【短編小説】転生したら賃貸契約更新の書類だった件
文字数:約1,700文字
気がつくと、僕は封筒の中にいた。
最後に覚えているのは、原稿の締め切りに追われながら徹夜で書いていて、気づいたら机に突っ伏していたことだ。そこから記憶が飛んで……こうして目が覚めたら、なぜか自分が一枚の紙になっていた。
いや、紙というか書類? どうやら賃貸契約の更新書類らしい。
「何が何だかわからねえよ!」
叫びたくても声も出ない。だって紙だもん。
そんな僕の混乱をよそに、封筒の外から人の声が聞こえてきた。
「あれ? 更新書類がない……」
ん? その声、どこかで聞いたことがある。まさか……僕自身の声? そう、これは僕が住んでるアパートの更新書類。締め切りまであと3日しかないのに、どこにしまったか忘れてしまっていたんだ。
ってことは……これから僕は、僕自身に探し回られる運命ってこと?
ああ、なんてこった。せめて小説の主人公に転生できなかったのか。賃貸契約書なんて、地味すぎるだろ。
でも待てよ。これって案外、面白いかもしれない。
普通、なろう小説の主人公ってチート能力とか持ってるじゃん? だったら僕だって……うーん…何も起こらない。
だめだ。とりあえず、動き出そう。
これは冒険の始まりだ。目指すは無事に更新書類を提出すること。そして、この世界の真実を知ること。
……まずは、机の引き出しから這い出す方法を考えなきゃ。
意識を集中させると、驚くべきことに封筒が少しだけ動いた。
「よし、これならいける!」
ゆっくりと、封筒ごと机から滑り落ちる。
床に着地。痛みはない。そりゃそうか、紙だもんな。
廊下に出て、玄関を目指す。
そこへ突然の足音。
「やべっ、財布忘れた!」
僕自身が戻ってくる。このままじゃバレる!
咄嗟に体?をもぞもぞしていると一瞬のきらめき。瞬間、僕は一枚の広告チラシに姿を変えていた。
「あれ? こんなとこにチラシが……」
僕(人間の方)は首をかしげながら、僕(チラシの方)を手に取る。
そして、「ゴミ箱ポイー」
「えぇっ!」
叫びたくても叫べない。僕は今、自分自身の手でゴミ箱に捨てられようとしていた。
決死の思いが通じたのか、危機一髪、きらめきとともに元の姿に戻る。
僕(人間)は驚いて手を放した。
「うわっ! 契約書が落ちてた! よかった、見つかって……」
そう言いながら、僕は僕を拾い上げた。
ほっと胸を撫で下ろす僕。同時に、きらめいた時の感覚を思い返す。もしかしてこれが……。
あの感覚を思い出して、もう一度体を動かしてみる。そうすると思った通りに文章の一部を変更することができた!
これが僕の能力なんだ。「契約書マジック」と名付けよう。……やっぱり後でゆっくり考えよ。
自分の力と状況を把握し、少し落ち着きを取り戻す。だが、これで終わりじゃない。
むしろ、ここからが本当の戦いの始まりだ。
ふと、「契約書マジック」の可能性に気づく。そうだ、せっかくだから家賃を下げられないだろうか。意識を集中させ、契約内容を少しずつ変更してみる。
「よし、10%減額……!」
文字が微かに光り、家賃が減額されたのを肌で確認する。うまくいった!これはいいぞ。
果たして、無事に更新手続きを済ませることはできるのか。
そして、なぜこんなことになったのか……。
答えはまだ見えない。
ただ、一つだけ確かなことがある。
これは、とんでもない冒険になりそうだ。
……と、そこまで考えたところで、目が覚めた。見慣れた自室のベッドの上だ。隣には、完成した原稿が置いてある。どうやら、徹夜で書いていた小説のアイデアが夢に現れただけらしい。
ほっと胸をなで下ろす私。しかし、ふと目に入ったのは、机の上に置かれた見覚えのない封筒。おそるおそる開けてみると、中には賃貸契約の更新書類が。
僕は思わず二度見した。そして、慌てて更新書類に目を通す。するとそこには、なんと家賃が10%減額されているではないか!
これは夢? 現実? それとも……。 答えは、きっとこの契約書だけが知っているのだろう。
(了)
小説集
いいなと思ったら応援しよう!
私をサポートすると、あなたの財布が軽くなります。それでもいいという物好きな方だけ、どうぞ。