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売れない新人を作っているのは、本当に本人だけの問題なのか〜元輸入車ディーラー店長が考える、新人営業の育て方〜

少し前、前職の会社を訪ねる機会がありました。

退職後の経緯もあり、社長と一度腹を割って話そうということになったからです。

少し重たい話になることも覚悟していました。

でも実際には、驚くほど友好的に話すことができました。

その時です。

事務所の中をふと見ると、一人の新人営業がいました。

入社して、まだ2か月ほどだったそうです。

デスクに座り、パソコンの画面と睨めっこをしていました。

メーカーのWeb研修を見ていたのだと思います。

カタログも読んでいました。

でも、私が見ていた間、その新人はほとんど微動だにしていませんでした。

お客様と接する機会も、まだほとんどなかったようです。

教育係は部長でした。

その部長はサービス、つまり整備畑を長く経験してきた人です。

ここで言いたいのは、

サービス出身だから営業を教えられない、

ということではありません。

問題は、

新人営業をどう育てるのかという方法が、店舗の中に見えなかったこと

です。

新人教育について聞くと、

「メーカーのWeb研修を見させている」

「カタログを覚えさせている」

という話でした。

もちろん、それも必要です。

商品知識。

業務システム。

見積や登録などの事務処理。

会社のルール。

新人には覚えることが山ほどあります。

でも私は、その新人を見ながら、

「このままで営業になれるのだろうか」

と思いました。

新人の目の前には、営業経験の長いベテランも座っていました。

決して営業成績の良い人ではありませんでした。

それでも、長年現場にいた人です。

教えられることは何かあったはずです。

けれど、その人も自分のパソコンを見ていました。

私には、

誰もその新人に関心を持っていないように見えました。

声を掛ける人がいない。

一緒に案件を見る人もいない。

お客様と話す機会もない。

商談を考える機会もない。

新人が一人で、

研修画面とカタログに向き合っている。

私は社長に、

「私がトレーニングしましょうか?」

と言いかけました。

本当に喉元まで出かかりました。

でも、言いませんでした。

私はもう辞めた人間です。

頼まれたわけでもありません。

前職の組織へ、外から口を出すのも違うと思いました。

一方で、

「このままでは、この新人は苦しくなるかもしれない」

とも感じていました。

その間で、かなり葛藤しました。

結局、その日は何も言わずに帰りました。

そしてつい最近、

今でも連絡を取っているメカニックから、

その新人がすでに退職したと聞きました。

正直、驚きました。

でも、

どこかで予想していたことでもありました。

もちろん、

その新人がなぜ辞めたのか、本当の理由は分かりません。

育成環境が原因だったと断定するつもりもありません。

本人にしか分からない事情もあったと思います。

それでも、

「あの時、何かしていたら少しは違っただろうか」

とは思いました。

せめて声を掛けていれば。

何を教わっているのか。

何が分からないのか。

どこで困っているのか。

それだけでも聞いていれば。

何か一つ、違うきっかけになったかもしれない。

その悔しさは、今も残っています。

この記事は、その時の出来事がきっかけです。

新人営業本人だけでなく、

店長。

営業責任者。

先輩営業。

新人を預かる立場の方にも読んでいただきたいと思っています。

知識を教えることと、営業を育てることは違う

新人営業には、覚えることがたくさんあります。

洗車。

電話の取り方。

会社での立ち回り。

事務処理。

システム。

メーカー研修。

カタログ。

商品知識。

全部必要です。

こうした基本的なことは、店舗全体で教えていくものだと思います。

営業だけではありません。

サービス。

受付。

事務。

上司。

先輩。

いろいろな人に教わりながら、新人は会社の中で動けるようになります。

ただ、

ここで一つ分けて考える必要があります。

「会社の仕事を覚えること」と「営業として育つこと」は同じではありません。

商品知識を覚えた。

スペックも言える。

見積書も作れる。

でも、お客様の前に出た途端、

何を聞けばいいか分からない。

何を説明すればいいか分からない。

どこで提案すればいいか分からない。

これは珍しいことではありません。

新人が本当に分からないのは、

知識そのものより、

覚えた知識を、目の前のお客様にどう使うのか

だからです。

例えば、

安全装備を覚えた。

でも、

誰に。

どのタイミングで。

どういう意味として伝えるのか。

そこまで分からなければ、カタログの読み上げになります。

営業は商品知識クイズではありません。

お客様が何に困っているのかを聞く。

何を大切にしているのかを知る。

そこへ、自分が持っている知識を当てはめる。

この経験を積ませる必要があります。

私は、

知識を現場で使える行動に変えるところまでが新人育成

だと思っています。

新人は、まず現場の横に座らせる

もし私が新人営業を預かるなら、

一日中Web研修やカタログだけを見させません。

当然、必要な研修は受けてもらいます。

商品知識も覚えてもらいます。

ただ、それと並行して、

実際のお客様を使って営業を教えます。

まずは私の隣に座らせる。

今、どんな案件が入っているのか。

このお客様はなぜ来るのか。

何を聞く必要があるのか。

来店する前に何を準備するのか。

そういう話を一緒に考えます。

新人にとって大切なのは、

「営業はこうやって考えるのか」

を現場で知ることです。

そこで教材の一つとして使いやすいのが、メーカー経由のWeb問い合わせです。

Web問い合わせを「返信業務」で終わらせない

Web問い合わせには、

名前。

希望車種。

カタログ希望。

見積希望。

来店希望。

場合によっては色やグレード、購入時期などが書かれています。

私はまず新人に聞きます。

「このお客様は、何を知りたいと思う?」

「まだ何が分からない?」

「次に何をしてもらえたら、商談になる?」

ここでいきなり答えを教えない。

一度、新人に考えさせる。

そして返信文も新人に作らせます。

最初は、

「お問い合わせありがとうございます」

「カタログをお送りします」

「ご来店をお待ちしております」

のような文章になるかもしれません。

それでいい。

そこから教えればいいのです。

私は新人に、

「好きな子にラブレターを書くつもりで考えろ」

と伝えることがありました。

もちろん、本当にラブレターを書くわけではありません。

相手が何を知りたいのか。

何に迷っているのか。

何を書けば、

「この店に行ってみようかな」

と思ってもらえるのか。

そこまで相手のことを考えろ、

という意味です。

文章を書かせたら、送る前に一緒に見る。

「なぜこの文章では弱いと思う?」

「お客様が知りたいことに答えている?」

「ただの事務連絡になっていない?」

一つのWeb問い合わせだけでも、

営業として教えられることはかなりあります。

お客様の状況を想像する。

文章を考える。

次の行動を作る。

来店前に準備する。

そして実際に会う。

この流れを一件の案件で経験できる。

そこに教材としての価値があります。

連絡方法についても、

お客様の希望や会社のルールを尊重したうえで、

「情報が届いているか」

「次の接点をどう作るか」

まで考えさせる。

ただマニュアル通りに処理するのではなく、

なぜその行動をするのか

を教えることが大切です。

来店したら、説明する前に聞かせる

来店予約が取れた。

新人は嬉しくなります。

そしてお客様が来ると、すぐ車へ案内したくなる。

私なら、そこも一度止めます。

まず座ってもらう。

そして聞く。

「今回は、なぜお車を見ようと思われたんですか?」

「今回の車選びで、一番大切にされていることは何ですか?」

例えば、

今の車が古くなった。

車検が近い。

家族が増える。

通勤方法が変わる。

維持費が気になる。

故障が増えた。

何となく興味がある。

同じ車を見に来ていても、理由は違います。

そこを聞かずに、

「この車は○○馬力です」

「この装備が付いています」

と始めても、説明は一方通行になります。

新人に自由に聞けと言っても難しいので、

最初は必ず確認する項目をいくつか持たせてもいいと思います。

なぜ検討しているのか。

何を一番大切にしているのか。

今の車で困っていることはあるのか。

誰が、どう使うのか。

いつ頃必要なのか。

まずそこを聞く。

その答えによって、次に何を説明するかを変える。

これができると、

新人は「商品説明係」から営業へ一歩進みます。

商品説明は、生活への意味づけ

例えば、

「家族が増えるので、もう少し大きい車を考えています」

というお客様がいたとします。

新人が覚えた知識は、

スライドドア。

安全装備。

荷室容量。

室内寸法。

かもしれません。

でも営業が伝えるのは、スペックだけではありません。

チャイルドシートへ子どもを乗せる時。

買い物の荷物を持っている時。

雨の日。

狭い駐車場。

家族で長距離を移動する時。

その装備が、

このお客様の生活のどこで役に立つのか

まで結びつける。

そこまでできて、商品知識が営業の言葉になります。

輸入車でも国産車でも考え方は同じです。

他社を悪く言う必要はありません。

競合が何を強みとして語るのかを理解し、

自分たちは何を価値として伝えるのかを考える。

価格。

使いやすさ。

安全性。

ブランド思想。

維持費。

アフターサービス。

何がそのお客様に合うのか。

新人には、

「競合を倒す方法」ではなく、「お客様が比較できる説明の仕方」

を教えたいと思っています。

商談の主役を、新人から奪わない

新人育成で、もう一つ大切なことがあります。

先輩の商談を見せるだけでは足りない、

ということです。

もちろん見学も必要です。

でも、ずっと見ているだけでは、

自分がどこまでできるのかは分かりません。

だから私は、

基本的には新人に商談を進めさせたいと思っています。

新人が挨拶する。

新人が聞く。

新人が車を説明する。

新人が次の話につなげる。

育成する側は、横にいる。

ただし、

商談を奪わない。

新人が言葉に詰まることはあります。

聞くべきことを飛ばすこともある。

説明が一方通行になることもある。

お客様の反応を見落とすこともある。

その時に、

お客様が判断できない状態になりそうなら助ける。

大きく方向がずれそうなら軌道修正する。

必要な時には手を差し伸べる。

でも、

先輩が全部説明し、

全部まとめ、

最後だけ新人へ返す。

それでは、新人自身の商談経験になりにくい。

その場はきれいに終わっても、

次も一人ではできません。

新人が自分で進めるから、

「ここで止まった」

「この質問を忘れた」

「この説明は伝わった」

という経験が本人に残ります。

育成者は、代わりに売る人ではありません。

新人が自分で売れるようになるまで支える人です。

振り返りは、新人を責める時間ではない

商談が終わったら、振り返ります。

ここで、

「何であれ聞かなかったの?」

「だから売れないんだよ」

と責めても、次にはつながりません。

まず私は、

「今日の商談、自分ではどうだった?」

と聞きます。

新人自身に話してもらう。

これだけで、

その新人が商談の何を見ていたのか分かります。

自分が話すことで精一杯だったのか。

お客様の反応まで見えていたのか。

次に、

できたことを確認します。

挨拶は良かった。

着座して話を聞けた。

家族構成を確認できた。

来店理由を聞けた。

お客様の生活に合わせて装備を説明できた。

これは、ただ褒めるためではありません。

次も再現できるようにするためです。

次に、

どこで止まったのかを見る。

何を聞けなかったのか。

どこで言葉に詰まったのか。

どこでお客様の反応が変わったのか。

そして、育成者が途中でサポートしたなら、

なぜそこに入ったのか

を説明します。

「あそこで私が話したのは、君の商談を取りたかったからじゃない」

「お客様が判断するための情報が足りなくなりそうだったから」

「あそこでは、価格へ行く前にもう少し使い方を聞きたかった」

そう伝える。

新人にとって、

商談中は「助かった」で終わっていることがあります。

振り返って初めて、

「あそこは自分が気づくべきだったのか」

と分かります。

そして最後は必ず、

「次はどうする?」

まで決めます。

同じようなお客様が来たら何を聞くのか。

次に家族構成の話が出たら、何を確認するのか。

商品説明では何を生活に結びつけるのか。

同じ場面で止まったら、どうするのか。

振り返りは、

過去の失敗を責める時間ではありません。

次の商談を少し良くする時間

です。

新人に、最初からセンスを求めない

私は営業には段階があると思っています。

やる気。

知識。

興味。

センス。

この順番です。

新人に、

「営業なんだから自分で考えろ」

「見て覚えろ」

「分からなければ聞け」

「センスがない」

と言ってしまうのは簡単です。

でも、入社したばかりの新人は、

何が分からないのかすら分かっていない

ことがあります。

何を聞けばいいのか。

誰に聞けばいいのか。

何を見ればいいのか。

どのタイミングで動けばいいのか。

それが分からない状態で、

「自分から動け」

と言われても難しい。

まず、

やる気があるうちに使える知識を教える。

その知識を実際のお客様と結びつける。

すると、

「このお客様は何を考えているのだろう」

という興味が出てくる。

何度も考える。

実践する。

失敗する。

振り返る。

またやる。

その先で、

その場に合った言葉や行動が自然に出てくる。

私は、それがセンスだと思っています。

センスを教えることは難しい。

でも、

センスが生まれるところまでの土台は作れる。

それが育成する側の仕事ではないでしょうか。

育つ前に放置される営業を減らしたい

前職で見たあの新人が、

なぜ辞めたのか。

本当の理由は分かりません。

だから、

「会社が育てなかったから辞めた」

とは言えません。

本人にしか分からない事情もあります。

ただ、

私が見たあの日、

少なくとも営業として現場を学べる状態には見えませんでした。

Web研修を見る。

カタログを読む。

でも、

お客様と話さない。

案件を一緒に考えない。

商談のストーリーを作らない。

誰も振り返ってくれない。

それでは、

営業という仕事の面白さを知る前に苦しくなる人もいると思います。

新人が売れない。

新人が辞めた。

その時、

「本人にやる気がなかった」で全部終わらせていいのか。

私はそうは思いません。

もちろん本人の姿勢も大切です。

営業は、自分で学ばなければ伸びません。

でも、育成する側にもできることがあります。

案件を一緒に見る。

考えさせる。

新人自身にやらせる。

必要な時に支える。

終わったら振り返る。

そして、また次を経験させる。

その繰り返しです。

私は、

単にその店で車を売れる営業ではなく、

どこに行っても通用する営業

を育てたいと思っています。

お客様の話を聞ける。

不安や迷いを整理できる。

商品知識を生活へ結びつけて説明できる。

商談のストーリーを自分で考えられる。

失注しても、

「ダメだった」で終わらず、

何が足りなかったのかを振り返れる。

環境が変わっても、

自分で考えて動ける。

そういう営業です。

そして、今回の記事では、

「どう育てるか」

という考え方を中心に書きました。

より具体的に、

新人営業が最初の1台へどう動くのか。

車検・点検という予定された接点からどう商談を準備するのか。

故障や高額修理、事故という突然の接点からどう相談を作るのか。

商談中の「高い」「考えます」「家族に相談します」といった言葉をどう読むのか。

そこは、

「自動車営業基礎実践マニュアル」

として別の記事に分けています。

育成する側が全部答えを与える必要はありません。

ただ、

新人が考えられる材料と、考える機会は渡す必要があります。

あの日、

私があの新人に一言声を掛けていたら何か変わったのか。

それは今でも分かりません。

でも、

育つ前に放置されて辞めていく営業を減らしたい。

その気持ちは、あの日より強くなっています。

この記事が、

今まさに営業として何をすればいいか分からず悩んでいる新人。

そして、

「新人に何を教えればいいんだろう」

と悩んでいる店長や営業責任者にとって、

現場を少し変えるきっかけになれば嬉しいです。

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