花を咲かせる前に、土を育てる

今月から、いよいよ4年に一度のワールドカップが開幕する。にわかファンの私も今からとても楽しみだ。ここ数日、テレビでも日本代表の特集をよく目にするようになった。
そんな中で、ふと思い出したのが「ドーハの悲劇」だった。
1993年。
日本が初めてワールドカップ出場に手をかけながら、試合終了間際に夢を絶たれたあの試合だ。当時私は中学生だった。クラスの仲間たちと予選リーグの結果に一喜一憂し「今日勝てばワールドカップだ!明日は、ワールドカップ出場が決まって、みんなと喜び合うのが楽しみ!」と興奮しながら家に帰った。
しかし結果は、多くの人が知る通りだった。
漫画でも見たことがないような結末。
翌日学校へ行くと、クラス全体がお通夜のような雰囲気だった。
先生たちですら元気がなかったことを今でも覚えている。
あれから30年以上が経った。
当時の日本は、ワールドカップに出場できるかどうかが大きな目標だった。それが今では、出場は当たり前のように語られ、世界の強豪国を相手に堂々と戦い、さらには優勝を目指すと口にできるまでになった。
冷静に考えると、とてつもない変化だと思う。
もちろん、この30年で日本人の身体能力が劇的に向上したわけではない。
では、何が変わったのだろうか。
すそ野を広げる
先日、ご縁をいただき、県サッカー協会が主催する講習会に参加してきた。その中で、サッカー協会が大切にしていることの一つが、サッカーのすそ野を広げることだと聞いた。
「子どもたちにサッカーの楽しさを伝える」
はじめから上手くなることや日本代表を目指すことを考えなくていい。
まずはサッカーの楽しさに触れてほしい。
「サッカーは誰でも楽しめる」
キッズからシニアまで。健常者だけではなく、障がいのある方も、それぞれのルールの中でサッカーを楽しめる。
また、選手だけではなく、応援する人も、審判として関わる人も、指導者として携わる人も、サッカーという文化そのものを、多くの人が楽しめるように設計されているのだ。
裾野が広がれば、頂点も高くなる。
日本サッカーは、その考え方を愚直に続けてきたのだと思う。
技術は共有されてこそ伸びる
講習会で印象的だったのは、技術や知識を囲い込まない姿勢だった。
各チームが独自に努力するだけではない。カテゴリーごとに研修会が開催され、チームの垣根を越えて技術や知識を共有している。
さらに、指導者に対する研修も非常に充実している。
練習方法。
選手との接し方。
年代ごとの育成方法。
また、サッカーを教える人を育てる仕組みまで整備されている。
良い選手を育てる前に、良い指導者を育てる。
そんな考え方が根付いているように感じた。
文化として根付かせる
日本には数え切れないほどのサッカーチームがある。
少年団もあれば、中学、高校、大学、クラブチーム、Jリーグ、シニアチームもある。
それぞれが独立して活動しているように見えるが、その根底にはサッカー協会という大きな土台がある。
選手を引退した後には指導者の道があり、指導者になるための学ぶ仕組みがある。そして、学んだ人が次の世代を育てる。育った選手がまた次の世代を支える。
サッカーを一過性のブームではなく、文化として根付かせる仕組みが作られているのだ。
スター選手を育てたのではない
私が子どもの頃の日本サッカー界のスターといえば三浦知良選手だった。
カズがいて、日本中が熱狂した。そしてその後、中田英寿選手が現れた。さらに小野伸二選手、高原直泰選手、稲本潤一選手らの「ゴールデンエイジ」が続いた。
しかし、日本サッカーはそこで終わらなかった。
本田圭佑選手、長谷部誠選手、香川真司選手が現れ、今では久保建英選手や三笘薫選手をはじめ、世界のトップレベルで活躍する選手たちが次々と生まれている。
もしこれが偶然で、たまたまスター選手がいたのなら、どこかで途切れていたはずだ。しかし実際には、時代ごとに新たなスターが現れ続けている。
それは、優れた選手が育つ土壌が作られている証拠なのだと思う。
目立つのはスター選手だ。
しかし、本当にすごいのは、そのスター選手を生み出し続ける仕組みだと思う。
花を咲かせる前に
私たちはどうしても結果に目を奪われる。
ワールドカップで勝った。海外リーグで活躍した。優勝した。
けれど、その結果の裏には何十年にもわたる積み重ねがある。
サッカー協会がやってきたことは、スター選手を探すことではなかった。
スター選手が育つ土壌を作ることだった。
目立つ花を育てるのではなく、まず土を育てた。その土づくりを何十年も続けてきた。だから今、日本サッカーは世界と戦える。
これはサッカーだけの話ではないと思う。
会社もそうだ。
目の前の成果を求めることは大切だ。
しかし、本当に大きな成果は、一朝一夕には生まれない。
人を育てる。環境を整える。挑戦できる空気をつくる。学び続けられる仕組みをつくる。
そんな地道な積み重ねが、何年後、何十年後かに大きな花を咲かせるのだと思う。
今回の講習会に参加して感じたのは、日本サッカーの強さではない。
その強さを生み出し続ける土壌の強さだった。
そしてそれは、私たちの仕事や人生にも通じる大切なことなのだと思う。
最後までお読みいただきありがとうございます。
