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HubSpot20年・Sequoiaコーチが明かす「採用・組織・意思決定」の実践法——スケールで失敗するCEOと成功するCEOの分岐点

HubSpot共同創業者として約20年間CEOを務め、現在は、Sequoiaの専属CEOコーチとして世界トップクラスの創業者たちを指導するBrian Halliganが、Lenny's Podcastに登場した。起業の敷居が劇的に下がった時代に、なぜスケールはかつてなく困難になったのか。採用・組織設計・意思決定・カルチャーにわたる実践的な知見を読み解く。


1. 「始めること」と「スケールすること」の非対称性


HalliganがMITで教えるスタートアップ講義のシラバスには、こんな言葉がある。

「会社を始めることはかつてなく簡単になった。それをdurableで高インパクトな組織へとスケールさせることは、かつてなく難しくなった」

AWSの登場でソフトウェア会社の立ち上げコストが激減し、AIが加わった今、過去10年と比べ今後10年で設立される企業数は「爆発的に増える」とHalliganは言う。歯ブラシを買う話で例えると——かつてドラッグストアに並ぶ選択肢は4〜5種類だったが、Amazonでは数千種類になった。プロダクトの供給爆発は、必然的に「目立つことの困難さ」を生む。

参入コストが下がるほど競争は激化し、スケールのハードルは上がる。これが今の起業環境の構造だ。

2. 成功するCEOを見抜く「LOCKSフレームワーク」


SequoiaでCEO評価を行う際、Halliganは独自のアルゴリズムを使う。「LOCKS(+ S)」と呼ばれる5つの軸だ。

L — Lovable(人を惹きつける力) スティーブ・ジョブズは、必ずしも「好感度が高い」人物ではなかったが、人を従わせる磁力があった。「28歳の自分がこの人のために這いつくばって働くか?」という問いが基準だ。

O — Obsessed(問題への深い執着) 「6ヶ月前に思いついてスタートアップを始めた人には懐疑的だ」とHalliganは言う。長年その問題を考え続け、人生の中にファウンダーとしての適性の証拠がある人間を好む。

C — Chip on the shoulder(内なる反骨心) Sequoiaが重視する観点。成功したCEOのほぼ全員が、何らかの「証明してやる」というエネルギーを持っている。

K — Knowledgeable(ドメインへの深い知識) ただ詳しいだけでなく、業界の歴史や先人の軌跡まで遡って学んでいるかどうか。

S — Student(学ぶ姿勢) HalliganがLOCKSに付け加えた5番目の軸。「彼らは、LLMのようにひたすら学び続けている。自分のためだけでなく、歴史の深いところまで掘り下げる」

そして、近年出現した「5ツールCEO」も語られた。野球のスカウト用語で全能力をこなす選手を指す言葉を借り、コーディング・センス・ビジョン・セールス・採用という5分野すべてに秀でたCEOが、AI時代に増えているという。Brett Taylorが典型例として挙げられた。

3. スケールの壁は「採用」にある——子供テーブルと大人テーブル


Halliganは、SequoiaのCEOたちを「子供テーブル(100人未満)」と「大人テーブル(100人超)」に分けてコーチングする。両者の悩みは明確に異なる。

大人テーブルのCEOが最も多く話すのは、エグゼクティブチームの構築だ。Halliganによれば、大人テーブルのCEOは、平均して就業時間の半分を採用・面接に費やしている。MongoDB CEOのDaveは、「CEO在任10年間で、Cレベルの交代が年平均2名あった」と明かした。

3-1. 採用で犯す3つの失敗

失敗①:直感を過信し、ブラインドリファレンスをおろそかにする
「私は50年間これをやってきたが、それでも面接相手を見抜く自信を過信している」とHalliganは認める。Parker Conradのハックとして紹介されたのが、NDA締結後にボードデッキを送付し、半時間の議論をする手法だ。「素晴らしいですね」と褒めるだけの候補者は赤信号。本当に鋭い人間は必ず課題を指摘する。

失敗②:大企業出身者の光に目が眩む
「Salesforce、Google、Microsoftから100%採用すると、ほぼ100%の確率で離職する」とHalliganは断言する。50〜500人規模のスタートアップが求める混沌と、大企業の整備された環境には、インピーダンスミスマッチがある。「マッキンゼー採用は、ほぼ機能しない。定義上、コンサルは保守的な人間が集まる場所だから」

失敗③:全員が高評価の候補者を選ぶ
HubSpotで学んだ教訓は逆説的だ。「8人が面接して4人が4/4、4人が2/4の候補者」より「全員が3/4の候補者」を選んでいたが、成果は前者の方が良かった。弱点はあっても突出したスパイクを持つ人材を選ぶよう方針を変えたことで採用精度が上がった。

3-2. 育てる——「2004年レッドソックス型」チーム論

2004年のボストン・レッドソックスは、86年ぶりのワールドシリーズ制覇を、ファームシステム出身の安価な若手と、David Ortiz・Pedro Martinezら実績ある外部選手を組み合わせることで達成した。

Halliganが強調するのは、社内育成の過小評価だ。
「外部の候補者は、面接が上手く、欠点が見えない。自社育成の人材は、欠点が見えているからこそ過小評価される。接戦なら内部の人間にチャンスを与えるべきだ」

4. Halliganisms——CEOが学んだ行動原則


Halliganが繰り返し語る格言(Halliganisms)は、いずれも失敗の経験から生まれている。

「サンドイッチを食べるなら、かじるな」(Ruth Porat from Google)
悪いニュースは小出しにせず一度に伝える。レイオフは、「少しだけやって様子を見る」より、一度に決断して実行する方が組織へのダメージが少ない。

「危機を無駄にするな」
HubSpotでの最大の成長は、大規模な障害や危機の後に生まれた。「危機の後、私たちは常に振り子を大きく反対側に振った。意図的に過修正することで、組織全体にメッセージが伝わる」

「植物の水やりを2人に頼むな」(DRI:Directly Responsible Individual) 成果責任は必ず1人に帰属させる。2人に任せた瞬間、植物は枯れるか溺れる。大人テーブルのCEOは、このDRIの概念に「深い信仰」を持っている。

「EV > TV > MV(企業価値 > チーム価値 > 自分の価値)」
スケール後に多くのVPが、自チームの指標最大化(TV)に走り、全社最適(EV)を損なう。HubSpotでは後にCustomer Value(CV)をEVの前に置き、「顧客→企業→チーム→自分」の順で解くことを全社の指針とした。

5. CEOの仕事は時間とともに変わる——汗かきから鼓舞者へ


Halliganは、創業期と成長期のCEOの役割をこう対比する。

スタートアップ期は、「90%の汗と10%のインスピレーション」。あらゆる仕事をこなし、現場に深く関与することが求められる。スケールアップ期になると比率は逆転し、「90%のインスピレーションと10%の汗」となる。仕事をこなすより、組織が動く方向を示し、人を鼓舞することが主な役割になる。

AI時代のCEOには、さらに意思決定の速度が問われる。「かつて年単位だった計画サイクルが、今は3ヶ月になっている。一方向ドアの決断を机の上に長く置いておくと、組織全体が止まる。あの停滞はいつも私の責任だった」

またHalliganは、オプションを持ち続けることの「税金」を強調する。「早く動けるこの時代に、オプションを維持し続けることには多大なコストがかかる。決断して前に進むことの価値がかつてなく高い」

おわりに——崖の底で下した決断


インタビューの最後、Halliganは、スノーモービルの事故で崖から転落し、意識を失いながら極寒の地で一人横たわった体験を語った。「自分は今夜死ぬかもしれない」と思いながら過ごした数時間の末に、ひとつの結論に達した——「8,000人規模の会社のCEOは、自分のリズムに合っていない。もし生き延びたら、次のステージに移る」。

生還後、Halliganは、後任にYam氏を指名して、HubSpotを去り、現在のコーチングという天職にたどり着いた。「人生は短い。それを無駄にするな」——崖の底で学んだ最後のHalliganismだ。

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