クジラが死んだら、その体はどこへ行くのか
クジラとイルカは、一般に成体の体長4メートルを境に呼び分けるそうです。例えば4メートルより小さいものをイルカ、大きければクジラ。見た目は全然違う気もしますが、生物学上の明確な区別はないそうです。それはそれとして、この事実を知ったとき、ふと疑問が浮かびました。
「4メートル以上もある巨大なクジラが死んだら、その死体はどうなるのだろう?」
最初は、体内にたまったガスで海面に浮いているのかもしれません。それもやがて沈みはじめ、途中で魚たちに食べられるのかもしれません。でも、あれほど大きな体を、すべて食べ尽くせるのでしょうか。肉を残したまま、深いふかい海の底まで沈んでいくこともありそうです。
想像だけでは物足りず、気になって調べてみました。
深海に沈んだクジラの死骸は、以下4つのフェーズを経て、多くの命を養う場所になります。
肉や脂肪がサメなどに食べられる。
残った骨に、骨の栄養を利用する生物が集まる。
骨が分解されて発生する成分を利用するバクテリアや、さまざまな生物が集まる。
養分が抜けきった骨が、生き物たちの住処になる。
ここで育まれる生態系を「鯨骨生物群集」と呼ぶそうです。
自然界では、死はそこで終わりではないのでしょう。クジラの巨体は、死んだあとも多くの生物の糧となり、長い時間をかけて次の命へ受け渡されていきます。食べるものと食べられるもの、死ぬものとその死を糧にするものがつながり、その連鎖のなかで世界は成り立っています。僕はそこに、この世界の仕組みそのものの美しさを感じます。
ところが人間は、亡くなれば葬式を行い、火葬して、お墓に納めます。生きている間も、食べるものや暮らす場所を選び、文明の力で自然の制約から離れてきました。いやもちろん、人間が歩んできた道を否定したいわけではありません。
ただ、同じ自然界に生まれたはずの人間だけが、なぜこの連鎖から外れたような生き方をしながら、それでも世界の中で生き続けられるのでしょう。深海でほかの命を支え続けるクジラの骨を知ると、人間という生き物の異質さが、奇妙に思えてなりません。
