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短編小説 「名もなき雨」

私は雨だ。ただの、名もなき雨。

朝、雲の底で目覚めたとき、私はほかの雨粒たちと手をつないで、静かに空から地上へ落ちていく。特別な存在ではない。誰かに「きみは美しい」と指をさされることもなければ、「お前のせいで困った」と恨まれることもない。ただ、「雨」とひとくくりにされる、そんな雨だ。

空気はひんやりして、世界全体が少しだけ薄暗い。通学路の子どもたちは傘を差し、会社員は駅へと急ぎ足で歩いていく。私が彼らの髪に触れても、彼らはただ手で払うだけ。道行く人は空を見上げ、「ああ、雨か」とため息まじりに呟くだけ。私がここにいることに気づいてくれる人はいない。

強い雨になりたいと思った。あの“土砂降り”の雨。地面に跳ね返り、屋根を激しく叩き、道路に水たまりをつくって人々の歩みを止めてしまう、あの力強い雨。人間たちは「土砂降りだ!」と叫び、計画を諦め、カバンで頭をかばい、たまに足を止めて「すごい雨だね」と目を見合わせる。私も、そんな雨になれたなら。世界を少しだけ騒がせてみたい。「君のおかげで今日はびしょ濡れだよ」と誰かが笑ったり、怒ったり、予定を変えたり。そんなふうに、人間の時間を止める雨になりたいと思った。

だけど私は違う。私の降るこの朝は、「土砂降り」でもなければ「霧雨」でもない。ちょうど良い降り方、とでも言うのだろうか。しとしとでもなく、ぱらぱらでもない。カーテン越しに外を眺める誰かが、「今日、雨だった?」とつぶやく。そんな程度の存在だ。私は誰にも名前をつけてもらえない。「ああ、雨か」それだけ。強くもなく、弱くもなく。中途半端なまま、地上へ落ちていく。

私のすぐ隣で落ちていく雨粒は、きっと昨日の夜に生まれたばかり。「君はどんな雨になりたい?」と尋ねると、「雷雨がいいな」と答えた。雷をともなって、空をまるごと揺らすような、そんな雨。「かっこいいね」と私は言う。彼は少し照れくさそうに、けれど勢いよく地面に向かっていった。

その隣で、別の雨粒がささやく。「私は霧雨がいい。やわらかくて、優しくて、朝露みたいな存在」私はうらやましくなる。みんな何かになりたいと願っているのに、私は何になりたいのかもよくわからない。ただ、強く、目立ちたいだけなのだろうか。誰かに名前を呼ばれたいのだろうか。せめて「今日の雨はすごかった」と、ほんの少しでも記憶に残りたい。

音もなく、ただ、静かに。ときどき、傘の先に当たり、しずくとなって滑り落ちる。傘の持ち主は気づかず、濡れた地面を忙しなく歩く。誰かの肩に落ちても、すぐに拭われてしまう。私は何の痕跡も残さず、アスファルトの上を流れ、やがて側溝へと消えていく。

途中、歩道の片隅で足を止めた子どもが、「なんだか、きれいな雨だね」とポツリとつぶやく。ドキリとする。でも、それもほんの一瞬。子どもはすぐに走り去り、私は名もなき水へと戻っていく。

名を持つことは、どんな感じだろう。「土砂降り」や「霧雨」、あるいは「にわか雨」「小雨」――たったそれだけの違いで、雨粒たちは自分の物語を持つ。私はといえば、「雨」とだけ呼ばれる。何も残せないまま、地面にしみこんで消えていく。でも、いつかまた、空に昇り、雲になり、生まれ変わったときには「土砂降り」になりたい。人々の会話のなかに割り込んで、日常をちょっとだけ止めてやりたい。

やがて側溝から川へと流され、やがて大きな川に溶け込む。川は海へ、私は溶けていく。もはや誰にも「雨」とすら呼ばれない。ただの水。名前も役割もない、透明な存在。でも、不思議と寂しさはなかった。

次にまた、雲に戻る日がくるだろうか。もしそうなったら、今度こそ「土砂降り」になりたい。それまではただの水でいることにしよう。


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雨が降らない六月だったな。

ฅ(`ꈊ´ฅ)キェェェー

テヘペロ(*≧∀≦*)

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雨奈川ひるる ビラビラで空を飛ぶ

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