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AIを最も使う企業が最も成長している——それでも「トークン消費量」を信じてはいけない理由

2025年、シリコンバレーのテック企業で「トークンマキシング(tokenmaxxing)」と呼ばれる現象が広がっている。エンジニアが、AIトークンの消費量を競い合い、その数値が事実上の"パフォーマンス指標"となりつつあるのだ。

NVIDIAのジェンスン・ファンCEOは、「優秀なエンジニアが年間25万ドル分のAI計算資源を使っていなかったら、私は心配する」と語り、Shopifyは、トークン使用量をパフォーマンスシグナルとして活用していると明かした。Metaの従業員は、月間で推定9億トークンを消費したとも報じられている。

しかし、この消費がすべて価値を生んでいるのか——それは別の話だ。CNBCのライブストリームで展開された、Ramp CEO エリック・グリマン氏と投資家ダン・ナイルズ氏の議論から、AI需要の本質と投資家が注視すべきポイントを整理する。


1. トークンマキシングとは何か——「消費量=価値」ではない理由


1-1. グッドハートの法則が再び作動している

トークンマキシングの本質は、AI利用量を「多ければ多いほど良い」と捉え、その数値を組織内で競わせる文化にある。エリック・グリマン氏は、これをグッドハートの法則(Goodhart's Law)の典型例だと指摘する。

パフォーマンスの指標が目標になると、それは良い指標ではなくなる

この原則は、過去にも繰り返し実証されている。かつて、Amazonは、コールセンター担当者を「通話の短さ」で評価したところ、担当者は顧客に対して電話を一方的に切り始めた。数値は改善したが、顧客サービスは崩壊した。ジェフ・ベゾスは、この指標を即座に廃止している。

トークン消費量でも同様のことが起きうる。エンジニアが円周率の桁数を延々と計算させるなど、実務と無関係な用途でトークンを消費すれば、指標は上がるが事業価値は何も生まれない。これはトレーダーを「取引回数」で評価するようなもので、収益性とは無関係だ。

1-2. 1兆ドル超のインフラ投資に潜むリスク

この問題が深刻なのは、トークン消費量が、「AI需要は本物だ」というシグナルとして投資判断に組み込まれているからだ。現在、AI関連インフラへの投資コミットメントは1兆ドル超に達しているとされる。もしその需要の一部が「水増し」されたものだとしたら、投資家にとっては無視できないリスクとなる。

2. Rampのデータが示す"K字型経済"——AI支出と企業成長の関係


2-1. AI支出は13倍に急増、だが予算管理は追いついていない

Rampのデータによると、過去1年間でAI関連のトークン支出は13倍に増加し、四半期ごとに50%のペースで伸びている。グリマン氏は、「誰もこの支出をどう予算化すべきか分かっていない」と率直に認める。

同社が新たにローンチしたのが、「トークントラッキング」——正確にはAI支出管理ツールだ。CFOや財務チームが、どの部門がどのモデルをどんなタスクに使い、いくら支出しているかをドリルダウンして可視化できる。たとえば、メールの編集に最先端のフロンティアモデルを使っているケースがあれば、より安価なモデルで十分であることを提示し、コスト削減の道筋を示す。

グリマン氏は、これを自動車に喩えた。「食料品の配達にフェラーリを使う必要はない。プリウスで十分だし、自転車でもいいかもしれない」。

2-2. K字型経済——AI投資の上位と下位で広がる成長格差

Rampが5万社以上のデータから導き出した分析は注目に値する。AI支出の上位25%の企業は過去3年間で売上が2倍以上に成長した。一方、下位25%の企業は同期間で約12%の成長に留まり、年率換算で2〜5%とほぼ横ばいだった。

しかも、上位層の成長率は年々加速している。AI導入が進む企業は、より速く成長し、より多く採用し、より多く投資する——というポジティブなサイクルが回り始めている。このK字型の二極化は、AIが単なる流行ではなく実質的な競争力の源泉になりつつあることを示唆している。

3. OpenAI vs Anthropic——真逆の戦略が映す需要の本質


3-1. OpenAI:価格を下げて量を追求

OpenAIは、AIをより安く、より使いやすくする方向に舵を切っている。より多くのユーザーに消費してもらい、その利用実績をもって巨額の支出を正当化する戦略だ。ダン・ナイルズ氏は、OpenAIが顧客獲得のために価格を引き下げている点を指摘する。

3-2. Anthropic:制限を設けて需要の質を見極める

対照的に、Anthropicは、利用量に上限を設け、サードパーティアクセスを制限し、価格を引き上げている。「需要が多すぎて抑制している」状態であり、自社が目にしている需要が本物かどうかを慎重に見極めようとしている。

グリマン氏は、AnthropicのCFOであるクリシュナ氏を「非常に実績のある財務リーダー」と評し、同社のアプローチは、「ウォール街的なメンタリティに近い」と述べた。控えめに約束し、期待以上の成果を出す——長期的に生き残る企業に共通する姿勢だという。

3-3. OpenAIの「イノベーターのジレンマ」

議論の中で特に印象的だったのは、グリマン氏が、OpenAIに対して「イノベーターのジレンマ」を抱えている可能性に言及した場面だ。

「ビジネスモデルが最大限の支出を引き出すことに依存しているとき、効率化に舵を切れるか? 切りたいと思うか?」

かつて、Googleが、検索広告の覇者としてイノベーターのジレンマを問われた。今やOpenAIが「インカンベント(既存の支配者)」としてその問いに直面している——わずか2年余りでの立場の逆転は、このスペースの変化の速さを象徴している。

4. ジェヴォンズのパラドックスと学習曲線——「無駄」は本当に無駄か


4-1. テニスのストロークとトークン消費

グリマン氏は、初期段階での"無駄"を必ずしもネガティブに捉えていない。
「テニスを初めてプレーするとき、ストロークはめちゃくちゃだ。ボールに当たらない。でも、20〜30試合もすれば、効率的な神経回路が形成され、狙った場所にボールを置ける」

マーク・トウェインの有名な言葉(実際に彼が言ったかどうかは不明だが)「もっと時間があれば、もっと短い手紙を書けたのに」と同じく、洗練には試行錯誤が不可欠だ。Shopify CEOのトビアス・リュトケ氏もHumanXカンファレンスで同様の見解を示しており、新しいテクノロジーに習熟するプロセスでは一定量の"無駄"が構造的に発生するとしている。

4-2. ジェヴォンズのパラドックス——コスト低下がさらなる消費を生む

トークン単価は急速に下落している。しかし、コストが下がれば消費が減るとは限らない。経済学でいうジェヴォンズのパラドックス(Jevons Paradox)が作動し、安くなったリソースはむしろ大量消費を誘発する。

グリマン氏は、「コスト曲線が下がり続け、かつユーザーがより効率的に使えるようになれば、支出はさらに増える可能性が高い」と見ている。つまり、"無駄"が減っても需要全体は拡大し続ける——これはAIインフラ投資にとってはポジティブなシグナルだが、同時にどの企業がROIを伴った成長をしているかの見極めがますます重要になることを意味する。

5. エージェントAIが変えるゲームのルール


5-1. Open Clawとトークン需要の急増

ダン・ナイルズ氏は、2025年のAI市場を大きく変えた要因としてエージェントAI(Agentic AI)の台頭を挙げた。2025年11月に登場したClawd Botが、2026年1月末にOpen Clawとして正式化されて以降、トークン需要は劇的に変化した。

Open Routerのデータによると、OpenClaw正式化前の2カ月間でトークン成長は約20%だったのに対し、正式化後の2カ月間では約130%に急増している。エージェントは、単一タスクの繰り返しではなく、CNBCからデータを取得し、SECの財務資料を参照し、Excelに入力するといった複数の異なるタスクを横断的にこなす。これがトークン消費を構造的に押し上げている。

5-2. GPUからCPUへ——エージェント時代の半導体シフト

ナイルズ氏が指摘したもう一つの重要な変化は、エージェントAIがもたらす半導体需要構造の変化だ。

過去3年間、AIの価値はGPU(同じ処理を大量に繰り返す並列計算に強い)に集中していた。しかし、エージェントは、多様なタスクをオーケストレーションする必要があり、これはCPU(汎用処理に強い)の出番となる。

ナイルズ氏によれば、従来のGPU対CPU電力比率が7:1だったのに対し、エージェント環境では、4:1程度にシフトする可能性がある。これにより、「終わった」と見なされていたIntelのような企業にも再評価の余地が生まれている。実際にGoogleとIntelの提携や、イーロン・マスクがIntelとの協業に言及するなど、兆候はすでに現れている。

6. 投資家が注視すべき"キャッシュフロー"と"バリュエーション"


6-1. OpenAIは2029年まで220億ドルのキャッシュ燃焼

ナイルズ氏が最も警鐘を鳴らしたのは、OpenAIの財務体質だ。同社は、自ら2029年までに220億ドルのキャッシュを燃焼すると認めており、黒字化は早くて2030年と見込まれている。さらに、OpenAIのCFOであるサラ・フリアー氏が一部のミーティングに同席していないとの報道もあり、IPOの実現可能性にも疑問符がつく。

「OpenAIは、年内にさらなる資金調達ができなければ、ゼロに向かう可能性がある」とナイルズ氏は述べた。IPOが実現しない場合、希望するバリュエーションでの資金調達は困難になるだろうとの見方だ。

6-2. Amazon下落95%の教訓——正解でも生き残れるとは限らない

ナイルズ氏はドットコムバブルにおけるAmazonの例を引き合いに出す。1999年に売上16億ドルだったAmazonは、2001年には31億ドルとほぼ倍増した。しかし、その間に株価はピークから95%下落した。正しい企業を選んでいても、生き残れるかどうかは別問題なのだ。

一方、Googleは、AI投資を進めながらも依然として大幅なフリーキャッシュフローのプラスを維持しており、自社の野心をオーガニックに資金調達できる立場にある。Microsoftは、OpenAIの27%を保有しているため、OpenAIのリスクに直接さらされており、年初来で約20%の下落を記録している。

6-3. ナイルズ氏の注目銘柄

ナイルズ氏が挙げた投資戦略のポイントは以下の通りだ。

  • Amazon:Anthropicをホスティングし、物理インフラ(ロボティクス・物流)でAIの恩恵を直接受ける。最大のパブリッククラウドベンダーとしてのポジションも強い

  • Apple:AI開発で出遅れたことが逆に武器となり得る。15億台のiPhoneという巨大なインストールベースを持ちながら、AI開発コストはGoogleへのライセンス(年間約10億ドル)で抑えられる

  • Google:キャッシュフローが潤沢で、消費者向けAIで強いポジション

  • Intel:エージェントAI時代のCPU需要増で再評価の可能性

  • 警戒対象:OpenAI関連エクスポージャーの大きいMicrosoft、Oracle

7. まとめ——需要は本物だが、「ノイズ」の選別が始まる


トークンマキシングは、AIが企業に浸透するプロセスにおいて自然に発生する現象であり、必ずしも悪いことではない。Rampのデータが示すように、AI支出の上位企業は確かに高い成長を実現している。

しかし、すべてのトークン消費が価値を生んでいるわけではない。グッドハートの法則が示す通り、消費量を目標にした瞬間、その数値は信頼性を失う。投資家にとって重要なのは以下の3点だ。

  1. 量ではなくROI:トークン消費量ではなく、それが売上・生産性にどう結びついているかを見る

  2. キャッシュフローの持続性:220億ドルを燃焼するOpenAIと、自社資金でAI投資を賄えるGoogleの差は決定的

  3. エージェントAI時代の構造変化:GPU一辺倒からCPU・メモリ・オーケストレーションへの需要シフトに備える

AI需要そのものは本物だ。しかし、その中で真に価値を生む企業と、メトリクスの幻影に支えられた企業を見分ける目が、これからの投資判断ではますます問われることになるだろう。

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