宇宙最前線:月面探査〜軌道製造〜原子力電源
近年、「宇宙経済」が新たな成長フロンティアとして注目されています。実際に、世界の宇宙経済は2035年までに約1.8兆ドル規模に達するとの予測があります。
これは単なるロケット打ち上げ数の増加ではなく、月面探査・軌道上製造・燃料補給・宇宙用電源など、複数の基盤技術の連鎖的な進化によって実現されようとしています。
本稿では、今週取り上げたスタートアップ5社—月面ランダーから原子力電源モジュールまで—を事例に、ビジネスマン・起業家・投資家に向けて「宇宙開発がなぜ今、ビジネ&投資の視点で重要なのか」をわかりやすく解説します。
1. アストロボティック、月面ランダー「Griffin」打ち上げ延期
NASAの月面探査計画「VIPER」を運ぶ予定のAstrobotic社の月面着陸機“Griffin”が、当初の2025年から2026年半ばへと延期された。原因は統合とテスト段階での遅延だが、主要構造や推進システムの組み込みは完了しており、着実に進行している。
GriffinはSpaceXのFalcon Heavyロケットで打ち上げ予定。搭載されるAstrolabのFLIPローバーは、高耐久性・高変形性の“月面用タイヤ”を採用しており、NASAグレン研究センターとジョンソン宇宙センターでの試験を経て、−240°C〜130°Cの極端な温度差にも耐える設計となっている。
Astroboticは2026年の月南極着陸を目指し、再挑戦の準備を進めている。
2. スカイローラ、ESAと共同で新素材「Tanbium」開発へ
スコットランド発のロケット企業Skyroraは、欧州宇宙機関(ESA)と共同で、新合金「Tanbium」の3Dプリントプロジェクトを開始。
この合金は高温耐性と軽量性に優れ、既存の航空宇宙用金属を凌駕する可能性がある。試験では、部品重量を30%削減し、廃棄材料を最大95%削減、コストも40%低減できるとされる。
Skyroraは欧州最大級の金属3Dプリンタ「Skyprint 2」を保有し、同社CEOは「欧州の独自発射能力と素材技術の主権確保を目指す」と語る。
初号機「Skylark L」は2026年前半、スコットランドのSaxaVord宇宙港から打ち上げ予定だ。
3. スターラボ × レッドワイヤー:商業宇宙ステーションの新時代
Redwire Spaceは、商業宇宙ステーション「Starlab」計画への参加を発表。太陽電池アレイとライフサポート技術を提供し、宇宙実験の商用化と製造拠点化を進める。
StarlabはNASAの支援を受けた民間宇宙ステーション構想で、Voyager Space・Airbus・三菱重工・MDA Spaceなどが参画。打ち上げは2029年、SpaceXのStarshipを予定。
総容積は約387立方メートル(ISSの約3分の1)で、8人の乗員を収容。PalantirのAIがデータ管理・自動化を支える。
モジュールを「賃貸」する柔軟なアーキテクチャを採用し、バイオテック・半導体・AI素材の微小重力製造を可能にする新たな産業拠点を目指している。
4. ロケットラボ、NASAの極低温燃料実験「LOXSAT」完成
Rocket Labは、NASAの極低温推進剤保管技術を実証する「LOXSATミッション」向け宇宙機の製造を完了。
同計画は液体水素・液体酸素の長期貯蔵を可能にするもので、軌道上での再燃料補給所(Propellant Depot)構築を目指す。
NASAは本技術を「宇宙経済のパラダイム転換点」と評価しており、2030年までに商業運用開始を目標に掲げる。
ロケットラボは打ち上げから衛星製造・運用まで一貫した能力を持ち、単なる打ち上げ企業から“軌道上インフラ企業”へ進化を遂げつつある。
5. 新興企業「Mersenne Tech」登場:原子力で“宇宙の電力革命”へ
最後は、新たに登場したMersenne Tech。
同社はナノスケール原子力発電モジュールを開発中で、地球・軌道・深宇宙での長期電力供給を狙う【公式サイト】。
初号機「Starfall」は40kW級の小型原子炉で、太陽光やバッテリーが使えない月の長夜(354時間)や火星表面での燃料合成、さらには小惑星帯の採掘拠点を想定している。
創業者ケビン・シニキ氏は「人類をカーダシェフ・スケールの次段階へ導く」と語り、SpaceXが輸送を担うなら、Mersenneは「宇宙のエネルギー」を担う存在を目指す。
