スマホアプリは消える——Nothing CEOが語る、AIエージェント時代のデバイス革命
「アプリは消える。あなたのアプリにこそ価値があると思っているなら、好むと好まざるとにかかわらず破壊される」
SXSWカンファレンスでこう言い切ったのは、ユニークなデザインで知られるスマートフォンブランドNothingの共同創業者兼CEOのCarl Peiだ。昨年、AIと高度なパーソナライゼーション技術を搭載したデバイスのビジョンを掲げ、Series Cで$2億の資金調達を実現。今回のコメントは、そのビジョンをより具体的に展開したものだ。
1. 「スマホは20年間変わっていない」——Carl Peiの問題提起
1-1. Palm PilotとiPhoneは本質的に同じ
Peiの出発点は、現代のスマートフォン体験への根本的な疑問だ。
「今の使い方は非常に古い。iPhone以前の時代に近い。Palm PilotやPDAがあった頃、ロック画面・ホーム画面・アプリ……各アプリが全画面を占拠して、App Storeからダウンロードする。この体験は約20年間変わっていない」
テクノロジーは大幅に進化したにもかかわらず、ユーザー体験の構造は変わっていない。これがPeiを苛立たせる。
1-2. コーヒーの約束に4つのアプリが必要な現実
Peiは具体的な例でその問題を示す。
「コーヒーを飲みたいという意図がある。でもその意図を実行するために、いくつものステップとアプリを経由しなければならない。おそらく4つのアプリが必要だ——メッセージアプリ、地図、Uber、カレンダー」
「意図」と「実行」の間に生じる摩擦。これがスマートフォンの最大の問題だとPeiは指摘する。
2. AIエージェント時代のデバイス——3段階の進化
2-1. 第1段階:コマンド実行型(現在進行中)
現在いくつかの企業が取り組んでいるのが、ユーザーの指示に従ってフライトやホテルを予約するような「コマンド実行型」のAI機能だ。しかし、Peiは、これを「超退屈だ」と一蹴する。指示を与えて実行させるだけでは、本質的にはこれまでのアプリ操作と大差ない。
2-2. 第2段階:長期的な意図を学習するAI
より興味深い段階は、AIがユーザーの長期的な意図を学習し始めるフェーズだ。たとえば、ユーザーが健康的な生活を送りたいと考えている場合、デバイスが適切なタイミングで提案やリマインダーを送るといった形だ。
2-3. 第3段階:「言わなくてもわかる」デバイス
Peiが最も力を込めて語ったのはこの段階だ。
「システムが私たちをよく知っていれば、私たちが欲しいと気づいてもいなかったものを提案してくれるようになる。自分でアイデアを出す必要がなくなる」
ChatGPTのメモリ機能に近い概念として説明したが、より先進的なのは「命令せずとも行動するデバイス」という点だ。
「将来のスマートフォンやOSはこうあるべきだ——『あなたのことをよく知っている。意図がわかれば、手動でアプリを操作させずに、それを実行する』というものだ」
3. 本当の革命は「エージェント専用インターフェース」
3-1. 人間用UIをAIが操作するのは間違いのアプローチ
現在のエージェントAIの多くは、人間が使うスマートフォン画面を模倣して操作する。メニューをたどり、ボタンをタップする。しかし、Peiは、このアプローチを否定する。
「それは未来ではない。エージェントが人間用インターフェースを使うのは間違いだ。エージェントが使うためのインターフェースを作る必要がある。それがより将来性のある方法だ」
アプリは、人間が操作することを前提に設計されている。そのアプリをAIが「模倣」して操作しても、非効率な摩擦は残る。本質的な解決は、AIエージェントがネイティブにアクセスできるAPIや構造化されたインターフェースを設計することにある。
3-2. 近い将来にはアプリが消えるわけではない
Peiは、現実的なタイムラインについても言及している。NothingのOS自体、現在ユーザーが「vibe code(感覚的なコーディング)」でミニアプリを作れる機能を持つ。アプリが即座に消えるわけではない。
しかし、方向性は明確だ。「AIがアプリをフリクションなく使えること——人間のタッチを模倣するのではなく」という条件が、将来の標準になると見ている。
4. 投資家・スタートアップへの示唆
4-1. 「アプリ主体のビジネスモデル」への警告
Peiのコメントは、アプリ単体に価値を置くビジネスモデルへの明確な警告だ。検索エンジンのように「ユーザーの意図を受け取り、AIが直接実行する」世界では、アプリという中間層の役割は縮小する。
これはSequoiaが最近発表した「Services: The New Software」の論点とも重なる——コパイロット(ツール)からオートパイロット(仕事)へのシフトだ。
4-2. 次に価値が生まれる場所
Peiのビジョンが現実化するとすれば、価値が集まる場所はアプリの外側に移る。AI専用のAPIや構造化されたデータ提供の仕組みを持つ企業、エージェントが安全に「意図を理解して実行できる」セキュリティ・パーミッション基盤、そしてユーザーの長期的な文脈を保持するメモリ層が重要になる。
まとめ
Carl Peiが描く未来は、スマートフォン体験の根本的な再設計だ。アプリという20年変わらなかった構造を「AIが意図を理解して実行する」モデルに置き換える——それはデバイスだけでなく、ビジネスモデル・UIデザイン・エコシステム全体に影響を及ぼす。
「好むと好まざるとにかかわらず」という言葉の重みは、スタートアップ・投資家・企業開発担当者が等しく受け取るべきメッセージだ。
