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芸術へのチチェローネ
林 達夫著作集 第1巻
林 達夫は、この本の中で、アンドレ・シャステルの「バッロックの死」のなかのある論文に衝撃を受け、次のように書いている。
添付した絵は、ダ・ヴィンチの「聖アンナ像」である。右側の絵には聖アンナの膝の上に乗った聖母マリアが、子羊に馬乗りしようとしているわが子キリストを捉えようとしている。聖アンナは、マリアの母であるから、親子三代の絵としても有名である..と言いたいところだが、実は、左側のアンナの足元には、胎盤と胎児の切れ端が玉石の間に見えている、とシャステルは、述べている、ということは?これは三代ではなく、胎中の存在を加えた4代の絵ではないかと。その後、ダ・ヴィンチが、聖者三人を描きながら、何故このような存在をもぐり込ませたのかと問いかけてゆく。このくだりを読んだ40年前の驚きとしづかな熱狂とでも呼ぶべきある意味危ない感動がよみがえってくる。林達夫は、その何故に正解を与えているわけではないが、この極めつけのディレッタントの天才には、数十年経っても舌を巻かざるを得ないのである。
編集 久野収 花田清輝
解説 加藤周一
林達夫は、いまでは、一般読者にはあまり知られていないが、当時から極めて玄人受けした著作家であったと記憶している。
「歴史の暮れ方」「思想の運命」などの諸著作のほか、平凡社の世界大百科辞典と哲学辞典の編著者としても有名である。
1984年 没、享年88歳。
この年にわたしたちは、ミッシェルフーコーを、その2年後に鮎川信夫を失っている。
