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つららつらたん エビフライ

 エビフライは蒸し料理だ。油の中で衣に守られながら、エビ自身の水分で蒸し上げられる。そうしてあのサクサクジュワな食感に育つのだ。僕はエビフライが大好きだ。

「はい、忘れ物。今日はエビフライだからね」

 妻はにこやかにお弁当箱を差し出した。まわりの同僚達が笑みを浮かべた。僕は「ありがとう、楽しみだ」と伝えて妻を見送った。妻は白い息をまとわせながら、軽やかに雪の上に足跡を残して帰っていった。軒下のつららは日光を反射しながら溶け出していた。

 つららは極寒の地では育たたない。日中の温かさで溶けた雪がしたたり、夜の寒さでつららになる。だから、長く氷点下が続くと、つららは育たない。

 僕は白い息を外に置いて、休憩室へと向かった。今日は大好きなエビフライなのに、僕の足は重かった。昨夜、妻と喧嘩をしたのだ。ことの始まりは僕の母だ。突然、訪ねてきて、素敵な三輪車があったと、それを置いていったのだ。僕達にはまだ子供はいないのに。

 お弁当箱を開けると、素揚げのエビフライが現れた。少し説明が必要だろう。素揚げのエビフライとは、衣がついていない状態でフライされたエビだ。だが、ただの素揚げされたエビではない。本来は僕の大好きなエビフライになるはずだったものだ。妻は何かしら訴えたいことがあると、こうやってオカズを念を込めるのだ。

 僕は素揚げのエビフライを頬張った。それは油っぽくて少し硬くて、噛めば噛むほど、三輪車を見つめる妻の姿が頭から離れなかった。

 オカズに念を込めた後、妻の機嫌はいつも良くなった。家に帰れば何事もなかったかのように美味しい晩御飯を作ってくれる。しかし、安心していてはいけない。そのうち、つららも育たない極寒の家庭になってしまう可能性だってあるのだ。

 今日はケーキでも買って帰ろう。つららをもう少し温めておかないと。

(了)



毎回、タイトルは勢いだけでつけています。

こちらの企画に参加させていただきました。

#せりふ三題噺 #エビフライ三輪車つらら

■セリフ
「はい、忘れ物」
■三題
・エビフライ
・三輪車
・つらら

#ショートショート #小説 #短編小説 #読書好きな人と繋がりたい #眠れない夜に

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