なぜ“家が買えない”のか?──スティーブ・アイズマンが語る、米住宅市場が壊れた本当の理由_先週のマーケット
ビットコイン急落やAIバブル論争の陰で、アメリカでいま最も根深い「K字経済」の象徴になっているのが住宅市場です。投資家スティーブ・アイズマンは、最新のポッドキャストで、「なぜここまで『家が買えない』のか、そして本気で直すには何が必要か」を整理しています。本稿では、その論点を専門的な指標と具体例を交えつつ、日本の読者向けにかみ砕いて解説します。
1. 住宅関連株の現状:業績は弱いのに株価は上がる理由とは?
アイズマンはまず、「住宅株の足元」を確認します。対象は大きく2つです。
ホームビルダー(戸建ての新築を手がける企業)
建材・住宅関連製品を扱うビルディングプロダクト企業
1-1. ホームビルダー:企業は賢くなったが、ビジネスは依然サイクル頼み
リーマン前のホームビルダーは、自社バランスシートで大量の土地を抱えた「土地ゴリゴリ型」でした。
大不況を経て、いまは
土地は投資家からオプションで借りる
マージン(利益率)を重視し、効率的に建てる
という、より筋肉質な経営に変わっています。
それでも本質的には超サイクル産業で、金利に極端に左右される構造は変わっていません。ゼロ金利だったコロナ期は大ブーム、その後の金利急騰で業績は一気に減速しました。
それにもかかわらず、アイズマンが示す大手3社(DHI、LEN、PHM)は「利益が減っているのに株価は年初来プラス」というねじれが起きています。理由は2つです。
アナリストが2026〜27年の「金利低下→販売回復」を前提に強気予想を出している
時価総額が比較的小さく、金利を張るヘッジファンドの“おもちゃ”になりやすい
業績ではなく「金利観」で売買されることで、ファンダメンタルズ以上に株価が振れやすいのです。
1-2. 建材企業:既存住宅の売買が止まり、需要も冷え込む
一方、Home DepotやLowe’s、Whirlpoolなどの建材・住宅関連企業は、既存住宅の売買に依存するビジネスです。家が売買されればリフォーム需要が生まれ、「デッキを新しくする」「家電を買い替える」といった支出が増えます。
しかし、今は、
既存住宅の販売件数が「数十年ぶりの低水準」
Trex(デッキ材)は利益▲13%、Whirlpoolは▲45%で株価も大きく下落
と、業績・株価ともに総じて冴えません。
アイズマンはまとめて「住宅セクターのファンダメンタルズは総じて低迷しており、金利がもっと下がらない限り本格回復は難しい」と評価します。
2. どれだけ「家が買えない」のか:エントリーレベル指標が示す危機感
ここから話は「株」ではなく「生活」に移ります。アイズマンが使うのは、Ivy Zelmanの事務所が作成するエントリーレベル・アフォーダビリティ指標です。
この指標は、
「初めて家を買う層の収入に対して、中位価格の住宅を買うための月々支払い(ローン+税金+保険)が何%を占めるか」
を示します。
いま、この比率は 約60%
リーマン前より悪く、
それを上回ったのは「1970年代インフレ末期」だけ
つまり、アイズマンは、「住宅の手の届きにくさは、数十年で最悪水準に近い」と指摘しているのです。
さらに、固定資産税と保険料も重くなっています。これらに回る所得の割合は
2000年以前:およそ5%
現在:およそ7%
と、インフレ率を上回るペースでじわじわ家計を圧迫しています。
3. ロックされた既存住宅市場:4%ローンから6%ローンには動けない
次に、アイズマンが説明するのが、「既存住宅市場がロックされている」という現象です。
アメリカでは、約半数の住宅ローンが金利4%以下で固定されています。金利が6%台に上がった今、この低金利ローンは「動きたくても動けない錨」になります。
彼はシンプルな例で説明します。
価格40万ドルの家
売り手:金利4%、30年ローン → 月々支払いは約1,900ドル(税・保険除く)
買い手:現在の金利6.25%で同じ条件 → 月々約2,500ドル
同じ家なのに、新しく買う人は毎月+600ドルを払わねばなりません。
では、買い手の負担を同じ1,900ドルに抑えるには?
「売り手が25%以上の値下げを受け入れる必要がある」
とアイズマンは計算します。しかし、完全雇用に近い経済状況で、そんな大幅値下げが広範に起きるとは考えにくい。
その結果、
既存の持ち家層は「お得な4%ローン」を手放したくない
買いたい人は高金利と高価格で手が出ない
という行き詰まりが発生し、既存住宅の在庫も取引も歴史的な低水準に張り付いたままなのです。
4. 真犯人は「需要不足」ではなく「供給の政治」だ
ここでアイズマンが強調するのが、
「これは需要の問題ではない。供給の問題だ」
という点です。
4-1. 需要をいじる政策は、むしろ価格を押し上げる
政治家が好む処方箋は、たいてい「需要サイド」に偏ります。
民主党が提案した2.5万ドルの頭金補助
現政権が構想する50年固定ローン
しかし、彼は、「これらは問題を解決しないどころか、むしろ住宅価格を押し上げるだけ」と切って捨てます。
「もし頭金補助をばらまけば、その分だけ売り手が値付けを引き上げる。50年ローンは返済額を下げる代わりに、資本を築くまでの時間を伸ばすだけだ」
需要を刺激すると、「モノは増えないのにお金だけ増える」→価格高騰という構図になりがちで、本質的な解決からは遠ざかります。
4-2. 5百万戸足りない:なぜ「安く建てる」ことができないのか
アイズマンの試算では、この10年で人口動態に見合って建てるべき住宅より約500万戸不足しているといいます。需要はあるのに「建てられていない」のです。
そしてその原因は、ほぼすべてローカルな供給制約にあると指摘します。
最低床面積を定めるゾーニング(小さい家を建てられない)
土地の権利化や許認可にかかる膨大な時間とコスト
インフラ負担金などの「インパクト・フィー」
これが建設コストの10〜15%を押し上げるケースもある
こうした規制と費用によって、「低価格帯の一戸建てを利益を出しながら建てること」が極めて難しくなっているのです。
アイズマンは、
「本気でアフォーダビリティに取り組むなら、連邦政府は州・自治体への補助金を“人質”に取り、規制緩和やインパクト・フィー削減、許認可の迅速化を迫るしかない」
とかなり踏み込んだ提案をします。逆に言えば、こうしたローカル規制への介入に言及しない政治家は「問題を真剣に扱っていない」と見てよい、とまで言い切っています。
5. 建て方そのものを変える:スウェーデンのプレハブ住宅からの示唆
アイズマンが最後に触れるのが、「家の作り方のイノベーション」です。
アメリカでは、家は依然として「現場で一軒ずつ」建てられている
一方スウェーデンでは、約45%が工場で生産されるプレハブ住宅
プレハブ住宅は、コストを3割以上下げられるケースもある
つまり、規制を緩和したうえで、工場生産・標準化・モジュール化といった産業的アプローチを取り入れれば、供給側から価格を引き下げる余地がまだ大きく残されている、という示唆です。
結論:住宅危機は「政治と産業設計」の問題である
アイズマンのメッセージを一言でまとめるなら、
「家が高いのは、人々が貧しいからではなく、**“安く建てていい”ルールと仕組みがないからだ」
ということです。
金利だけを見て一喜一憂する株式市場
頭金補助や超長期ローンといった「需要側のギミック」を好む政治
ローカル規制と時代遅れの建設手法に縛られた供給サイド
これらが重なり合って、「The Housing Market is Broken(住宅市場は壊れている)」という現実を生んでいます。
本気で直すには、ローカル規制へのメス、連邦レベルでのインセンティブ設計、そして工場生産住宅など産業構造のアップデートが不可欠だ——アイズマンの論点は、日本の住宅・都市政策を考えるうえでも示唆に富んでいると言えるでしょう。

