「彼らに、自分の顔を見た」
イギリス人バンドマンが教えてくれた、“聴く”ということ
今日も体験レッスンが終わった。
そして嬉しいことに、
定期レッスンを購入してくれた。
ありがたい。
本当にありがたい。
でも今日、
私の中に残ったのは、
定期レッスンが決まったことだけじゃなかった。
彼が語ってくれた、
ある思い出だった。
神戸に住む、38歳のイギリス人
彼は38歳。
私と同い年だった。
神戸に住み、
日本語学校に通っている。
9月で卒業予定。
その後は帰国し、
日本語を使う仕事に就きたいと言っていた。
以前はゲーム業界で働いていたが、
またその世界に戻りたいとも話していた。
ベジタリアンで、
穏やかな雰囲気を持つ人だった。
そして、
言葉をとても丁寧に選ぶ人だった。
元バンドマンだった
趣味の話になった。
私はいつものように、
好きなことを聞いてみた。
すると彼は言った。
昔、
バンドをやっていたんだと。
ベース。
ドラム。
20代前半の頃は、
たくさんライブをしていたらしい。
どんな音楽だったのか聞くと、
パンクロック。
そして、
レッド・ホット・チリ・ペッパーズが好きだと言った。
日本ではレッチリの愛称で呼んでいるよ
と教えるとすごく笑っていた。
そこから彼は、
少しずつ昔の話を始めた。

一番忘れられないライブ
「一番印象に残っているライブはありますか?」
そう聞くと、
彼は少し考えた。
そして話してくれた。
あるアニメイベントに、
自分たちのバンドが招待されたこと。
主催者は、
ホテルも用意してくれた。
移動や準備も手伝ってくれた。
その心配りが嬉しくて、
今でも覚えていると言った。
でも、
本当に彼が話したかったのは、
そこじゃなかった気がする。
熱狂の中にいた
ライブ当日。
会場は熱気に包まれていた。
歓声。
拍手。
一体感。
ステージから見える景色。
それらを思い出しながら、
彼は楽しそうに話してくれた。
私はその話を聴きながら、
きっと熱いライブだったんだろうな。
その場にいたら、
私も楽しかっただろうな。
そんなことを想像していた。
「彼らに、自分の顔を見た」
そして彼は、
何度も言葉を探しながら話した。
どう表現したらいいのか。
どの言葉が一番近いのか。
少し悩みながら。
考えながら。
そして最後に、
こう言った。
「彼らに、自分の顔を見た。」
私は、
その言葉が忘れられない。
たぶん彼は、
観客の中に、
自分と同じものを好きな人たちを見たんだと思う。
同じアニメが好きで。
同じ音楽が好きで。
同じ熱量を持っていて。
だから嬉しかった。
だから盛り上がった。
好きなもの同士、
そう、オタク同士だ。
盛り上がらないわけがない。
いい意味で
オタクと自分で表現していた。
その言葉を聴いた瞬間、
私は少しだけ、
そのライブ会場を見た気がした。

言葉を探す時間
私は、
彼が話す姿を見ていた。
言葉を探す時間。
考える時間。
「この表現でいいかな。」
と悩む時間。
頭の中から、
一生懸命言葉を引っ張り出している感じ。
それがとても良かった。
流暢に話すことだけが、
会話じゃない。
言葉を探している時間にも、
その人らしさがある。
そう思った。
人は話し方が9割じゃない
最近、
『人は話し方が9割』という本を久々読んだ。
令和で一番売れた本だってさ。
確かにそうかもしれない。
でも今日、
私は少し違うことを思った。
本当は、
人は聴き方が9割なんじゃないか。
と。
あの時、聴かなかったら
もしあの時。
私が話を急いでいたら。
リアクションを返さなかったら。
別の話題に変えていたら。
私は、
あのライブの話を知らなかった。
熱狂の話も。
一体感の話も。
「彼らに、自分の顔を見た」
という言葉も。
知らないままだった。
人は、
安心すると話し始める。
そして、
ちゃんと聴いてもらえると、
大切な思い出を差し出してくれる。
私は最近、
そんな場面に何度も出会っている。
やっぱり、聴くということ
聴くという字は、
耳と、
目と、
心でできている。
私は何度も言っているし
これがとても大切だと常に
思っている。
実際会話の主導権を握っているのは、
話す側ではなく、
聞き手側にあるからだ。
それは、
ただ音を聞くことじゃない。
相手を知ろうとすること。
相手の世界を見ようとすること。
相手が大切にしてきた時間を、
受け取ろうとすること。
それが、
私の考える「聴く」だ。
保育士だった頃もそうだった。
子どもたちは、
すぐには話してくれない。
まず待つ。
観察する。
急がない。
すると、
ふとした瞬間に本音を見せてくれる。
日本語学習者も、
少し似ているのかもしれない。
初めましてだったけれど
初めましてだった。
たった一時間のレッスンだった。
それでも彼は、
大切な思い出を話してくれた。
20代の頃の熱狂を。
仲間との時間を。
観客との一体感を。
そして、
「彼らに、自分の顔を見た」
という忘れられない言葉を。
私は、
その話を聴けたことが嬉しかった。
だから今日も、
私は聴く。
耳で。
目で。
そして心で。
その人の中にある、
まだ言葉になっていない物語をね。
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