「ぬ」の引力圏
この世界には、不用意に近づくと二度と戻ってこられなくなる「危険地帯」が存在する。
バミューダトライアングル、富士の樹海、そしてひらがなの「ぬ」だ。
皆さんは「ぬ」という文字を直視したことがあるだろうか。 改めてよく見てほしい。
$${\hugeぬ}$$
異常だ。どう考えても異常な形状をしている。
他のひらがなを見てほしい。「く」や「し」の潔さはどうだ。彼らはスマートだ。己の役割を理解し、最低限のインク消費で音を表している。「あ」や「お」でさえ、多少の複雑さはあれど、そこには「文字としての品格」がある。
しかし、「ぬ」は違う。やってる。
$${\hugeぬ}$$
後半のあの巻きはなんだ。完全にふざけている。
一画目の斜線まではいい。「め」と同じスタートだ。「め」はそこで慎ましく終わる。しかし「ぬ」は、そこから執拗に粘る。ぐにゃりと曲がり、あろうことか最後にもう一度、自分自身の尻尾を結ぶように丸まるのだ。
なぜ結んだ? そこで結ぶ必要がどこにあった?
$${\hugeぬ}$$
私はこの「ぬ」の末尾の丸まりを見るたびに、底知れぬ恐怖を感じる。ブラックホールだ。書道で「ぬ」を書くとき、筆があの丸まりに差し掛かった瞬間、手首に強力なGを感じたことはないか? 私はある。あのループは、書き手の意識を文字の中に閉じ込めようとする「罠」なのだ。
試しに、頭の中で「ぬ」を連続して書いてみてほしい。
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ほら見ろ! ゲシュタルトが崩壊するどころの騒ぎではない。眼球が「ぬ」の軌道を追いかけるうちに、脳のしわまで「ぬ」の形にねじ切れていく感覚に襲われるはずだ。
これは呪術だ。
平安の昔、言葉に霊力が宿るとされた時代に、あまりにも強力すぎる念を封じ込めるために、先人はあえて文字の最後を結んだのだ。
私は今日、不用意に「ぬ」について考え始めてしまったせいで、午前中の業務がすべて手につかなくなった。PCのキーボードの「1」のキー(「ぬ」が割り当てられている)を押すたびに、指先から魂が吸い取られていくような錯覚に陥っている。
もし、私が明日から失踪したとしたら、それは「ぬ」の結び目の中に吸い込まれてしまったと思ってほしい。
ニーチェはこう言った。
wenn du lange in einen Abgrund blickst "ぬ", blickt der Abgrund auch in dich hinein.
「"ぬ"の深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」

あ~~~~~~~~~!!!!!! こわいこわいこわい!!!!
もう寝る! 「ヌ」! カタカナの「ヌ」なら鋭角で安全だから! もう「ヌ」しか使わない!!
じゃあヌ!!
今週の踊る!ヒット賞
マーサ・ヌスバウム、モンドセレクション最高金賞のお菓子すぎる


ヒィ
