残された第二ボタン
卒業式、第二ボタンをつけたまま、僕は家路へついた。こう見えて女友達は多いと思っていたから、第二ボタンが残るなんて思ってもいなかった。声をかけられやすいように、一人で帰ると友達にも伝えていた。駐輪場に散りばめられた桜の花びらは、踏みつけられて色褪せていた。
「内緒だからな」と、第二ボタンを渡し、帰り道にあるたい焼き屋へ寄る。そこで、学校生活のこと、これからのことを話す。ありふれたプランだ。しかし、誰にも声をかけられないとは想定外だ。
仕方なく僕はひとりでたい焼き屋に寄った。先客がいた。幼馴染の遥だ。気まずい。昨日、うっかり今日のプランを彼女に話してしまっていたからだ。
「おやー? 第二ボタンがついたままだね」
「うるせぇ」
「声が小さいな。仕方ない、お姉さんが話を聞いてあげよう」
遥はベンチの端をポンポンと叩いた。僕はたい焼きと特濃緑茶を買って、隣へ座った。ため息が漏れ出る。
「こんなはずでは……」
「そうかな? 予想通りだよ」
「結局、俺は中身のない人間だってことか。もっと自分を磨かないとだな」
たい焼きを割ると、餡から湯気が沸き立った。ここのたい焼きは尻尾までギュッと詰まっていると評判だ。
「中身じゃなくて、もっと外側を磨いたほうがいいんじゃない?」
遥の手が伸び、僕のたい焼きの背鰭の先をつまみとった。薄くて香ばしくて美味しいところだ。すかさず僕も彼女のたい焼きから、尻尾の先を奪い取る。
「オシャレしろってことか? でも、そういう奴って同じようなカッコしてるだけじゃん」
「その型が大切なんよ。個性より、清潔さと安心感」
遥は、たい焼きを突き出してきた。
「たい焼きは、同じ型から作られてるけど食べるでしょ」
「そうだけど、中身が美味しくなければリピせんだろ」
「そこが間違い。見た目がイマイチだと、そもそも誰も手に取らないよ。挨拶とか雑談とかも大事だよ。中身が伝わるのはそのあと。あんた、中身は悪くないんだからさ……」
遥はたい焼きの尻尾を頬張りながら、僕のたい焼きを凝視している。あわてて僕はたい焼きを口へ放り込んだ。ここのたい焼きは本当に美味しい。外側サクサク、香り高く、濃厚な餡がつまっている。
「でも、誰にも声掛けられなかったのはショックだ」
「そりゃ、グループチャットで言ったからね」
「ん、なんて?」
「私が告るから応援してって」
たい焼きの香りと共に、桜の風が吹き抜けた。
(了)
今も押し入れの奥に眠る学生服の第二ボタンを想い、ちょっと泣いちゃった。
こちらの企画に参加させていただきました。
■セリフ
「内緒だからな」
■三題
・第二ボタン
・たい焼き
・駐輪場
▼投稿ルール
投稿締切(任意):2026年3月19日(木)23:59
ハッシュタグ「 #せりふ三題噺 」「 #第二ボタンたい焼き駐輪場 」をつけて投稿
