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「あの声に、名前はなかった」 – StoryHug’s MiniBook

〜あの声に、名前はなかった〜

それが何で、どこから届いた声だったのか──私には、わからなかった。
けれどひとつだけ、たしかに言えるのは、
その声が、耳に、ちゃんと届いたということ。

誰かの声。
楽しそうに笑う、あたたかな声。
まるで陽だまりみたいに、心をぽかぽかと撫でてくる、美しい声だった。

風が吹いた。
花がやさしく揺れる音が聞こえた。
それは、世界のすべてが「大丈夫だよ」と囁いてくれているみたいで、
子どもの背を抱きしめて、髪をそっと撫でる手のひらのようだった。

ねえ、あなたの声は──
どんな物語を知っているの?
どんな景色を、どんな涙を、越えてきたの?
あなたが知りたいことは、どんなこと?

揺れる心は、ひとひらの花びらのように
ふわりふわりと、右へ、左へ。
まるで、あなたの続きを、胸を高鳴らせながら待っているみたい。

また、声が聞こえた。
それは、きっと「ありがとう」という言葉。
風に、空に、星に、夢に、花に──
誰のものかはわからなくても、
その響きが胸に染み渡ったことだけは、まぎれもない事実だった。

あたたかくて、やさしくて、
心のどこかを、そっと撫でてくれる声。

私は、その声を、もうしばらくのあいだ──
静かに、聴いていたいと思ったんだ。


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