Googleが850億ドルを調達——AIの「資本革命」が株式市場を揺さぶる
2025年6月、米国株式市場は静かに、しかし、確実に変わりつつある局面を迎えた。きっかけは、Googleによる史上最大規模の株式調達と、AI設備投資の急膨張だ。投資家・スティーブ・アイズマン氏が毎週公開する「ウィークリー・ラップ」では、こうした構造変化をいち早く整理している。今回はその内容をもとに、AI時代の資本市場で何が起きているのかを解説する。
1. 市場の調整——何が起きたのか
1-1. 短期的なトリガー
6月第2週、S&P500は2.64%下落、Nasdaqは4.18%下落という大きな動きを見せた。直接のきっかけは2つあった。
ひとつは、半導体大手Broadcomの決算発表。AI関連の数字は堅調だったものの、市場の期待を下回り、半導体セクター全体に調整が波及した。もうひとつは、予想を上回る雇用統計だ。雇用が強ければインフレが収まりにくく、FRBは利下げをしにくくなる。結果として10年国債利回りが再び4.5%を超え、株式市場に下押し圧力がかかった。
1-2. FRBの利下げ期待は事実上ゼロに
アイズマン氏はこう述べている。「雇用とインフレの数字を踏まえれば、今年の利下げ確率はほぼゼロだ。利上げの可能性もゼロではない」。FRBが動かない環境では、バリュエーションの高い成長株には逆風が続く。
2. Googleの850億ドル調達——ソフトウェアがハードウェアになる日
2-1. 20年ぶりの株式調達
Googleが800億ドル(後に850億ドルに増額)規模の株式調達を発表した。注目すべきは、Googleが株式市場から資金を調達するのが2004年のIPO以来、約20年ぶりという事実だ。
かつてソフトウェア企業は「設備投資が少なくて済む」というビジネスモデルの恩恵を受けてきた。しかし、AIの時代、その前提が崩れつつある。
2-2. 設備投資の規模が変わった
Googleは、2025年に800億ドルをAI設備投資に充てた。これは自社のキャッシュフローと一部の借入でまかなえた。しかし、2026年の計画額は1,800〜1,900億ドルに膨らむ見通しで、もはやキャッシュフローだけでは対応できない。MetaやMicrosoftも同様の増資を検討しているという報道もある。
アイズマン氏はこう指摘する。「かつて資本不要だった大手ソフトウェア企業が、資本集約型のハードウェア企業に変貌しつつある」。
3. OracleとSuper Micro——資本需要はさらに拡大
3-1. Oracleの決算——数字は強いが、資本ニーズが重荷に
Oracleの決算は表面上、力強かった。EPSは前年比24%増の2.11ドル、受注残高(RPO)は6,380億ドルと前年比363%増という驚異的な数字だった。
しかし、問題はキャッシュアウトだ。直近四半期の設備投資額は159億ドルに達し、年間合計は557億ドルと自社予測の500億ドルを超えた。さらに今後の資本調達計画に200億ドルを追加し、2027年度の資本計画は株式・負債合わせて400億ドル規模となった。決算発表後の時間外取引でOracleの株価は10%下落した。
3-2. Super Microの70億ドル調達
サーバーメーカーのSuper Microは、株式・転換社債を組み合わせた70億ドルの資金調達を発表した。時価総額が約200億ドルの企業にとって、これは小さくない規模だ。市場はこの発表を受け、株価が28%急落した。
4. AIはコモディティになりつつあるのか
4-1. 1兆ドルを使って得られるものは何か
昨年、大手クラウド企業(ハイパースケーラー)のAI設備投資は、合計約4,000億ドルだった。今年はその約2.5倍、1兆ドル近くに達する見込みだ。
しかし、アイズマン氏はこう問いかける。「これだけの資金を投じながら、各社のAIに本質的な差はあるのか。ある週はGemini、次の週はAnthropicが上位に来る。差別化が見えない」。
4-2. OpenAIの値下げ検討が示すもの
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、OpenAIは、APIの料金(トークン単価)の引き下げを検討しているという。価格競争が始まれば、AIはますますコモディティ(汎用品)に近づく。兆単位の投資が続く中で価格が下がるとすれば、将来の収益性への問いかけは避けられない。
5. IPOラッシュ——市場が吸収できるか
5-1. 積み上がる調達額
アイズマン氏が試算する直近の大型資金調達の合計は次のとおりだ。
Anthropic(S1提出済み):約1,000億ドル規模と推定
OpenAI(S1提出済み):同程度と推定
SpaceX:約750億ドル
Google(増資完了):850億ドル
合計すると3,600億ドル超。これだけの資本を株式市場が一度に消化しようとしている。
5-2. 株主が「出資者」になる時代
これまでAI投資の恩恵を享受しながら、費用は企業の内部留保やプライベート資金でまかなわれてきた。しかし今、公開市場の株主が直接その費用を担う構図に変わりつつある。アイズマン氏は「株主がコストを負担しながら利益を待つ構図は、以前とは異なるリスクを含む」と述べる。
6. インフレと景気——「K字型経済」の現実
6-1. インフレ指標は高止まり
6月のCPIは、前年比4.2%(3年ぶりの高水準)、コアCPIは2.9%。生産者物価指数(PPI)も高めの数字が続いた。いずれも市場予想の範囲内だったため、国債市場の反応は限定的だったが、10年利回りは依然として4.5%超で推移している。
6-2. 企業業績は「K字型」に二極化
第2四半期の利益成長率の予想(全体)は、22.6%と高水準だが、その内訳に注目する必要がある。
セクター成長率(予想)エネルギー100%超テクノロジー約60%素材・エネルギー関連約30%その他のセクター一桁台ヘルスケアマイナス成長
一部のセクターが全体の数字を押し上げており、多くのセクターでは力強さは見えない。
7. アイズマン氏の投資スタンス——今後の方向性
7-1. 数週間前にポジションを軽減済み
アイズマン氏は5月15日の時点で、10年国債利回りが4.5%を超えたことをひとつの目安として個人ポートフォリオを一部売却していたと述べている。「4.5%に魔法の意味はないが、ここ数年の相場ではこの水準がひとつの節目になってきた」。
7-2. 資本不要の受益セクターへの注目
AI投資が巨額の資本を必要とするなか、資本を調達せずにAIの恩恵を受けられる分野への関心が高まると見る。具体的な候補として挙げているのは、代替エネルギー、半導体、ネットワーク機器などだ。
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