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パロディだが、それがいい / 「ブリジット・ジョーンズの日記」

ラブコメと呼ばれる分野は実に根強い人気がある。世界中の女は、なんだかんだ、ラブコメが好きなのだ。もちろん僕は大のコメディ好きだが、ラブの要素は別に無くても構わない。ちなみに、ラブコメディとは和製英語であり、英語ではロマンティック・コメディ(romantic comedy)と表現する。
「ロード・オブ・ザ・リング」の第1作が公開された年の春、つまりアメリカ同時多発テロ事件の半年前に「ブリジット・ジョーンズの日記」は発表された。このロマンティック・コメディは1996年に刊行された小説が原作であり、著名な脚本家であるリチャード・カーティスが台本を担当している。カーティスといえば「Mr.ビーン」の他にも「フォー・ウェディング」や「ノッティングヒルの恋人」「ラブ・アクチュアリー」などの脚本を担当するラブコメの名手である。
「ブリジット・ジョーンズの日記」という映画は、カーティスによる1994年の映画「フォー・ウェディング」のリミックスのようにも見えるが、要するにジェーン・オースティンの小説『プライドと偏見』の翻案である。パロディだ。

『プライドと偏見』で高い知性と意志を体現していたリジーことエリザベス・ベネットは、ロンドンの出版社で働く"ダメ女"のブリジット・ジョーンズ(レネイ・ゼルウィガー)として転生している。フィッツウィリアム・ダーシーはマーク・ダーシー(コリン・ファース)となり、ウィカム氏はダニエル・クリーヴァー(ヒュー・グラント)である。劇中でもいくつかのシーンにおいて『プライドと偏見』の筋書きをオマージュしている。そもそも、ミスター・ダーシー(Mr. Darcy)という名を聞けば日本人はともかく欧米の観客の多くは『プライドと偏見』を思い出す。
さて、このような古典のパロディが今日の観客に大いに受け入れられる理由は、古典として語り継がれる作品はそれだけ物語としての完成度が高いということの証左である。岩波文庫や新潮文庫に収録されているような19世紀の"文学"なんて、と敬遠されてしまうものの、そこには現代と変わらぬ人々の愛や苦悩が表現されている。僕はよくいろんな人に「古典を読め」と勧めているが、それは別にインテリを気取るためではなく、流行の文学のほとんどは古典から派生したものだからだ。人気の創作料理レストランに行く前に、まず美味しい和食やイタリアンを食べた方が良いと推薦しているようなものだ。
「ブリジット・ジョーンズの日記」が成功した秘訣は、明らかに主人公ブリジットのお蔭である。『プライドと偏見』のリジーのように強気で、世の価値観に抗う女ではなく、酒を大量に飲んでワガママ・ボディの、どこにでもいそうな女(girl next door)として造形したことにより、共感を得やすい登場人物となった。また、レネイ・ゼルウィガーであったことも功を奏しただろう。ケイト・ウィンスレットは当時24歳であり、若すぎるという理由で役を得られなかった。また、レイチェル・ワイズも起用されそうになったものの、ブリジットを演じるには"美しすぎる"と見送られたそうだ。レネイは体重を増やし、イングランドのアクセントをほぼ完璧に模倣するほど熱心に演じていた。32歳で独身のダメ女、という設定は、世の中がかなり"柔らかく"なってきた昨今、やや通用しにくくなっているかもしれない。というのも、32歳で独身の女なんて別に珍しくもないし、そもそも結婚という制度そのものも、以前のように義務のごとく受け止められていない。
なお、ブリジットの人気は続き、先月にはシリーズ最新作「ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今」が公開されている。僕は「ブリジット・ジョーンズの日記」の2年後に公開された「ラブ・アクチュアリー」の方が好きだが、こういうドジな女のコメディもたまには悪くない。

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