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嫁と、背中のこぶと、中国の病院と、塗り薬と

嫁の背中、肩甲骨に近いところに、ぷっくりと大きなこぶができた。

もともと小さいデキモノのような腫れがあったところだけど、小さい頃からあるものだから、ということで嫁自身は気にしていなかった。

しかし最近になってどうやらそこが炎症を起こしたらしく、腫れがみるみるうちに大きくなり、赤みを伴うようになった。ついにはじんじんと痛むようになってきたという。場所が場所なだけに、仰向けになると腫れた部分が抑えつけられて痛くてたまらず、夜眠ることにさえ支障が出てきた。

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こりゃいかんということで、病院にかかることにした。中国では病院の等級が分けられていて、僕の住むところから一番上の等級である三甲医院まではバスで一時間ほどかかる。面倒だが行くしかない。

スマートフォンから医者の予約をする。この予約のことを中国では「挂号」という。かつてはこの「挂号」のために深夜早朝から病院の前に並び、病院が開くと同時に西宮神社の福男レースばりに大量の人が受付に猛ダッシュするような光景もみられたという。そうしなければ番号が取れず、医者に診てもらえないからだ。テクノロジーの進化に心底から感謝したい。

バスに揺られて病院に到着し、予約した医者の部屋の前で待つ。部屋の前に電光掲示板が置かれていて順番が表示されているが、遅々として進まない。予約したはずの時間はとうに過ぎたのに、まだ5人も手前で待たされている。まあそんなもんだろう。焦ってはいけない。

しかし待ちに待って診てもらった医者は、お世辞にもしっかりした態度の医者とは言えなかった。こちらの話もロクに聞かずに「そんなもん切ったらええねん」としか言わない。関西弁なのは僕の翻訳の匙加減だけど、とにかく横柄なのだ。そしてやたらと手術を勧めてくる。

どうにも納得がいかなかった僕たち夫婦は、別の病院の別の医者に診てもらうことにした。日を改め、これまた家から別方向に離れた病院。たかだか背中の腫れ物のせいで、こんなに振り回されるとは。

次にかかった医者はちゃんと話を聞いてくれた。そして穏当に「飲み薬と塗り薬を出すから、それで様子を見て改善しないようならまた来なさい」という話になった。信用して良さそうに思えた。なんでも主任クラスの偉い医者らしい。ちなみに最初の医者の挂号にかかる費用は15元(約240円)、今度の医者は80元(約1300円)だ。世の中はそういうふうにできている。

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そんなわけで薬をもらってきたのだが、その日から始まった習慣がある。

それは嫁の背中に朝晩2回、僕が薬を塗ってあげる時間ができたことだ。

こぶは背中にあるが、肩に近いところなので嫁が自分で塗ろうと思えばできないことはない。それでも、毎回僕に頼んでくる。僕に塗ってほしいのだという。正直本を読んでいたり、仕事をしている時だったりするので、面倒でないといえば嘘になる。というか明確に面倒だ。自分で塗ればいいじゃん、と思う。しかし、断るとものすごく不機嫌になるのでそうもいかない。

嫁の背中に向き合い、シャツをたくしあげ、こぶと対面する。チューブを軽く握り、グリース状の薬を指に取る。適量はよくわからないが、嫁は「たくさん塗って」というので多めにしておく。塗り薬なんだから多かろうが少なかろうがあんまり変わらないと思うんだけど。

嫁はこの時間が大好きで、楽しみでたまらないらしい。「治らなくてもいいかもしれない」などとまで言い出す始末だ。おいおい、そんなわけにはいかないだろう。また寝られなくなるよ、と言ってみると、「あなたが一晩じゅう背中の下に手を置いて、支えてくれればいい」とよくわからないことを言う。それじゃ根本的な解決になってないよと思うが、これ以上無粋なことを言ってもしょうがないので聞き流す。

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ここ数日は僕も心得たもので、適当な時間になると「薬、塗ってあげようか」と自分から言うことにしている。そうすると嫁は本当に、子供のような屈託のない笑顔で喜ぶ。

わざわざ自分から言い出すのは作業を中断されるよりマシだという打算が働いていることもあるのだけど、やはり僕自身も少なからずこの時間を楽しみしているということでもあるのだろう。

少しずつ小さく、赤みも薄くなっていくこぶを見て、なぜだか一抹の寂しさを感じてしまうことが、それを証明している。

まあ、そんな気持ちは一過性のものだ。もし治ってしまえば、こぶがあったことなど綺麗さっぱり忘れて、また別の楽しくなれることがすぐに見つかる。忌々しいこぶなど、さっさと治してしまおう。

そうやって、また薬を多めに手に取る。

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