ペーパードライバー歴30年の私が、イギリスでハンドルを握るまで−
18歳のとき、免許を取りました。
就職に有利だから。履歴書に書けるから。学生のうちに取っとけ。
そんな言葉に背中を押され、大学の近くにあった教習所に通うことにしました。
免許を取ったものの、東京の一人暮らしでは車を持つ必要もなく、ずっとペーパードライバーのまま。
その後、イギリスに移住し、娘が生まれ、「運転してみたいな」と思った時期もありました。
日本の免許証は、所定の手続きをすればイギリスの免許証に書き換えることができるのです。
でも新車を買ったばかりの夫は私にこう言い放ちました。
「絶対運転しないでよ。絶対ぶつけるから」
全く信用されなかったので、私は助手席に収まることに。
ところが、そんな夫がいなくなり——
最初の半年は、バスとタクシーでなんとか凌いだのですが、ロンドン郊外の暮らしは、そう甘くない。
目的地はバス停から遠いことが多く、タクシーもなかなか捕まらない。
大雨の日、重い荷物を抱え、バス停からびしょ濡れになって歩きながら思いました。
もう、自分で運転する!
車に乗れない日々があまりにも辛かったので、不思議と怖くはありませんでした。
でも夫の車は大きく、縦が長くて、車幅の感覚もつかめない。
路上で何度か縦列駐車の練習をしてみたけど、これは無理だと思いました。
絶対ぶつける。
思い出の詰まった車だったけど、売ることにしました。
普段の生活で必要なのは、買い物と娘の送り迎え。乗ったとしても、せいぜい片道15分程度。
ところが、近くのディーラーに見に行ってみたものの、なかなかオートマの車がみつからない。
イギリスは、ほとんどがマニュアル車なんですね。
中古車販売サイトでオートマの日本車を探し、知人にも手伝ってもらいながら、ようやく一台に辿り着きました。
イギリス生活の相棒となる、TOYOYAのセミオートマ。
これで生活がぐんと楽になる!
ところが。
意気揚々と運転を開始した直後、走行中にエンストで止まるという洗礼を受けることになるのです。
ある日、日本から遊びに来た友人を乗せ、車を走らせていると、ハンドルに違和感を感じ始めたのです。
なんだか急に重くなったような気がする…
そしてメーターパネルの警告灯が全部点灯し始めたのです。
なにこれ!?
「とりあえず歩道に車を寄せて!」と、助手席の友人が叫び、慌てて車を寄せると、そのまま車は完全に止まってしまいました。
エンストじゃない?
私も友人も車の構造はさっぱりわからないので、近所の家のドアをノックして助けを求めました。
バッテリーかもしれない、といろいろ調べてくれたけど原因わからず。
「まさかガス欠じゃないよね?」
え?
ガソリンっていつ、どのタイミングで入れるものだっけ?
そのレベルで運転していたのが今思えば本当に怖いのですが、ガス欠でした。
「車はガソリンがないと走れないのよ」
と呆れられ、車に詳しい別の友人にSOS。
なんと家に携帯用のガソリンがあるというので、持ってきてもらい、その場で給油してもらいました。
「これで10分くらい走れるから、一番近いガソリンスタンドに行ってこい」
しかしイギリスはセルフサービス。ガソリンの入れ方がわからない。
「本当にしょうがないわね」と、近所の人がそのままガソリンスタンドまでついてきてくれました。
人の優しさを感じた夜でした。
でもね、今こうして書いてみても、あの時は本当にラッキーだったとしか思えないのですよ。
車が完全に止まったのは、家のすぐそば。
もしあれが大通りだったら。高速だったら。近所に誰もいない場所だったら。ガソリンを届けてくれた友人が、たまたま家にいなかったら。
「すごい。守られてるね」
友人にそう言われた瞬間、夫の顔が浮かびました。
きっとハラハラしながら見てただろうなぁ。
ごめんね。
それ以来、運転する前は必ず、「今から運転するから守ってね」と声をかけるようにしています。
