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強気と弱気が交差した週——アイズマンが見た3つのリスク

2026年2月27日、Nvidiaが73%増収という数字を発表した同じ週に、プライベートクレジット市場では静かに看過できない動きが起きていた。「ビッグショート」のモデルの一人として知られるスティーブ・アイズマンは、ウィークリーラップの中で関税問題・プライベートクレジットのリスク・AI懐疑論という3つのテーマを軸に市場を読み解いた。本稿ではその論点を整理する。


1. 関税問題——最高裁判決後の市場の読み方


1-1. 最高裁によるトランプ関税の無効化とその後

週の始まりに、米最高裁がトランプ大統領の国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を無効と判断した。これを受けてトランプ政権は、1974年通商法第122条に基づく一時的な15%グローバル関税を新設。同時に、主要貿易相手国を対象とした複数の通商法301条調査を開始すると発表した。

財務長官スコット・ベッセントによれば、「新たな関税措置による関税収入は2026年を通じてほぼ変わらない」見込みだという。アイズマンはこの点について、「混乱はあるものの、財政収支への影響は中立的になりうる」と述べた。

1-2. 市場が大崩れしない理由

「なぜ市場はもっと大きく下落しなかったのか」という問いに対し、アイズマンは「人々は大惨事を過度に予測したがる。金融危機以来、次の危機を当てようとする競争が続いているが、米国経済は驚くほど底堅い」と答えた。一方で、「本当に見るべきリスクは関税ではなく、AI投資のリターン問題、プライベートクレジットの脆弱性、そしてプライベートエクイティと生命保険の複合的な関係だ」と強調した。

なお「Bitcoin falls as Trump tariff moves raise uncertainty」というCNBCの見出しにも触れ、「不確実性の日にビットコインが下落するのは、ヘッジ資産としての論拠を自ら否定している」と指摘。「ビットコインはテック株と相関しており、投機の投機に過ぎない」と改めて述べた。

2. Blue Owlとプライベートクレジットの構造的問題


2-1. 1.8兆ドル市場の死角

プライベートクレジット市場は現在1.8兆ドル規模に膨らんでいる。アイズマンはこの市場の問題点を3点に整理した。

第一は、ソフトウェアへの過剰集中だ。プライベートクレジット全体の20%超がソフトウェア企業のバイアウト融資で占められており、UBSのストラテジストはAI disruption(AIによる業界破壊)を背景にデフォルト率が15%まで急上昇する可能性があると試算している。

第二は、リテール投資家への展開だ。過去5年間でプライベートクレジット会社は機関投資家向けから個人向けへと分配先を広げてきた。高めの利回りで個人を引きつけるモデルは好況時には機能するが、「資産評価が問われ、流動性が逼迫し、セクター固有の混乱が同時に起きる状況では未だストレステストを受けていない」とアイズマンは警告する。

2-2. Blue Owlの取引——何が問題か

Blue Owl(時価総額170億ドル)は、プライベートクレジット専門のPE会社だ。同社は今週、プライベートクレジットファンドからの解約を凍結する一方、14億ドルのローンをほぼ額面価格で4社に売却したと発表した。

問題はその4社目にある。買い手の一社はKuvari Insurance——2024年4月にBlue Owl自身が買収した保険会社の運用部門が管理する先だ。つまり実質的に「自社関連会社に売却した」構図となる。

アイズマンはこの構造を次のように説明する。「Blue Owlのファンドはレバレッジ2倍が上限だが、Kuvari Insuranceはそのローンをさらにレバレッジ10倍のCLO(ローン担保証券)にパッケージ化できる。同じリスクが、より高レバレッジのビークルに移転されており、その担保は保険契約者のお金だ」。

Kuvari Insuranceは年金・終身保険・ユニバーサル生命を販売する生命保険会社でもある。「こうしたリスクの高い投資が積み上げられた状態で、保険契約上の義務を果たせるかが問われる」とアイズマンは述べた。

そして月曜日、Saba Capital(ボアズ・ワインスタイン)とCox Capitalが、Blue Owlファンドのリテール投資家向けに20〜35%ディスカウントでのテンダーオファーを発表した。これはスマートマネーが同ファンドをその水準で評価していることを示す、と見ることができる。

3. AI懐疑論——Nvidiaが73%成長でも株価が下落した意味


3-1. 数字は強いが、市場は疑っている

Nvidiaは第4四半期に売上高681億ドル(前年比73%増、前四半期比20%増)、EPSは82%増という結果を発表した。4大ハイパースケーラー(Meta、Google、Microsoft、Amazon)が2026年のAI設備投資として合計6,500億ドルを計画しており、「Nvidiaの数字が良くなるのは当然だ」とアイズマンは述べた。

しかし、株価は時間外で1%上昇にとどまり、翌朝には下落して引けた。EPS成長率67%が見込まれながらPERはわずか25倍。「この相対的に低いバリュエーションが、AI全体への疑念を体現している」とアイズマンは分析する。

3-2. ソフトウェアへの波及

AI懐疑論は個別セクターにも波及した。サイバーセキュリティ株のCrowdStrikeは10%下落、VisaとMastercardもそれぞれ4.5%・6%下落した。AnthropicがIBMのCOBOL言語フランチャイズに食い込む製品を発表したとの報道でIBMも一時13%安となった。

Salesforceについては、決算自体はEPSと売上で市場予想を上回り、売上は前年比12%増と2年ぶりの高成長率だった。ただしInformatica買収の影響を除くと有機的成長は8%にとどまり、2027年度の売上ガイダンスも市場予想をわずかに下回った。「AIの重しがかかっているこの時期に、ガイダンスが弱いのはダメージが大きい」とアイズマンは述べた。

また「ソフトウェアセクターが壊滅的な状況にあるにもかかわらず、主要インサイダーが自社株を買いに動いていない」という観察も加え、「インサイダー自身が疑念を持っているかもしれない」と示唆した。

4. その他の決算——住宅・太陽光・Circle・ワーナー


4-1. Home Depot・Lowe's——鍵となる住宅市場

Home Depotの既存店売上成長率は0.4%と振るわず、EPSガイダンスも横ばいから4%増にとどまった。Lowe'sは同1.3%とやや良好だったが、EPSガイダンスは予想を下回った。「住宅ローン金利が6%を下回り始めたことが、住宅関連株にとっては最も良いニュースだ」とアイズマンはコメントした。

4-2. First Solar——政策リスクの顕在化

First Solarは第4四半期に1株あたり4.84ドルを計上(予想5.15ドル)し、通期売上ガイダンスも49〜52億ドルとアナリスト予想の61.2億ドルを大幅に下回った。「トランプ政権の再生可能エネルギーに対する姿勢がついて商業用太陽光にも影響が出てきた」という分析だ。発表翌日、株価は15%下落した。

4-3. Circle——好決算も構造的課題

ステーブルコイン発行会社のCircleは売上高7億7,000万ドル(前年比77%増)、USDCの流通残高752億ドル(同72%増)という好結果を発表し、株価は35%上昇した。ただし、アイズマンは「現在の収益源は準備金の利子収入のみ。Fed が利下げを続ければ収益に直接影響する」と構造的な課題を指摘した。

4-4. ワーナー・ブラザース

1株10セントの赤字、売上95億ドル(前年比6%減)と振るわない内容。アイズマンは「現在の時価総額700億ドルは正当化しにくい」という従来の見方を繰り返し、「Netflixの現在のPER26倍は興味深い水準になってきた」と述べた。

まとめ


今週の市場を一言で表すなら「数字と懸念の乖離」だ。Nvidiaが73%増収を達成しながら株価が下落したという事実は、AI投資のリターンに対する市場の疑念を象徴している。一方でプライベートクレジット市場では、ソフトウェアへの集中リスクと保険会社との複雑な連鎖が表面化しつつある。アイズマンが「最も注視するリスク」として挙げたのは関税でも景気後退でもなく、この2点と「AIが生み出す構造的なパラダイムシフト」だった。数字の強さと懸念の深さが同居する今の市場では、何を見て何を見ないかの取捨選択が問われている。

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