令和7年2月17日、高次機能障害の難治性てんかん発作で急逝した君に……
今日は言いたいことがある。
君が亡くなったその日は僕の誕生日だったんだ。
久しぶりにフェイスブックを開いたら訃報のポストが目に入って驚いたよ。君のポストだったから、君のお父さんが亡くなったものだと思った。でもよく見たら弟という文字が目に入って、そして君の名前が大きく載っていた。
最初に君のことを知ったのは、世界中を旅した凄い人間が沖縄にいるという話からだった。でもインドアの僕とは接点はないなあと思ってたし、僕が沖縄に行った時には君はすでに脳炎で倒れたあとで療養中だったから会うこともなかった。ようやく君と会ったのはそれから数年後、沖縄ではこれ以上の治療は難しく、新しい治療を求めて君が僕のいる街で生活するようになってからだったね。君はヘルペス脳炎で脳挫傷、海馬を損傷してしまい、高次機能障害・難治性てんかんを発症してしまった。脳炎で倒れてから18年。
迷走神経刺激療法やケトン食療法を試みたけけどあまり効果がなく、脳梁離断術は残されていたけど、君は不安だと言っていた。
若い頃に君は中国、ベトナム、チベット、インド、ロシア、ポーランド、チェコ、クロアチア、フィンランド、イタリア、ドイツ、フランス、アメリカ。まだまだ行った国はある。障害を負ってからも台湾に行ったり、日本のあちらこちらに出かけていった君。
共通の話題がないというのに君は会った瞬間から数十年前からの友達だったかのような感じで当たり前のように僕に話しかけてきて、誰とでもすぐに仲良くなれる人間ているもんだなあと思った。これもすごい才能だよね。もう一人そんな人がいるけど、その人は誰とでも仲良くなるけどそれと同じくくらいに敵も作る人だったから君とは大違いだけど。誰って? 君もよく知っているあの人だよ。僕はあの人のことわりと好きなんだけどね。
身体にふれることができるくらいに君のすぐそばにいることはできても、君のいる場所にたどりつくことはできない。すぐそばにいるのに君のいる場所はとても遠い。
一週間のうちに数回は発作で倒れて、それでも君は平気であちこち出歩き回るから外で倒れたときは救急車で運ばれて、打ち所が悪ければ入院したし、君は脳炎で脳が壊れてしまったと言っていたけど、身体のほうが壊れるんじゃないかと心配していた。ほんとに、まったく。生涯で一番救急車に乗った人間として申請すればギネスに載れたんじゃないのかと思う。
君が結婚したという話を聞いたときも驚いた、いや嬉しかった。照れくさかったのか他の人には相手がどんな人なのか話さなかったようだけど、二人っきりになった時、僕と君が街でばったり出会ったときに君と一緒にいた人だと教えてくれたね。外出時などで君の生活をいろいろと支えてくれていた人だと知って、ようやく君のいる場所にたどり着くことができた人がいたんだと嬉しくなった。
これからはふたりで生きていくんだね。と思ってたら数年後、独身になったって、また驚かされた。まあ、結婚したからといって一生一緒にいてくれるわけじゃないし、君よりも長く結婚生活しているけど、僕だって結婚したのは一回だけだから、アドバイスできるような結婚生活を長く続ける秘訣なんてわかるはずもない。
でも、僕の奥さんのことを気にかけてくれてありがとう。僕の奥さんは統合失調症だから同じ脳の障害ということで気にかけてくれたのは嬉しかった。妻も時々、君が元気にしているか僕に聞いてくる。この間までは元気にしているよと答えることができた。でもごめん、君がもうこの世にはいないということはまだ話せていない。もう少し、妻のなかでは君は生きていてほしい。僕もまだ君がいない世界であることを受け切れていないんだ。今回もまたいつものように、連絡が取れない外国に旅しているだけなんじゃないのかと思ってしまう。だからそのうち、忘れたころにぶらりと帰ってくるんじゃないのかと思ってしまう。
若い頃からいろんな国を旅してきた君だから、まだまだ行っていない国に行ってみたかっただろうけど、だからといって天国に旅するのはちょっと早かったんじゃないのか。
でもね、いろいろな世界を旅してきた君だから、歳取って身体も思うように動かすこともできなくなって寝たきりになってしまう前に、まだ元気な時に、その日常が終ったことは、それはそれで悪くはなかったんじゃないのかと思う。もっと生きたかったっていうのは分かってるよ。だから文句は君が帰ってきた時に聞く。いや今度は僕が君のところに旅したときに聞く。
君が亡くなる三日前、君がフェイスブックに上げた沖縄の海はきれいだった。波音は聞こえないけど、今でも頭のなかで君の声は聞こえる。最後に見た沖縄の海はきれいだったかい。
君が最後に見たこの世界は美しかったかい。
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