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トラとシマウマ

 僕が動物園に就職して二十年目の夏、同窓会の案内がきた。そういう場所は苦手だったが、参加に丸を付けて送り返した。会いたい奴がいるのだ。

 ホテルの宴会場は広かった。シャンデリアがキラキラと光を反射し、ひどく場違いな気がした。用意された席についたものの、周りはしゃべったこともない人間ばかり。グラスはすぐに空いた。「喉乾いてたんだよね」と言い訳だけが頭をよぎる。次の料理はまだだろうか。

 仕方がないので、僕はシマウマのことを考えることにした。

 草食動物は肉食動物に捕食される運命を背負って生まれてくる。身を守る術を持つものもいる。ヤマアラシやスカンクだ。しかし、自然界では、ちょっとした怪我でも命取りになる。だから、最善手は逃げる。

 ところが、肉食動物にも足の速い奴がいるから、いつも逃げ切れるとは限らない。なお悪いことに、群れで狩りをする動物もいる。ライオンなどは雌の群れが狩りをするから、逃げ切れるものではない。僕は群れる肉食獣より、圧倒的な力を持つトラが好みだが、僕の話は今はいいか。

 では、どうやって草食動物は生き残っているのか? もちろん群れるのである。それも圧倒的な数の群れを作る。例えば、ヌーやシマウマだ。ヌーなど、ワニが待ち構える川へ群れで突撃する。もちろん誰かが襲われるのだが、その間に、群れは川を渡り切るのだ。シマウマも弱った個体を差し出して、群れを逃がす行動をとることが確認されている。そうやって草食動物は種をつないでいくのだ。

 しかし、やられるばかりではない。草食動物が肉食動物を打ち負かすことがある。窮鼠猫を噛むというやつだ。シマウマが休み時間に不良をぶん殴ったとき、まわりにいた生徒は度肝を抜かれたものだ。

 馬島という名前をいじられて、シマウマと呼ばれても、いつもニコニコしていた彼が火山のごとく怒ったことがある。それは美術の時間に起こった。シマウマの親友が絵付けをしていた風鈴を不良が取り上げた。しかも、からかっているうちに、それを割ってしまったのだ。

 教師が不良を𠮟りつけようと駆け寄った。しかし、それよりも速く、シマウマのこぶしが綺麗に不良の顎に吸い込まれた。そのまま不良は後ろへふっとんでノックダウンだ。そのあと、教師がシマウマを羽交い締めにして止めなければ、不良は顔の形が変わったかもしれない。それぐらいの大噴火だった。この事件は後に、風鈴火山事件として同級生の間で語り継がれることになった。

 今日は、そのシマウマに会えると思ってわざわざ来たのに、欠席とはどういうことだ。なんでも、弁護士の仕事が忙しすぎて欠席だと、隣のテーブルから聞こえてきた。あいつらしいと思った。

 もう、馬島をシマウマなんてあだ名で呼ぶ奴はいないだろう。でも、僕はあえて、あいつのことをシマウマと呼んでやろうと思って来たのだ。シマウマの奴、どんな顔をするだろうか。

 あいつに殴られた顎をさすりながら、僕はデザートのビターチョコで汚れた指をなめた。煌々と輝くシャンデリアがそれを見ていた。


(了)



あえて言おう、風鈴火山が真のお題であるということを。

以下の企画に参加させていただきました。
■セリフ
「調べないほうがいいよ」
「喉乾いてたんだよね」
(今回はどちらを使っていただいてもお題として回収させていただきます)
■三題
・火山
・シマウマ
・風鈴

▼投稿ルール
投稿締切(任意):2026年7月30日(木)23:59

ハッシュタグ「  #せりふ三題噺 」「 #火山シマウマ風鈴 」をつけて投稿

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https://note.com/valley_/n/n501eedef63d9


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