【閑古鳥雑貨店のプク】夜、猫がいるカウンターに何も置かなかった話
シャッターを下ろしたあと、
カウンターの上に何も置かなかった。
いつもなら、
売れ残った小物か、メモ帳か、
飲みかけのマグカップのどれかが残っている。
今日は、それがなかった。
片づけた、というより、
置かなかった、という感じに近い。
理由は特にない。
強いて言えば、
考えるのを一度やめたかっただけだ。
ストーブの音だけが、店の奥で鳴っている。
外はもう暗くて、
通りを歩く人の気配もしない。

プクは、いつもの場所にいた。
カウンターの下でも、足元でもない。
少し離れたところで、丸くなっている。
こちらを気にする様子はない。
起きもしないし、寝返りも打たない。
その距離が、今日はちょうどよかった。
何も置いていないカウンターを見ていると、
不思議と落ち着かない。
普段、どれだけ
「何かがある前提」で
店をやっているのかが分かる。
売るもの。
考えること。
次に決めること。
たぶん私は、
何も決めなくていい時間が
あまり得意じゃない。
だから、
空いている場所を見ると、
すぐに何かで埋めたくなる。
今日は、それをしなかった。
できなかったのか、
しなかったのかは、
自分でもよく分からない。

プクが、いちどだけ目を開けた。
こちらを見たわけでもなく、
ただ、起きただけの顔だった。
そのまま、また目を閉じる。
「今日は、これでいいよね」
声に出して言ったけれど、
返事はない。
返事がないことが、
かえって助かった。

電気を一つずつ消して、
最後に、カウンターをもう一度見る。
何もないままだ。
そのまま鍵をかけて、
店を出た。
今日は、
何も置かなかった。
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▶︎ マグカップ選びに疲れた夜に、これだけが残った話
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