとに消費者と競合を深く理解させる」とヒル氏は語る。

この構造転換により、開発・マーケティング・販売がより密に連携し、現場主導の意思決定が可能になる。特にJordanやConverseといったブランドも同様の再編を行い、“ナイキ全体でスポーツに立ち返る”体制を整えつつある。

また、オレゴン州ビーバートン本社の「Nike Sports Research Lab」では、400台のモーションキャプチャカメラと96枚のフォースプレートを備え、アスリートの動作解析を通じて新製品開発を加速している。技術とデータによる「スポーツの科学化」は、ナイキ再生のもう一つの武器となる。

3. 競争環境の激変──「On」「Hoka」が奪った革新の座


ヒル氏が直面するのは、これまでの「ナイキ一強」時代が終わったという現実だ。
近年、スイスのOn Runningや米国発のHokaといった新興ブランドが急成長。ナイキのクラシックモデル中心の製品戦略は、「革新性の欠如」として批判を浴びた。

ヒル氏はこう認めている。

「私たちが棚のスペースを明け渡し、それを取り戻す戦いをしている。」

彼の“ニューオフェンス(新しい攻撃)”とは、競合他社が築いた市場を奪還するための長期的な成長アルゴリズムへの回帰だ。短期的な成果よりも、「持続的なスポーツ市場全体の拡大」を軸に置く姿勢が明確である。

4. 経営課題──在庫圧縮と中国リバイバル


ナイキの再建には、複数の現実的なハードルが存在する。

4-1. 過剰在庫の整理

過去数年の販売計画の誤算により、ナイキは大量の旧モデルを抱えていた。ヒル氏はこれを「新しい製品を置くためのスペースを作る作業」と位置づけ、積極的な在庫圧縮を進めている。これにより、小売店の利益率を改善しつつ、消費者に新鮮さを届ける狙いだ。

4-2. 関税・コスト構造の重圧

同社は年間15億ドル規模の関税負担を抱えるが、50年かけて築いた多国籍サプライチェーンを活かし、地域分散で対応。「3者協働(工場・小売・ナイキ)で吸収する」と語るように、サプライチェーン全体の最適化が進む。

4-3. 中国市場の再定義

ナイキにとって最大の試練は中国市場だ。2026年第1四半期、中国での売上は前年比9%減の15億ドル。ヒル氏は要因を「スポーツウェア偏重で、競技スポーツへの軸足が弱まった」と分析。5,000店舗を超える既存店舗を順次改装し、「競技起点」のコンセプトストアへ再転換している。

5. 長距離走としての再建──ヒル流マネジメントの哲学


ヒル氏は「ターンアラウンドはマラソンであってスプリントではない」と語る。焦る自分を戒めつつも、「正しい手を打ったという確信は強い」と述べる。
彼が社内に浸透させているのは、スポーツマンシップそのもの——データとチームプレーによる持続的成長である。

結論


ナイキの再建はまだ途上にある。だが、エリオット・ヒルの「スポーツへの回帰」は単なるスローガンではない。組織の再構築、技術革新の復権、チャネル戦略の再調整、中国市場の再設計——いずれも長距離走のスタートラインに立ったばかりだ。

ナイキが再び世界のアスリートの心をつかむ日は、そう遠くないかもしれない。

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