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第25章                            それでも、まだ終わらない

暗い部屋から出ると、昼に私を取り調べた眼鏡の係官がいた。

少し太った、落ち着いた声の男だった。

彼は自分の部屋にマイケルと私を招き入れたうえで、机の向こうに座り、私たちを中へ入れるように合図した。

マイケルと私だけになっていた。

朝、刑務所から一緒に連れてこられた人たちは、ほとんど消えていた。

シリア人の母と息子も、すでにどこかに消えていた。

西洋人の女性たちも、アラブ人の女性たちも、南アジア系の男たちも、もうそこにはいなかった。

残ったのは、マイケルと私だけだった。

その時点で、いよいよ何かが決まるのだろうと思った。

良い方向なのか。

悪い方向なのか。

それはまだ分からなかった。

係官は、落ち着いた声で言った。

あなたたちがテロリストでも、不法移民でもないことは確認できた。

その言葉を聞いて、少しだけ身体の力が抜けた。

少なくとも、最悪の疑いは外れたらしい。

だが、次の言葉で、その力はすぐに戻った。

ただし、最終的な手続きがまだ残っている。

今日は帰ってよい。

しかし二日後に、もう一度ここへ来なければならない。

帰ってよい。

その言葉は、たしかに聞こえた。

けれど、それは完全な自由ではなかった。

扉が開いたように見えて、その先にもう一つ扉がある。

そういう感じだった。

マイケルがすぐに反応した。

二日後、帰国便がある。

カナダへ戻る航空券だ。

変更できないチケットだ。

どうしても明後日、出国しなければならない。

彼の声は、それまでより切迫していた。

刑務所でも、取調室でも、マイケルはずっと緊張していた。

水を求め、タバコを求め、家族や恋人に電話したがっていた。

それでも、いつもどこかで自分を保っていた。

だがこの時は、はっきりと落胆していた。

彼にとって、二日後の航空券は、ただの移動手段ではなかった。

この国から出る道だった。

それが閉じようとしている。

私は思わず、係官に頼んだ。

マイケルを行かせてやってください。

私は二日後に戻ります。

彼の手続きも、私が代わりに済ませます。

彼は貴重品をここに残していけばいい。

私が手続きを終えたら、それを受け取って、DHLでカナダへ送ります。

だから、どうか今夜だけでも、彼を帰国させてください。

自分でも、無理な頼みだと分かっていた。

それでも言わずにはいられなかった。

マイケルは明らかに消耗していた。

二日後出られないことが分かったら、また一段深く沈む。

そう思った。

係官は首を振った。

電話は返せる。

だが、パスポートは返せない。

パスポートなしでは、出国できない。

それで終わりだった。

それ以上の交渉はできなかった。

マイケルは黙った。

彼の顔に、失望が出ていた。

怒るというより、力が抜けたような表情だった。

抗議しても変わらない。

頼んでも変わらない。

二日後の航空券は、もう使えない。

その事実だけが、部屋の中に置かれた。

私たちは、スマートフォンだけを返された。

パスポートは戻らなかった。

財布もカメラも、まだ別の場所にある。

それをその時、外に出るまで忘れていた。

建物の外へ案内された。

もうすっかり夜だった。

外に出て初めて、建物全体が暗さの中に沈んでいることが分かった。

昼間、廊下で見えていた光はもうない。

外の空気は冷たかった。

私たちは、そこがどこなのか、よく分かっていなかった。

地図もない。

名前も分からない。

ただ、昼に聞いた声や、廊下の形や、階段の感覚だけが残っている。

自分たちは、どこかの政府機関のような建物から出てきた。

それ以上は分からなかった。

そのときになって、思い出した。

そうだ、財布やカメラ、現金、その他の貴重品は、まだ刑務所の方に預けたままだった。

昨夜、封筒に入れられ、金額を数えられ、署名させられ、鉄の棚にしまわれた。

それを取りに行かなければならない。

だが、そこがどこなのかも、私たちには分からない。

係官は、外まで出て来てくれて、自分の電話を取り出した。

そしてタクシーを呼んだ。

さらに、運転手に行き先を説明した。

まず、私たちを貴重品のある場所へ連れて行くこと。

その後、私の滞在先へ寄ること。

最後に、マイケルのホテルへ行くこと。

その順番を、運転手に伝えていた。

料金も交渉してくれた。

私たちは、そのやり取りを横で聞いているしかなかった。

運転手が何と言っているのか、細かいところまでは分からない。

係官が何をどこまで説明しているのかも分からない。

ただ、この町で、私たちは自分ではどこにも帰れないことだけは、よく分かっていた。

私たちはまだ、自分のいる場所も、戻る道も、荷物のある場所も、何も把握していなかった。

係官は、そのままタクシーのところまで見送ってくれた。

それは妙な光景だった。

昨日からずっと取り調べられ、拘束され、質問され、待たされてきた。

その同じ側の人間が、今度はタクシーを呼び、値段を決め、道順を伝えている。

親切なのか。

手続きなのか。

監督なのか。

よく分からなかった。

ただ、その時の私たちには、それが必要だった。

タクシーに乗り込む。

マイケルと私は後部座席に座った。

車が動き出す。

その瞬間、二人とも返されたスマートフォンを確認した。

SIMカードが抜かれていて、端末の裏側にテープで貼られていた。

私たちはそれを外し、もう一度スマートフォンに差し込んだ。

画面が戻る。

通信が戻る。

外の世界が、急に薄くつながった。

マイケルは、すぐにカナダの家族と恋人に電話した。

声が震えていた。

電話の向こうから、安堵と涙のような声が聞こえた。

私はその会話を横で聞いていた。

内容を全部聞き取る必要はなかった。

生きている。

戻ってきた。

まだ出国はできない。

でも、今は電話ができる。

それだけで十分だった。

タクシーは夜のベイルートを走っていく。

どこを走っているのか、まったく分からない。

ただ、窓の外に光が流れていく。

街は普通に動いている。

車が走り、人が歩き、店の明かりがある。

その普通さが、少しだけ遠く感じられた。

私たちは、完全に解放されたわけではない。

パスポートは戻っていない。

二日後にまた戻らなければならない。

明後日のマイケルの航空券は使えない。

貴重品を取りに、あの場所へ戻らなければならない。

それでも、今は車の中にいた。

刑務所の床でも、暗い廊下でも、取調室でもない。

それだけで、少し現実が変わった。

タクシーは、まず貴重品を預けた施設へ向かった。

その建物は、朝見たときとは違って見えた。

夜の中では、最初に連れてこられたときの印象に近かった。

また中へ入る。

また手続きが始まる。

預けたときと同じように、ゆっくり確認される。

封筒。

署名。

金額。

持ち物。

一つずつ戻される。

ここでも、時間は急がない。

こちらは早く帰りたい。

だが、向こうの流れは変わらない。

ようやく貴重品が戻った。

出ようとすると、警備の男たちが笑って言った。

もう戻ってくるなよ。

笑いながらだった。

冗談のようでもあり、警告のようでもあった。

私たちは外へ出た。

夜はまだ続いていた。

帰れる。

だが、終わってはいない。

その状態のまま、私たちはまたタクシーに乗った。

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